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11話

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「……ん。朝じゃの」

 瑠華の朝は早い。そして起きて最初にする事は、自身に抱き着く奏をひっぺがす事である。

 少々乱暴にしつつも怪我はさせないよう手を解くと、テキパキと準備を済ませていく。
 瑠華は睡眠が本来必要では無い為に、寝ぼけるという事もないのだ。

 着替えを済ませて部屋を出る。まだ日が昇り始めたばかりなので、廊下は少し薄暗い。

 因みに瑠華達が過ごすこの【柊】は二階建ての建物となっており、瑠華達の部屋は全て二階にある。

 階段を降りて向かうは洗面台。朝には皆が一堂に会する場所だが、今は瑠華しかいない為にゆったりと使える。
 顔を洗って口をゆすぎ、鏡で軽く身嗜みを整える。元よりアホ毛とは縁のない瑠華なので、軽く手櫛を通すだけで髪は整う。

「うむ」

 満足気に頷いて次に向かうのはキッチンだ。基本的に朝食の準備は瑠華が担当している。

「今日は休日じゃしのぅ…」

 今日は月曜日だが祝日なので休みだ。何も無い子供達は恐らく起きては来ないだろうが、それでも朝食を必要とする者も居る。
 普段準備する量を減らす上で、何人起きて来そうかを予想する。

「四人は部活があったのう。他は…分からぬ」

 まぁそもそもそこまで凝った朝食を作るつもりなど無いので、追加が来ても問題は無いだろうと思う。

 冷蔵庫から卵とベーコン、トマト、レタスなどを取り出して並べ、先ずはサラダから作り始める。その間に昨日の残り物であるオニオンスープを温めておくのを忘れない。

「おはよぉ…」

「うむ、おはよう。今日は早いのう」

「大会近い、から…ふぁぁ…」

「顔を洗って来ると良い。すぐ朝餉は出来るのじゃ」

「わかったぁ…」

 寝ぼけ眼で起きてきた子を洗面台へと促し、その他にも階段を降りてくる音が瑠華の耳に届く。

「五人…? まぁええじゃろう」

 予想していた人数よりも多いが、まぁ問題無い。

「大会、か…少し量を増やそうかのぅ」

 サラダとオニオンスープ、パンにベーコンエッグ。それが今日の朝御飯の献立であったが、一品追加しようと考える。

 何を作ろうかと思いながら冷蔵庫を覗き込むその姿は、元龍だとはもう到底思えない。……本人もちょっと忘れてそうである。

「……ミニオムレツかの」

 卵被りではあるが、育ち盛りだし問題なかろうと瑠華は思う。

 チーズと卵を追加で取り出して早速作り始める。すると少しして洗面台から子供達が戻って来た。

「瑠華お姉ーちゃんおはよ」

「おはよう。今日は早いのう?」

 最初に話し掛けてきたのは、瑠華が起きてくるとは予想していなかった子。瑠華の記憶が正しければ、今日は特に用事が無かった筈だ。

「んー…」

「おっと…どうしたのじゃ?」

 突然後ろから抱き着かれ、瑠華が調理の手を止める。

「昨日居なかったから…ほじゅー」

「あっ、私もっ!」

 何やら補充したいらしい子はまだ居たらしく、二人ほど追加で瑠華へと抱き着いてくる。

「これ。調理が出来んじゃろう」

「もうちょっとだけ…」

「何時もかなねえばっかり狡いもん」

「狡いも何も無いじゃろうて…朝餉は要らんのかえ?」

「「「要る」」」

「なら大人しく居間で待っておれ。…あぁいや、サラダを運んでくれるかのう」

「りょ」

 漸く抱き着いていた子達が離れ、瑠華が柔らかい笑顔を浮かべてサラダを運ぶ子達を見る。

(好かれたものじゃのぅ…)

 同年代からは主に口調の所為で何かと距離を取られがちな瑠華ではあるが、何故か歳下の子達からは良く好かれるのだ。

「瑠華お姉ちゃん次は?」

「ならパンを焼くのと…スープも頼もうかの」

「分かった」

 瑠華の指示でテキパキと動く子達を後目に、瑠華もチーズオムレツとベーコンエッグを手早く仕上げていく。

「ほい。これもじゃ」

「豪華~」

「大会が近いそうじゃからの」

 メインの料理が届くと、元気の良い頂きますがダイニングから聞こえた。

「瑠華お姉ちゃんは食べないの?」

「妾は後じゃよ」

「…かな姉待つの?」

「そうじゃの。まぁ今日は昼頃じゃろうが」

 ただでさえ昨日スキルを発現したのだ。昼頃まで熟睡していても不思議は無い。

「じゃあ暇?」

「片付けがあるが…まぁ暇じゃの。それがどうかしたかの? 凪沙なぎさ

 その言葉を聞いて彼女──凪沙が嬉しそうに微笑んだ。

「じゃあ今日、瑠華お姉ちゃんの時間が欲しい」

「妾の?」

「お買い物。一緒にしたい」

「ふむ…まぁ良いか。他にする事も無いしのう」

「やった!」

 それはもう心底嬉しそうに跳ねる凪沙を見て、そこまでかと瑠華は首を傾げた。

「ほれ、冷めてしまうぞ」

「あっ」

 凪沙を居間へと送り返すと、瑠華は調理器具の後片付けを始める。瑠華が朝食を用意する時間は決まっているので、それを越えた時間に起きて来た場合は各々が作る事になっている。

「買い物のぅ…何か買うものはあったじゃろうか?」

 その時に瑠華の頭に浮かぶのは、【柊】で使う備品や料理に使う調味料類などである。……意外と人間に馴染んでいる瑠華であった。染まったとも言う。

「朝餉は…何か摘むかのう」

 正直な話、数日食べなくとも問題はさして無い。流石に飲まず食わずは身体がこけてしまうが。
 今の瑠華は以前とは違い、血が流れる肉体を持っているのだから。

「瑠華お姉ちゃんもちゃんと食べて」

「う、む…見ておったのか」

「瑠華お姉ちゃん何時もそうだから」

「よく見ておるのぅ…」

 凪沙に見られてしまっては、適当に朝食を摂る事は出来そうにない。仕方が無く食パンを取り出して表面にマヨネーズ、ハムを乗せてオーブンへ。

「バランスぅ…」

「…サラダも食べれば良かろう」

 自分よりも歳下の子に食生活を心配される元龍とは一体……。





  
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