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第5章 村編

第106話 和解しよう

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 私は気配を極限まで消して、音も立てないように少しだけ空歩で浮いた状態でついて行った。

 そして見慣れた、けれども久しぶりな居間の椅子へと腰掛ける。
 そしてすかさずレミナがお茶を、テーブルの上に用意してくれた。私の分は無いけどね。

「それで話って?」
「そうねぇ。どこから話そうかしら」
「まさか…あれを?」

 レミナは私が産まれたときにいたんだから、もちろん私が実の娘であることを知っている。だからマリアが話そうとしていることに気づいたらしい。

「レミナは知ってるの?」
「ええ、まぁ……本当によろしいので?」
「ええ。もうそろそろフィリアも限界そうだし」

 おろ?私が限界?
 ………うん、確かに限界かも。私だって村へ帰ってきたいのだから。いつまでも居心地悪いのは嫌だ。

「……フィリアって、僕の姉ってことになってる偽物だよね」
「まぁ、表向きはね」
「表向き?」

 やっぱり私が目の前にいない…いや、見えてないだけで、聞く姿勢になってくれる。

「本当はすぐにでも話したほうが良かったのだけれどね……」

 迷っているような表情になったけど、すぐに表情を引き締めた。
 私も思わず引き締める。見えてないけど。

「フィリアは、養子ではないのよ」

 マリアのその言葉を聞き、アッシュは虚をつかれたような表情になった。

「……どういうこと?」
「そのままの意味よ。つまり、フィリアは私とロビンの実の子よ。血の繋がった、ね」
「………」

 空いた口が塞がらないとはこのことかもしれない。ちょっと間抜けな面をしてる。

「ぷっ…」

 おっと。思わず笑っちゃった。いけないいけない。
 声は聞こえちゃうから気をつけないと。
 マリアが小突いてきたけど、幸いアッシュには聞こえていなかったらしい。良かった…

「……それを、本人は?」
「もちろん知ってるわよ。知っていて、それで理解している。死んだことにされた理由もね」
「……」

 アッシュは口をパクパクさせるが、上手く言葉にならないらしい。

「……な、んで?」

 掠れた声で、小さく呟いた。
 なんで……あぁ。なんで教えなかったかってことか。

「アッシュを信じてなかった訳ではないのよ?ただ……教えるには早いんじゃないかって」
「そんな、こと」
「じゃあもし3歳くらいのときに言われて、言いふらすことなかったって確信は持てる?」

 まぁ無理だろう。約束として覚えていても、子どもの口は軽いものだ。つい知らず知らずのうちに口を滑らせてしまうことがある。
 ……まぁ私は転生者なので例外で。

「………でも、それじゃあフィリア…いや、お姉ちゃんは、自分が養子ということにされているって知っていて、僕の言葉を受け止めていたってこと?」

 あー。色々言われたね。偽物とか、あれとか。

「そうよ。フィリアは私から言われて、ずっと黙ってた。じっと耐えていた」
「そ、んな…」

 アッシュが絶句する。いやぁー、傷つかなかったというのは嘘だけど、そこまでだからね。むしろ微笑ましいというか……

『主らしいというか、なんというか…はぁ』

 なんで翡翠から呆れられるの!?ねえ!?

「だからアッシュ。ちゃんと謝って仲直りするのよ?」
「…………う、ん」

 謝ってもらう必要もないけど……でも、アッシュのケジメでもある。ちゃんと受け取らないとね。

「これでいいわよね?フィリア」
「いいよ」
「「え!?」」

 私の声が聞こえて、レミナとアッシュが周りをキョロキョロと見渡しだす。
 なんか面白い……

「フィリア…」
「はいはい」

 いつまでも面白がってないで、姿を見せる。

「え!?い、いつからそこに…」
「えっと、最初から」

 アッシュが目を見開く。ふふふ。まったく気づいてなかったね。

「さっきの会話も…」
「ぜーんぶ聞いてたよ」

 私がそう答えると、アッシュが顔を赤くしつつ青くするという、なかなか器用なことをやってみせた。てか、なんで赤?青は気まずさからかなぁって分かるけど。

「あ、え…」
「なに?」

 私が小首を傾げると、アッシュはガタっと立ち上がり、そのまま玄関まで走り去ってしまった。

「えぇっと……?」

 私混乱。なんで?

「はぁ…」
「男の子って難しいですよね…」

 何故かマリアとレミナは納得しているらしい。私だけ蚊帳の外?なんでよ?

「フィリア、ちょっと行ってきなさい」
「えぇ…」

 いきなり行けとかハードルが高いよ。

「多分、裏庭にいるわ。い っ て き て」
「は、はーい…」

 マリアの顔がマジだ!怖い!
 仕方なく私は玄関から裏庭へと向かう。アッシュが裏庭にいるのは気配で分かった。
 ………ついでに後ろから気配消してマリア達が来てる。なんで気配消してるのよ…。


 裏庭に着くと、アッシュは木剣で素振りをしていた。

「アッシュー」

 手を振りながら近づく。一瞬ビクッとしたけど、そのまま素振りを続けるアッシュ。あれ?

「おーい」

 後ろから呼びかけるけど、反応がない。むぅ。

「えい」

 一向に反応しないので、風魔法で木剣を吹き飛ばした。

「うわ!?」

 おっと。ちょっと強すぎたか。風圧でアッシュが尻もちをついてしまった。

「ごめんね。大丈夫だった?」
「っ!」

 私が近づくと、ばっとアッシュが立ち上がって距離をとった。なぜ?
 ていうか私、アッシュに身長で負けそうなんだけど……なんか悔しい。

「……ほんと、なのか?」
「え?」

 小さく消え入りそうな声が聞こえた。

「……ほんとの、お姉ちゃん、なのか?」
「あぁ。それね。ほんとだよ。黙っててごめんね」
「いや……」

 またアッシュが後ろを向いてしまった。
 な、なんて話しかけたらいいのよ。

「その……「ごめん」え?」
「ごめん…今まで偽物とか…」
「あぁ。別にいいよー」
「軽くないか!?」

 アッシュが驚きながら振り向いてきた。
 いやだって私からしたら居心地悪かっただけで、心に深い傷がついた訳でもないしね。

「軽かったらだめ?」
「あ、いや、そういう訳じゃ……」

 なんか釈然としないなぁ。

「じゃあやる?」
「え、えぇ!?な、なに言ってんだよ!?」

 アッシュが顔を赤くする。なんでだろう?

「いや、打ち合ったらいいかなぁと。あれで」

 私は木剣を指さした。つまりアッシュが私を姉だと認められない理由は、多分実力だと思うのよね。だから1回やったらわかるんじゃないかなぁ、と。

『……やっぱり鈍感だ』

 なに?なんか言った?

『…いや、なんでもない』

 そう?まぁいいや。

「という訳で、やろうか」
「という訳ってなんだ!?」
「いいからいいから」

 私はアイテムボックスから木剣を取り出す。さて、アッシュの実力を見せてもらおうかな。


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