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「いらっしゃいませ」
 
 カウンターに座りながらいつものように言葉をかける。
 ……無表情で。
 
 というのも、クーリアが感情を表に出さず、常に無表情になったのには理由がある。
 クーリアはある伯爵の令嬢として生まれた。
 だけど、クーリアは『白』だった。魔力はあるけれど、適性が無属性しかなかったことで、クーリアは家族…いや、父親に罵られた。
 それは言葉という武器で、次第に暴力も振るわれていった。
 笑っていれば気に入らず打たれ、泣けばうるさいと打たれ…
 そうしているうちに、クーリアは表情を表に出さないようになっていった。それは、彼女の父親以外の家族にも……
 
 クーリアの母は元はただの庶民だった。しがない食堂で働いていたところを目に付けられ、半ば無理やり婚約したようなものだった。
 その後母は4人の子どもを産んだ。男の子が2人。女の子が2人。
  クーリアはその中で長女として産まれた。つまりクーリアには妹がいる。ちなみに男の子2人はクーリアの兄だ。
  そのクーリアの妹を含め、兄2人は貴族に相応しい魔力と適性を持っていた。
 ……そのせいでクーリアはより罵られるようになったとも言えるのだが。

 だが、父親以外はクーリアに優しかった。いつも罵られていたクーリアを庇ってくれていたのだ。
 
 そんな状況で、クーリアがなにもしなかったかと言われれば……答えは否だ。

 自分よりも才能がある妹に嫉妬したか?それも否だ。

  じゃあ何をしたのか?
  クーリアは自分が出来ることを探し始めたのだ。屋敷の書庫に入り浸り、研究の日々。
 その当時クーリアはまだ3歳だった。その時点でクーリアも、魔法とは違うとてつもない才能を秘めていたのは明白だったのだが……ほとんど家族との交流すらしない父親は、その事に気づくことはなかった。寧ろ、何かに縋り付くように見えるクーリアを嘲笑したのだ。
 
 そしてクーリアが研究を始めてしばらく経ったある日、とうとう事件が起きた。突然離婚すると言い出したのだ。
 無論言い出したのは…父親のほうだった。堂々と愛人がいることを暴露し、才能ある3人は引き取り、母とクーリアを家から追い出した。
 
 そして追い出された2人は路頭に迷う……なんてことはなかった。
 予めその事に気づいていた4人(まだ幼かった妹を除く)は協力し、綿密に計画を立てていたのだった。
 さらに言えば母は元庶民。箱入りの貴族令嬢とは違い、大抵のことはできた。
 
 そうして各地を転々とし行方をくらませた後、母の両親、つまり、クーリアの祖父母の店へと身を寄せたのだった。ちょうど今で3年目になる。つまり、クーリアは現在6歳になった。
 ……とても6歳とは思えない受け答えをしているのだが。
 
「クーリアちゃんはいつも通り愛想がないねぇ」
 
 常連客の言葉に、クーリアは現在の状況へと引き戻された。
 
「そんなこというならオマケしないんだから」
 
 できる限り不満の表情を浮かべ、クーリアは答えた。
 このやり取りもいつもの事だった。常連客はクーリアの嫌味を言っているのではなく、ただの感想なのだ。
 
 ……最初の方はクーリアがキレて大変だったのだが。
 
「そ、そんな事言わないでおくれよぅ。クーちゃんは可愛い!可愛いから!」
 
 あからさまな態度の変化にクーリアは親しい人にしか分からない苦笑を浮かべた。
 (まぁあからさまであっても、そう言ってくれるのは嬉しいな。)
 
 そう思い、クーリアはパンを1個サービスしたのだった。
 
 
 
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