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学園 高等部1年 終

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「それで、どうしてこれを?」

 クーリアが箱の中に鎮座する魔導銃を指さした。ただ自慢したいだけということも考えられるが……

「あぁ。お前にやろうと思ってな」
「……………は?」

 クーリアが口をぽかんと開けてドリトールを見つめる。そして次第にその言葉の意味を理解したのか、声を荒らげた。

「ばかですかっ!?こんなもん渡すってっ!?」

 いくら国の許可があり、持つことができたとしても、こんな物騒な代物を持ちたくはない。

「お前さん。襲われただろ?」
「へ?いやまぁ確かにそんなこともありましたけど……もしかして、護身用とかいいませんよね?」
「そのまさかだ」

 クーリアが今度は馬鹿な人を見るような目でドリトールを見始めた。護身用として使うには、あまりに過剰で、有り得ないからだ。

「そんな目で見るでない。建前だ、それは」
「……じゃあ本音は?」
「余ったからじゃ」
「余っ…!はぁ……」
「嬉しいじゃろ?」
「誰が喜ぶと…危険過ぎますから、要りませんよ」

 もしこの魔導銃が第三者の手に渡り、悪用される恐れがあるのなら、誰だって持ちたくはない。

「心配しとることは問題ないぞ」
「…え?」
「一旦手に取ってみぃ」

 ドリトールにそう言われ、恐る恐るクーリアが箱から魔導銃を取り出す。
 銀色の魔導銃が、その全貌を露わにした。

「うわぁ……」

 思わずクーリアが感嘆の声を零す。それだけ取り出した魔導銃は、物騒な兵器とは思えない、寧ろ芸術品のような美しさがあったのだ。

「綺麗じゃろう」
「綺麗…ですけど」
「分かっとるわい。グリップを握って魔力を流してみぃ」

 言われた通り、クーリアが魔導銃のグリップを握り、魔力を流す。すると、グリップと砲身の間に施されていた透明な石が輝いた。

「わっ!?」

 クーリアが驚きの声を上げるが、落とさぬようしっかりと握りしめる。
 しばらくして光が収まると、光っていた透明な石は、蒼い石へと変化していた。その色は、まるでクーリアの瞳と同じであった。

「それで魔力登録が完了じゃ。もうそれはお前にしか使えん」

 魔力には、人によって異なる魔力波と呼ばれるものが存在する。例えるなら、指紋のようなものだ。
 これを魔道具などに登録することを魔力登録といい、登録されていない者はそれを使えない。
 ちなみにクーリアがここへ来る前に触れた石版も、魔力登録を施された魔道具である。なので、クーリア以外が触れたとしても、本棚は動かないようになっている。

「なるほど……これなら心配ないと」
「ああ。これで持てるじゃろう?」

 ……そこでクーリアははたと気づいた。

(嵌められた……)

 クーリアは言われたことは言われた通りしてしまう体質だ。だからこそドリトールの言う通りに行動し……結果、魔導銃の魔力登録をさせられてしまった。
 魔力登録は変更が効かない。故にこの魔導銃はクーリアしか持てず、専用となってしまった。
 こうなると、受け取らざるを得ない。

「はぁ……」
「そんな顔をするな。元々旧型の魔導銃なんじゃから、そこまで気負うことはない」

 クーリアが手にしている魔導銃は、一発装填式。これは大戦当時最も初期に作られた型だ。その後改良され、6連装弾倉。通称、リボルバーが主流となった。
 連射できない一発装填式の魔導銃はもはや時代遅れであり、誰かに目を付けられることは皆無に等しい。故に、そこまで気負う必要は無いのだった。

「それでも…」
「ほれ。魔導刻印の本だ。受け取れ」
「わわっ!」

 ドサドサッ!とドリトールが大量の本を手渡した。それらは、魔導銃の弾丸に施す魔導刻印について記載された本であった。 
 クーリアの顔が引き攣る。

「…まさか、作れと?」
「これもいい練習だ」

 魔導銃の弾丸はそう流通しているものでは無い。故に何も刻印されていない弾丸に、一つ一つ魔導刻印を施す必要があった。

(……まぁ、備えとくに越したことはないか)

 クーリアはそう考え、その部屋で魔導刻印の本を読み始めた。 
 ………そして例の如く終礼に遅れたのは、言うまでもない。







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