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学園 高等部1年 対抗戦編

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 しばらく呆然としていたクーリアを現実へと呼び戻したのは、サラからの通信だった。

『もしもーし。クー、今大丈夫?』
「…え、あ、うん大、丈夫…」

 突然のことでしどろもどろな返事になってしまった。

『どうしたの?』
「なんでもないよ。ちょっと驚いただけ」

 すぐさま取り繕う。幸いサラが疑うことは無かった。

「それよりどうしたの?」
『んー?特に用はないんだけど……世間話的な?』
「はぁ…そう。とりあえずそれなら今は無理そうだから、しばらくしたら私からかけ直すよ」

 今クーリアがいるのは森のド真ん中だ。ここで悠長に話していたら、日が暮れて危険な目に会いかねない。

『……忘れたりしないわよね?』
「……ソンナコトナイヨ」

 クーリアは異常なまでの記憶力を持つが、約束事はすぐに忘れてしまうという不思議体質である。それをサラは知っていたため、疑うような言葉をかけたのだった。
 案の定クーリアは覚えておくつもりはなく、おもわずカタコトの返事になった。

『……まぁ、別に重要な話ではないからいいのだけど』
「じゃあかけ直さなくていい?」
『……なんでそんなに嬉しそうなのよ』
「ソンナコトナイヨ」

 2回目のカタコトである。

『はぁ……じゃあ明日ね』

 サラはもう諦めることにした。重要な話ならば、その都度こちらから通信すればいいのだから。

「うん。じゃあね」

 クーリアは通信を切る。

「ふぅ…」
「クゥン?」

 腕の中にいるリーヴォが不思議そうに首を傾げる。

「なんでもないよ。帰ろっか」
「アウっ!」

 ふふふ、と笑みを零しながら、クーリアは持ってきていた鞄を地面から拾い上げ、その中にリーヴォを入れた。
 ……ちなみに持ってきていたパンは、クーリアと女性が話している間に銀狼が全て食べていた。

「大人しくしててね」

 鞄の中にいるリーヴォに話しかけ、クーリアは森を後にした。






『…………』
「ええそうね。わたしらしくないかもね」
『……………?』
「……わたしにも分からない。ただ、あの子をほっておけなかった。それだけよ」
『……………』
「ふふっ。それはあなたもでしょう?」
『…っ!………』
「ふふっ。本当に不思議な子ね。……でも、ちょっと調べる必要はありそうだけれどね…」
『…………?』
「ええ。だからしばらく………。よろしくね」
『………!』



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