化物侍女の業務報告書〜猫になれるのは“普通”ですよね?〜

家具屋ふふみに

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第三章 化物侍女は化物に出会う

63. 化物侍女は食事を楽しむ

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「外だぁぁぁ!」
「はしたないわよ」

 地上に出た途端叫んだティアラにエセルが苦言を呈する。ティアラのその気持ち自体は理解出来ても、叫ぶのはナシだった。

「十二時前に攻略できましたね」

 ヨルが時計を取り出してそう口にする。ダンジョンに入ったのは十時前なので、凡そ二時間程で攻略した事になる。

「お腹空きました…」
「そうねぇ。フェリシアは何か食べたいものとかある?」
「うーん…特には思い付かないですね」
「そう? なら何処か美味しそうな所……ある?」

 ティアラは少しだけ悩む仕草を見せたが、直ぐにヨルへと助けを求めるように眼差しを向けた。

「結局ヨルさん頼みなのね……」
「仕方無いでしょ。この街の事知らないし」
「ヨルさんが知っているとも限らないでしょう」
「いえ、ご心配には及びません。この学年行事が開催されるにあたり、ミレーナに関する情報は一通り把握しておりますので」
「……そうですか」

 最早エセルはその用意周到さに何も言えなかった…。

「それで何処かオススメはあるの?」
「そうですね……でしたらアーヴァンクの料理を出している場所がございますよ」
「じゃあそこで」

 先程まで戦っていた相手を食べるのは人によっては無理な場合があるが、ティアラ達には関係ない話であった。

 ヨルの先導でミレーナの街を歩くと、【泉のダンジョン】に向かう時はそこまで目に入らなかったその街の綺麗さが目を引いた。
 構造物はどれもが白い壁で構成され、屋根は青色。その統一された見た目は流石観光名所と呼ばれるだけの目を見張るものがある。だがフェリシアはその統一された色に疑問を抱いた。

「何故建物の色が白色なのですか?」
「ここは皇都よりも南に位置していて、気温が高いです。なので室温を下げる為に壁を白く染めたのが理由の一つになりますね」
「一つ…?」
「はい。もう一つは街の景観の為ですね。この街の建造物は堅牢性が求められる為に全て硬い石造りになっています。ですが石肌のままですと圧迫感がありますので、膨張色である白色で塗装しているのです」
「「へー」」
「…フェリシアは兎も角ティアラは知っときなさいよ」
「なによ、そう言うエセルは知ってたの?」
「ええ勿論。というか、ここの観光パンフレットに載ってるくらい有名な話よ?」

 ミレーナには当然観光の為のパンフレットが存在しており、この“宝探し”が始まる前に生徒全員に簡単な物が配られた筈なのだが……

「…ヨルに全部渡してたわ」
「読んでませんでした…」
「…貴方達そういう所似てるわよね」

 そうして会話をしているうちに、一行は目的の店へと辿り着いた。そこはお昼時というのもあり幾人かの来店が見えたが、そこまで混雑はしていないようだった。

「いらっしゃい! 好きな席に座っとくれ!」

 店の扉を開けて中に入れば、店の厨房からそう声が響く。

「じゃあそのテーブル席にしましょう」

 ティアラが指差したテーブル席に全員が座ると、店員がメニューと水の入ったグラスを手に近付いてきた。

「こちらがメニューになります。決まりましたらお声掛けください」
「わかりました」

 受け取ったメニューを開きつつティアラが店内を見渡すが、同じ制服に身を包んだ姿は見当たらなかった。その事に首を傾げ、取り敢えずヨルに尋ねてみる。

「あぁ…恐らくはアーヴァンクの料理が万人受けする物ではないからでしょうね」
「そうなの?」
「はい、元々癖が強い食材ですから。もしお口に合わなければ私が全て処理させて頂きますのでご安心ください」
「…その時はお願いするわ」

 注文を済ませて料理が運ばれてくるのを待つ間、道中の会話の内容で気になるものがあったティアラが口を開いた。

「ねぇヨル。さっきの会話で堅牢性がどうのって話があったけれど、どうしてこの街の建物には堅牢性が必要なの?」
「このミレーナという街にはダンジョンが多く存在している事はご存知かと思いますが、それによってこの土地には魔力が集まりやすくなっています。そしてその魔力は周りの野生の魔物を呼び寄せ、さらにそれに呼応してダンジョン内の魔物が地上に溢れる事が稀にあるのです」

 ダンジョンの魔物が地上に溢れる現象は“魔の氾濫”と呼ばれている。
 ミレーナにあるダンジョンに生息している魔物は全て低級ではあり一、二体程度であれば倒すのは難しくない。だがそれが“魔の氾濫”によって集団で襲ってきたのならば話は別だ。

「ミレーナはダンジョンが近い故に街に魔物が侵入する可能性が高く、その為堅牢性が求められるのです」
「成程ねぇ…ダンジョンがあれば経済は潤うけれど、その分被害を蒙る可能性も高いのね」
「長らく放置されたダンジョンとかは溢れる事が多いと聞くわ。でもここは訪れる人も多いし、そこまで頻繁には溢れないと思うのだけれど…」
「はい、最後に“魔の氾濫”が起こったのは三十年程前になりますね。ですからミレーナの街並みはその名残りとも呼べます」

 ミレーナの歴史が一通りヨルの口から語られたところで、注文していた料理がテーブルへと届いた。

「こちらがアーヴァンクのシチューと炙りになります」

 シチューと呼ばれた料理は煮込まれた肉が潰されたジャガイモに囲われた見た目をしており、炙りはぶつ切りにされた白い肉が皿に並べられていた。

「これが…?」
「炙りのほうが尻尾ですね」
「へー…皮を剥くと白いのね」

 早速とばかりにティアラが炙りへと手を伸ばす。質感はネットリとしていて少し口に運ぶには躊躇するが、意を決してティアラが口に放り込んだ。

「…ん?」
「どう? 美味しい?」
「美味しい…けどなんだか不思議な感じ。ちょっと甘い…?」

 口にしたティアラが思わず首を傾げるが、決して不味い訳では無いのでまぁ良いかと一人頷く。

「シチューの方も美味しいです!」
「あらそうなの? ……本当ね。少し味が濃い気がするけれど、美味しいわ」
「お口に合ったようで何よりです」

 ヨル以外の全員が受け付けない事も想定していたが、その予想が外れた事に人知れず安堵するヨルであった。







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