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学園 高等部1年 始

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  コルメリア魔法学園の職員室は、北棟と南棟のちょうど間に位置する。
  それ故に、行けば高確率で貴族に会う。なのでクーリアは、できる限り行きたくなかった場所でもあるのだ。

「あら?こんな所に白、がなんの用ですの?」

  案の定、1人の貴族令嬢に絡まれてしまった。

  白っていうことをわざわざ強調しなくてもよくない?

  喉元まで出かかった言葉をなんとか飲み込む。言えばもっと面倒なことになるのは分かりきっているからだ。
  
「ちょっと。なんとか言いなさいよ」

  かと言って、何も言わなかったら言わなかったで突っかかられるのだが。

「先生に呼ばれて…」
「まぁ!わたくしに口を利くなんて何様ですの!」

  じゃあどうしろと?!

  言えば難癖を付けられ、言わなくても難癖を付けられる。どちらの選択肢を選んでも散々な結果になる。

「おやおや。男爵令嬢ともあろうお方が、職員室の前で騒ぐのですか?」

  どうやって突破しようとクーリアが考えていると、突然そんな声が聞こえた。

「あ、えっと、その……」

  その声の主を見つけ、あからさまに慌てだす令嬢。
  クーリアもその主を見つけることが出来、令嬢とは逆に少し笑顔になった。

「お兄ちゃん」

  その主に向かってクーリアがそう声をかけた。
  そう。先程の声の主はクーリアの実の兄であった。

「お、おに?!え?」

  その発言を聞き、さらに慌てだす令嬢。

「クー。こんな所でどうしたんだい?」

  そんな令嬢を差し置いて、イケメンな兄はクーリアに問いかけてきた。

「ちょっと先生に呼ばれて…」
「また時間を忘れてたのかい?全く、クーも反省しないねぇ」

  咎めるような口調ではあるが、明らかにクーリアを大切にしていると分かる口調でもあった。

「私は悪くありません」
「うーん、それはどうかな?考えてみて?いつも時間を守らない友達がいたとして、クーリアはその友達の事をどう思う?」

  兄にそう言われ、クーリアは少し考える。
  

  ……だが、クーリアが出した答えはとても能天気なものだった。

「なにか大切な用があったのかなぁーって」

  その答えを聞き、兄は頭を抱えた。
  兄はクーリアに他人の視点になって考えてもらい、自分の過ちを理解してもらおうとしていたのだ。しかも今回だけでは無い。何度も同じことをし、そしていつもクーリアの答えに頭を抱えていた。

「はぁ…クーのその優しさは素晴らしいんだけどね?もうちょっと別視点から…」
「じゃあ…忘れてたとか?」
「うん、そうだよ!その通りだよ!」

  やっと望んでいた答えが出たと、兄は内心歓喜していた。



  ……だが、クーリアの次の言葉で玉砕することになる。

「でも忘れるのは人であるが故ではないですか?」

  そう。記憶力というものは人によって異なるし、誰もが少し前のことを覚えているとは限らないのだ。
  その答えを聞き、兄は沈黙するしかなかった。

「もう、行っていいですか?」
「………ああ。行っておいで」

  もうクーリアを説得することを諦めた兄は、そのままクーリアを見送った。
  クーリアは、まるで凍ったように動かなくなっていた令嬢の脇を通り、ナイジェルの元へと向かっていった。

  そして職員室に入る寸前、クーリアはある言葉をこぼした。






「お兄ちゃんももう諦めればいいのに」


  そう。クーリアのあの対応は狙ってやっていたのだ。決して馬鹿とか、天然とか、優しいからとか、そう言うことではない。寧ろわざとやっているあたり…悪魔であった。
  何故そんなことをするのか。そんな理由、ひとつしかない。





  ──だってめんどくさいんだもん。


  
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