上 下
18 / 87

18話

しおりを挟む
 週末の休み。瑠華と奏の姿は実地試験を行った東京第三ダンジョンにあった。

「じゃあ配信するね?」

「そこまで人が来るかのう?」

 ダンジョン配信は母数が多い。その為日の目を見ないチャンネルなど五万とあるという事くらいの常識ならば、普段配信を見ない瑠華も知っている。

「それがねぇ…今登録者何人いると思う?」

「この前配信しただけじゃろう? …百人程度かの?」

 奏は身内である瑠華から見ても容姿が整っており、人を集め易い。だがそれでも百人程度集まれば御の字だろうと思う。

「ブッブーっ! 正解は…なんと三千人でした!」

「ほう…酔狂な者も居るものじゃな」

 :どうも酔狂な者です。

「あ、瑠華ちゃんが変な事言うからぁ」

 奏がスマホの画面に映ったコメントを瑠華へと向ける。

「…すまぬ」

 :素直に謝れて偉い!
 :今日はダンジョン配信?

「そうです。まぁ初心者なのでFランクダンジョンですけど」

 :段階踏むのは大事よ。
 :俺もFランクで経験積んだからな。最初は大事。
 :ワイ、ダンジョン適性無い組。悲しい。

「ダンジョン適性がなくて潜れない人も楽しめるよう、頑張りますね!」

 :健気。
 :なんか瑠華ちゃんが変な顔してるwww

「ん?」

 妙なコメントが流れ奏が瑠華へと目線を向けると、確かに何やら引いた様子の瑠華が居た。

「どうしたの?」

「……敬語の奏が珍し過ぎての」

 :成程www
 :確かに奏ちゃん元気っ子な感じするから、敬語違和感なのは分かるかも。

「敬語止めた方がいい…?」

「いや、奏の好きな様にすれば良いじゃろう。これは本人の意識次第じゃからのう」

「うぅん……なら止める! なんか私も距離があってヤだったし!」

 :草。
 :まぁ親しみ易くはなるよね。

 コメントも概ね好印象である事を確認すると、いよいよダンジョンの中へと潜る。

「一週間ぶりだね」

「感は衰えてないかのう?」

「そう簡単に衰えないよっと」

 曲がり角から現れたスライムを一刀で切り捨てる。以前ダンジョンに潜った際は全て全力で刀を振っていたが、今では緊張が無くなったのか無駄な力が抜けていた。

 :奏ちゃんが刀で瑠華ちゃんが薙刀…和風コンビ?
 :着物着たら似合いそう。
 :それな! 得に瑠華ちゃんに着て欲しい! 口調からして似合いそう!

「あ、それ分かるかも。瑠華ちゃん何時もワンピばっかだけど、綺麗な服似合いそう」

「着んぞ」

「えぇ~! じゃあじゃあ私がプレゼントしたらどう?」

「……まぁ、無下にはせんが」

 :ツンデレだ!
 :∑(°∀°)コレハァ!! (・∀・)イイ!!
 :あらー。

 瑠華から言質を取った奏の脳裏に浮かんだのは、以前瑠華と買い物に行った時にみた着物の装備。

(五百万…頑張ってみようかな)
  
 ただでさえ普段から瑠華のお世話になっている自覚がある奏は、恩を返すには良い機会だと思った。

「取り敢えず今の目標は二十万稼ぐ事だっけ?」

「奏が言った【白亜の庵】に泊まるのであれば、追加で五万程は欲しいのう」

 :旅行費用そんな掛かるんだ?

「まぁ【柊】は十一人居るからね」

 雑談もそこそこに歩みを進める。今の所スライム程度ならばスマホ片手にコメントを確認しながらでも問題は無いが、これからはそうもいかない敵ばかりだろう。現に奏が普段見ている配信者は、スマホを逐一確認したりなどはしていない。

「他の配信者の人ってスマホ見てない気がするけど、どうやってるのかな?」

 :あれは専用のコンタクトレンズしてるらしいよ。
 :結構高い。でも普段使いもできて便利。

「へぇ、そんなのあるんだ」

「視界に直接的映し出すという事じゃろうな。確かに手は塞がらんし、便利ではあるじゃろうが……邪魔にもならんかの?」

 :切り替えは出来るらしい。

 視界にちらちらコメントが映っていると集中出来なくなるのでは無いかと思ったが、どうやらそこはしっかりとケアされているらしい。

「……ねぇ瑠華ちゃん」

「なんじゃ?」

「…スマホ見てないよね?」

「……まぁ、頑張れば見えるからの」

「普通頑張っても見えないからね!?」

 :なんだなんだ?
 :あっ、確かに瑠華ちゃんスマホ見てないのにコメントに反応してる!
 :一人だけコンタクトしてるんじゃ?

「コンタクトは…してないね?」

「そも配信に興味など無かったのじゃから、買っている訳がなかろう」

「だよねぇ…」

 :え、つまり裸眼でコメント見えてるの?
 :いやいや有り得んだろwww

「浮遊カメラの通信には魔力が用いられておるからの。そこに干渉して情報を抜き取る程度ならば造作もない」

「自分の言ってる事の非常識さ自覚してね?」

 :ほんそれ。
 :魔力情報に干渉…出来るん?
 :出来なくは無いらしい。ただし情報量で脳が死ぬからほぼ無理だとか何とか。
 :つまり瑠華ちゃんの脳がスパコン並ってコト!?

「…まぁいいや。瑠華ちゃんに関しては諦めも大事だし」

「非常に不本意なのじゃが」

 :幼馴染も匙を投げる不思議ちゃんwww
 :見た目的に不思議ちゃん感はある。
 :現世うつしよの存在じゃないと言われても納得出来る。
 :人間じゃなかったりして。

「瑠華ちゃんは正真正銘人間の女の子だよ。それは間違えないで」

 コメントの流れから奏が真剣な声色で忠告する。瑠華が人間でないと言われる事は、奏にとって最も嫌悪する事だ。

 :ゾワッてした…
 :奏ちゃんの逆鱗かこれ。
 :分かったな。これ以上言うな。
 :把握。

「瑠華ちゃんごめん」

「奏が謝る事ではなかろう。妾もそう呼ばれる事は慣れている」

「慣れの問題じゃない。瑠華ちゃんにそんな言葉を聞いて欲しくも見て欲しくもないの」

 かつて奏の見えない所で、瑠華が化け物と呼ばれ虐めを受けていた事があった。無論瑠華にとってはそんな事気に病む程の物でもないが、奏は違った。

(私のせい。私が、瑠華ちゃんを傷付けたようなものだから)

 瑠華が人の輪に入れるようにと奏は動いた。だがその結果、瑠華の異常性が露わになってしまったのだ。

 人の感情で最も御し難いのは、恐怖だ。

「……奏」

「瑠華ちゃん…」

「奏は阿呆じゃの」

「瑠華ちゃんっ!?」

「その程度の事で妾が折れると? 少々見くびりすぎではないかのう?」

「だって…っ」

「配信をした事が原因だと思っておるのならばそれは間違いじゃ。妾は妾の意思でここにおる。それを忘れるでない」

 俯いてしまった奏の頭をポンポンと叩き、カメラに向き直る。

「放置して済まぬのう」

 :いえ全然っ!
 :寧ろ俺たちは空気なので気にしないで下さい!
 :俺たちはただ見守るだけなんで…
 :もっと下さい!

「う、うむ? よく分からぬが…ほれ奏。時間は有限なのじゃ。先を急ぐぞい」

「あ…うんっ!」

 :てぇてぇ
 :てぇてぇなんだよ…
 :あぁ…瑠華ちゃんが無知っぽいのもいい…
 :お互い無自覚。だがそれがいい!

 コメントの空気感を瑠華は理解出来なかったが……まぁ楽しそうなのは良い事だと思うのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

出会った番(つがい)は同性でした

恋愛
竜人族のカミラはある日番(つがい)に出会う。相手は旅行に来ていた人族の女の子。 美形が多い竜人族の中でも飛び抜けた容姿の持ち主で、興味のない相手には無表情が基本な竜人族の女性が人違いかと思われるくらい、人族の女の子(番)をでろっでろに甘やかすお話。 *視点の切り替えがあります。 *鬱展開はありません。 *小説家になろうからの転載です

追放されてから数年間ダンジョンに篭り続けた結果、俺は死んだことになっていたので、あいつを後悔させてやることにした

チドリ正明@不労所得発売中!!
ファンタジー
世間で高い評価を集め、未来を担っていく次世代のパーティーとして名高いAランクパーティーである【月光】に所属していたゲイルは、突如として理不尽な理由でパーティーを追放されてしまった。 これ以上何を言っても無駄だと察したゲイルはパーティーリーダーであるマクロスを見返そうと、死を覚悟してダンジョンに篭り続けることにした。 それから月日が経ち、数年後。 ゲイルは危険なダンジョン内で生と死の境界線を幾度となく彷徨うことで、この世の全てを掌握できるであろう力を手に入れることに成功した。 そしてゲイルは心に秘めた復讐心に従うがままに、数年前まで活動拠点として構えていた国へ帰還すると、そこで衝撃の事実を知ることになる。 なんとゲイルは既に死んだ扱いになっており、【月光】はガラッとメンバーを変えて世界最強のパーティーと呼ばれるまで上り詰めていたのだ。 そこでゲイルはあることを思いついた。 「あいつを後悔させてやろう」 ゲイルは冒険者として最低のランクから再び冒険を始め、マクロスへの復讐を目論むのだった。

 女を肉便器にするのに飽きた男、若返って生意気な女達を落とす悦びを求める【R18】

m t
ファンタジー
どんなに良い女でも肉便器にするとオナホと変わらない。 その真実に気付いた俺は若返って、生意気な女達を食い散らす事にする

チュートリアル場所でLv9999になっちゃいました。

ss
ファンタジー
これは、ひょんなことから異世界へと飛ばされた青年の物語である。 高校三年生の竹林 健(たけばやし たける)を含めた地球人100名がなんらかの力により異世界で過ごすことを要求される。 そんな中、安全地帯と呼ばれている最初のリスポーン地点の「チュートリアル場所」で主人公 健はあるスキルによりレベルがMAXまで到達した。 そして、チュートリアル場所で出会った一人の青年 相斗と一緒に異世界へと身を乗り出す。 弱体した異世界を救うために二人は立ち上がる。 ※基本的には毎日7時投稿です。作者は気まぐれなのであくまで目安くらいに思ってください。設定はかなりガバガバしようですので、暖かい目で見てくれたら嬉しいです。 ※コメントはあんまり見れないかもしれません。ランキングが上がっていたら、報告していただいたら嬉しいです。 Hotランキング 1位 ファンタジーランキング 1位 人気ランキング 2位 100000Pt達成!!

大好きな母と縁を切りました。

むう子
ファンタジー
7歳までは家族円満愛情たっぷりの幸せな家庭で育ったナーシャ。 領地争いで父が戦死。 それを聞いたお母様は寝込み支えてくれたカルノス・シャンドラに親子共々心を開き再婚。 けれど妹が生まれて義父からの虐待を受けることに。 毎日母を想い部屋に閉じこもるナーシャに2年後の政略結婚が決定した。 けれどこの婚約はとても酷いものだった。 そんな時、ナーシャの生まれる前に亡くなった父方のおばあさまと契約していた精霊と出会う。 そこで今までずっと近くに居てくれたメイドの裏切りを知り……

百合ゲーの悪女に転生したので破滅エンドを回避していたら、なぜかヒロインとのラブコメになっている。

白藍まこと
恋愛
 百合ゲー【Fleur de lis】  舞台は令嬢の集うヴェリテ女学院、そこは正しく男子禁制 乙女の花園。  まだ何者でもない主人公が、葛藤を抱く可憐なヒロイン達に寄り添っていく物語。  少女はかくあるべし、あたしの理想の世界がそこにはあった。  ただの一人を除いて。  ――楪柚稀(ゆずりは ゆずき)  彼女は、主人公とヒロインの間を切り裂くために登場する“悪女”だった。  あまりに登場回数が頻回で、セリフは辛辣そのもの。  最終的にはどのルートでも学院を追放されてしまうのだが、どうしても彼女だけは好きになれなかった。  そんなあたしが目を覚ますと、楪柚稀に転生していたのである。  うん、学院追放だけはマジで無理。  これは破滅エンドを回避しつつ、百合を見守るあたしの奮闘の物語……のはず。  ※他サイトでも掲載中です。

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

処理中です...