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最終章 決戦
第155話 使徒の仕事
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フィリアの刃は、確かにベルの首を捉え、間違いなく振るわれた。その、はずだった。
「アッハハハハハ! ほんっと馬鹿ね!」
当たった瞬間、金属にぶつかったような衝撃がフィリアの腕を伝う。震える翡翠色の刃は、その柔らかな肌色の首に傷一つ付けられない。
「なん、で…」
翡翠は人を斬ることが出来ない。それはフィリア自身が良く知っている。だが、その手前で止まることはない。悪しきもののみを斬るが故に、身体はすり抜けるはずなのだ。しかし、目の前の刃は微塵も進まない。
放心し力が抜けたフィリアは、トンっと軽く肩を押されただけで後退る。
「その剣を作ったのはだぁれ?」
「え……」
今も尚ニヤニヤとした笑みを浮かべるベルの問い掛けを、必死に停滞した思考で解きほぐしていく。
剣を、翡翠刀を作ったのは……
「カミサマよねぇ?」
まさか、そんなはずは無い。目の前の存在が……
「…ま、さか」
翡翠刀は人を斬れない。しかし、それ以外で斬れないものが、一つだけ存在している。
「カミサマは、斬れないものねぇ?」
「っ…」
創造主である、神。それを斬ることは翡翠刀に許されていない。そして今。ベルに翡翠刀の刃が通らないことから、導き出される事など1つしかない。
「ほぉんと、手間かけさせるんだから。でも今日でそれもお終い」
ベルが手を横に広げれば、途端に灰色の空間に視界が切り替わった。彼方まで続く灰色の空間は、時間の感覚すら知覚出来なくなってしまう。そしてこの場所は…フィリアの、良く知る場所だった。
「ここは時の狭間に取り残された残留空間。そして貴方はここに来たことがある。違う?」
「…何故、それを」
「だってわたしもそうだもの」
残留空間は、行き場を失い彷徨う魂が行き着くとされる場所。つまり
「転生を司る為の空間にして、カミサマの領域に足を踏み入れた場所。それがここ」
コツコツと硬い音を響かせてベルがフィリアの周りを歩く。かつてのフィリアも、そしてソレも、この場所で裁かれた。
「そして今は、ワタシがカミサマへと至る為の踏み台の空間」
ギシリと、翡翠刀の柄が悲鳴をあげる。その切っ先は震え、色の異なる双眸は怒りとも困惑ともとれる感情を含み、揺れていた。
「使徒サマもゴクロウサマね。でもこれで貴方の仕事もお終い」
カツンと踵を揃え、フィリアへと向き直る。
「──────本当にそう思う?」
静かに、感情を感じさせない声色でフィリアが呟く。それはまるで自身にも聞かせるようなものだった。
────使徒の仕事はずっとしてきた。
────それも思い返せば殆ど尻拭いばかり。
────……でも。
「ほんと、言葉足らずなのは昔からだよね」
今まで自らが行ってきた事が全て、あの子のシナリオの通りなのだとすれば。
「ふふっ」
思わず声が零れれば、ベルが怪訝そうな眼差しを向けるのが目に入った。まぁ無理もない。いきなり笑い声を上げれば、気でも狂ったかと思うだろう。
「……さて。じゃあわたしもわたしの仕事を始めようか」
最初にして、最後の使徒の仕事。フィリアが、この世界で転生させられた元々の理由。
「仕事? 貴方にもう仕事なんてないでしょうに」
「残念ながら、わたしにはアンタを潰す仕事が残ってるからね」
「プッ! アッハハハ!! 無理に決まってるじゃない!」
腹を抱えて心底面白そうに笑うベルには目もくれず、フィリアは翡翠刀の刃に指を滑らせる。
「我が願うは終焉の時」
緩やかな柔らかい声が紡ぐのは、終焉の祝詞。
「黒洸の煌めきを纏いし刃が、鎮魂の唄を彼の者に捧げん」
フィリアが指を滑らせていけば、その場所から輝く翡翠色の刃が黒く染まっていく。
「震えよ刃。纏えよ黒炎。舞うは己なり」
染まりきった刃を軽く振るえば、光を呑み込む程の黒炎が刀身を包んだ。
「……全てを灼き消す黒炎よ。“唄え”」
さぁ、始まりを告げようか。
「アッハハハハハ! ほんっと馬鹿ね!」
当たった瞬間、金属にぶつかったような衝撃がフィリアの腕を伝う。震える翡翠色の刃は、その柔らかな肌色の首に傷一つ付けられない。
「なん、で…」
翡翠は人を斬ることが出来ない。それはフィリア自身が良く知っている。だが、その手前で止まることはない。悪しきもののみを斬るが故に、身体はすり抜けるはずなのだ。しかし、目の前の刃は微塵も進まない。
放心し力が抜けたフィリアは、トンっと軽く肩を押されただけで後退る。
「その剣を作ったのはだぁれ?」
「え……」
今も尚ニヤニヤとした笑みを浮かべるベルの問い掛けを、必死に停滞した思考で解きほぐしていく。
剣を、翡翠刀を作ったのは……
「カミサマよねぇ?」
まさか、そんなはずは無い。目の前の存在が……
「…ま、さか」
翡翠刀は人を斬れない。しかし、それ以外で斬れないものが、一つだけ存在している。
「カミサマは、斬れないものねぇ?」
「っ…」
創造主である、神。それを斬ることは翡翠刀に許されていない。そして今。ベルに翡翠刀の刃が通らないことから、導き出される事など1つしかない。
「ほぉんと、手間かけさせるんだから。でも今日でそれもお終い」
ベルが手を横に広げれば、途端に灰色の空間に視界が切り替わった。彼方まで続く灰色の空間は、時間の感覚すら知覚出来なくなってしまう。そしてこの場所は…フィリアの、良く知る場所だった。
「ここは時の狭間に取り残された残留空間。そして貴方はここに来たことがある。違う?」
「…何故、それを」
「だってわたしもそうだもの」
残留空間は、行き場を失い彷徨う魂が行き着くとされる場所。つまり
「転生を司る為の空間にして、カミサマの領域に足を踏み入れた場所。それがここ」
コツコツと硬い音を響かせてベルがフィリアの周りを歩く。かつてのフィリアも、そしてソレも、この場所で裁かれた。
「そして今は、ワタシがカミサマへと至る為の踏み台の空間」
ギシリと、翡翠刀の柄が悲鳴をあげる。その切っ先は震え、色の異なる双眸は怒りとも困惑ともとれる感情を含み、揺れていた。
「使徒サマもゴクロウサマね。でもこれで貴方の仕事もお終い」
カツンと踵を揃え、フィリアへと向き直る。
「──────本当にそう思う?」
静かに、感情を感じさせない声色でフィリアが呟く。それはまるで自身にも聞かせるようなものだった。
────使徒の仕事はずっとしてきた。
────それも思い返せば殆ど尻拭いばかり。
────……でも。
「ほんと、言葉足らずなのは昔からだよね」
今まで自らが行ってきた事が全て、あの子のシナリオの通りなのだとすれば。
「ふふっ」
思わず声が零れれば、ベルが怪訝そうな眼差しを向けるのが目に入った。まぁ無理もない。いきなり笑い声を上げれば、気でも狂ったかと思うだろう。
「……さて。じゃあわたしもわたしの仕事を始めようか」
最初にして、最後の使徒の仕事。フィリアが、この世界で転生させられた元々の理由。
「仕事? 貴方にもう仕事なんてないでしょうに」
「残念ながら、わたしにはアンタを潰す仕事が残ってるからね」
「プッ! アッハハハ!! 無理に決まってるじゃない!」
腹を抱えて心底面白そうに笑うベルには目もくれず、フィリアは翡翠刀の刃に指を滑らせる。
「我が願うは終焉の時」
緩やかな柔らかい声が紡ぐのは、終焉の祝詞。
「黒洸の煌めきを纏いし刃が、鎮魂の唄を彼の者に捧げん」
フィリアが指を滑らせていけば、その場所から輝く翡翠色の刃が黒く染まっていく。
「震えよ刃。纏えよ黒炎。舞うは己なり」
染まりきった刃を軽く振るえば、光を呑み込む程の黒炎が刀身を包んだ。
「……全てを灼き消す黒炎よ。“唄え”」
さぁ、始まりを告げようか。
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