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最終章
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「こっちかな……?」
聞こえ続ける声だけを頼りに、薄暗い森の中を進んでいく。
最初は風の音にさえ掻き消されてしまうほどの声だったが、今ではよりハッキリと聞こえるようになった。それだけ近付いている証拠だろう。
『……ナイ』
「え…?」
その時。突然、明確に言葉と判断できる声がクーリアの耳へと入ってきた。
(なんだか…このまま進んじゃダメな気がする)
戻れなくなる。そうクーリアは直感した。
聞こえた言葉に含まれていた感情は……憎悪。
光すらも通さない、深い闇。
(何故……)
無論、その理由をクーリアは知りはしないだろう。だが……その感情を何故か、クーリアは知っていた
「わたしは……誰? あなたは、一体……」
思わずそう呟く。その声は震え、薄暗い森の中へと吸い込まれた。
『……オイデ』
「っ!?」
明確に、クーリアを呼ぶ声。その言葉に、逆らえなかった。
クーリアの意志とは関係なく、足が進む。まるで、誰かに手繰り寄せられているかのように。
「っ」
クーリアは魔導銃を引き抜く。そして自分が向かっている方向へと引き金を引いた。
「当たった…?」
もとより見えない相手に撃ち込んだ為、当たったかどうかすら分からない。だが、引き寄せられる力は弱まり、クーリアは立ち止まることが出来た。
「なんだったの…」
引き寄せられる力は完全に無くなった訳では無い。つまり倒せてはいない。
『…ナイ。…ユルサナイッ!』
「っ!?」
ぶわりと身の毛がよだつ。深い憎悪とともに、強い敵意をその身に浴びた。
だが、それらの感情はクーリアに対して向けられたものでは無いようだ。
(……止めないと)
クーリアはその気持ちに駆られた。何に対しての憎悪と敵意であるかは不明だが、止めなければ大変なことになるのは目に見えていたからだ。
「すぅー…はぁー…」
深く息を吸い、吐く。
魔導銃に次弾を装填する。本能的に魔導銃が効く相手ではないと理解していたが、それでも、だ。
(…自分って何なんだろう)
こうして声を聞くことも。本能的に効かないと感じることも。普通の人間ではない。
「…まぁ、もうどうでもいいか」
既にクーリアは、自身の命が風前の灯であることを理解していた。明日まで生きることは、もはや叶わない。ならば、自分が何者なのかを知る必要は、最早ない。
死にたくはない。クーリアも、昨日までは諦めていなかった。だが、もうどうしようもないのだ。
「…あ。リーヴォどうしよう…サラが飼ってくれるかな」
家に残してきたリーヴォを心配する。帰ることは、叶わないから。
「…ごめんなさい」
小さな謝罪は、森に消える。
クーリアが走り出す。
決して振り返ることなく。
その後ろに、光る雫だけを残して。
聞こえ続ける声だけを頼りに、薄暗い森の中を進んでいく。
最初は風の音にさえ掻き消されてしまうほどの声だったが、今ではよりハッキリと聞こえるようになった。それだけ近付いている証拠だろう。
『……ナイ』
「え…?」
その時。突然、明確に言葉と判断できる声がクーリアの耳へと入ってきた。
(なんだか…このまま進んじゃダメな気がする)
戻れなくなる。そうクーリアは直感した。
聞こえた言葉に含まれていた感情は……憎悪。
光すらも通さない、深い闇。
(何故……)
無論、その理由をクーリアは知りはしないだろう。だが……その感情を何故か、クーリアは知っていた
「わたしは……誰? あなたは、一体……」
思わずそう呟く。その声は震え、薄暗い森の中へと吸い込まれた。
『……オイデ』
「っ!?」
明確に、クーリアを呼ぶ声。その言葉に、逆らえなかった。
クーリアの意志とは関係なく、足が進む。まるで、誰かに手繰り寄せられているかのように。
「っ」
クーリアは魔導銃を引き抜く。そして自分が向かっている方向へと引き金を引いた。
「当たった…?」
もとより見えない相手に撃ち込んだ為、当たったかどうかすら分からない。だが、引き寄せられる力は弱まり、クーリアは立ち止まることが出来た。
「なんだったの…」
引き寄せられる力は完全に無くなった訳では無い。つまり倒せてはいない。
『…ナイ。…ユルサナイッ!』
「っ!?」
ぶわりと身の毛がよだつ。深い憎悪とともに、強い敵意をその身に浴びた。
だが、それらの感情はクーリアに対して向けられたものでは無いようだ。
(……止めないと)
クーリアはその気持ちに駆られた。何に対しての憎悪と敵意であるかは不明だが、止めなければ大変なことになるのは目に見えていたからだ。
「すぅー…はぁー…」
深く息を吸い、吐く。
魔導銃に次弾を装填する。本能的に魔導銃が効く相手ではないと理解していたが、それでも、だ。
(…自分って何なんだろう)
こうして声を聞くことも。本能的に効かないと感じることも。普通の人間ではない。
「…まぁ、もうどうでもいいか」
既にクーリアは、自身の命が風前の灯であることを理解していた。明日まで生きることは、もはや叶わない。ならば、自分が何者なのかを知る必要は、最早ない。
死にたくはない。クーリアも、昨日までは諦めていなかった。だが、もうどうしようもないのだ。
「…あ。リーヴォどうしよう…サラが飼ってくれるかな」
家に残してきたリーヴォを心配する。帰ることは、叶わないから。
「…ごめんなさい」
小さな謝罪は、森に消える。
クーリアが走り出す。
決して振り返ることなく。
その後ろに、光る雫だけを残して。
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