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第4章 王都 学園高等部生活編

第97話 かつての強敵

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 私はマルティエナの元へと駆け寄る。

「マルティエナ!」
「うぅ…」

 マルティエナの目は虚ろだ。私の事なんて目に入っていない。
 どうして…こんなことに。

「マリア、どうするの?」
「……」

 正直どうすればいいのか分からない。
 マルティエナの体に、あの地龍と同じ禍々しい魔力がまとわりついているのは分かる。
 でも、それをどうすればいいのか分からない。
 地龍は結局フィリアが倒してしまった。対処法が分からない。
 フィリアに手伝って貰いたいけど、フィリアは今ブラックナイトと戦っている。
 私は格闘戦の心得がある。けど、それでブラックナイトを相手取るのは難しい。

「うぅ……ワァァァ!!」
「…っ!また!?」

 考えているうちに、魔法陣からまたブラックナイトが1体現れる。
 そして私に剣を振り下ろしてきた。私は突然のことで、思わず目を閉じてしまった。

「させないっ!」

 可愛らしい声が聞こえたと思ったら、ガギンッと重い音が響く。
 目を開けると、フィリアがブラックナイトの剣を受け止めていた。

「フィリア…?どうして…」

 慌てて私は先程までフィリアが戦っていたブラックナイトを見る。
 すると、そこには確かにフィリアがいて、戦っていた。
 ……え?どういうこと?

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 魔力の高まりを感じ、マリア達の方を見ると、新しくブラックナイトが出てきていた。
 そしてそのブラックナイトはマリアへと襲いかかる。

「させないっ!」

 私は考えるより体が先に動いていた。でも、私が戦っていたブラックナイトを置いては行けない。

 翡翠!お願い!

『分かった!』

 なので翡翠に任せることにした。
 この緊急事態。翡翠のことがバレてしまうなんて言ってられない。

 翡翠は出てきた瞬間人型になり、私から刀を受け取るとブラックナイトと対峙した。

「大丈夫?」
「大丈夫…だけど、フィリアが2人…?」

 あ、そうか。翡翠の姿は私によく似ている。目の色を見なかったら、分からないほどに。

「あっちは私じゃないよ」
「そう、なの?」

 不思議そうに翡翠を見つめるマリア。

「えっと…まぁ分身みたいな?」
「分身って…」

 分かってる。分身という魔法がどんなものなのか。
 それは幻影で人を模す魔法。けど、それは実体を持たない。つまり、今みたいにブラックナイトの攻撃を受け止めることはできない。

「深く考えないで」
「…分かったわ」

 とりあえず翡翠は大丈夫。なら、マルティエナさんをどうにかしないと。

 ……そして、思ってはいたけど、ブラックナイトは増えるみたいだ。なら、余計早くしないといけない。

「どうするの?」

 私はブラックナイトを剣で弾き飛ばしながら尋ねる。

「分からない…フィリアはどうすればいいと思う?」

 質問に質問で返ってきた。でもマリアの意見は最もだ。なにせマルティエナさんが今身にまとっている魔力と、同じ魔力をまとった地龍を私が倒したのだから。

 でも、それは完璧な敵だったから。命が潰えれば、その身にまとった魔力は霧散する。
 でも、マルティエナさんは仲間だ。殺す訳にはいかない。

「うぅ…ごめ…なさ…い…」

 苦しみながら、微かに、でもハッキリと聞こえた。

「なんであなたが謝るのよ…!」

 そうだ。マルティエナさんが謝る必要は無い。

「うぅ……だっ……て……ウワァァァァ!!」
「…っ!マルティエナ!」
「ママ下がって!!」

 突然魔力が膨張する。私たちはマルティエナさんから距離をとる。

「あ……」

 マルティエナさんにまとわりついていた魔力が放出されていく。



「なによ…これ…」

 禍々しく、気持ち悪い、ねっとりとした魔力が場を満たす。
 それと同時に、ブラックナイト達が集まっていく。

 集まったブラックナイト達は、マルティエナさんから溢れ出した魔力と溶けて混ざり合い、より巨大な何かへと姿を変える。

「翡翠…」
「うん……やばいよ」

 肌で感じる。今までの敵で最も強い。鳥肌が立つ。

「嘘……なんで……」

 マリアがそんな言葉を漏らす。

「あれは…」

 隣からロビンの言葉が聞こえる。どうやらブラックナイトがいなくなったことで集まってきたらしい。
 ……そして、何かを知っているようだ。

「なんなの?」

 思わず尋ねる。

「あれは……コルギアスだ」

 その言葉とともに全貌が明らかになる。禍々しい魔力の中から現れたのは、巨大な……竜。
 黒光りする鱗に巨大な体。翼は魔力が足りないのか片方が朽ちてしまっているけれど、もう片方は完全な翼となっている。

「フィリアは知らないわよね」

 マリアが渋い顔をする。

「コルギアス……それはかつてこの世界を破滅へと追いやった邪竜よ」
「邪竜、コルギアス?」
「そう。そして、私達が六大英雄と呼ばれるようになった所以」
「え、そうなの?」
「ええ、そう。当時この6人全員で全力を尽くし、やっと倒すことが出来た敵よ。もう30年前の話ね」

 さ、30年前……

高位人間ハイヒューマンとはいえ、30年前には劣るわ。今で倒せるかどうか…」

 確かにそうだ。誰しも時の流れから逃れることはできない。

「とはいえやるしかないだろ」

 ロビンは強気だ。うっすらと剣が光を帯びている。

「聖剣もやる気だしな」

 どうやら光を帯びているのは、そういうことらしい。翡翠と同じ感じかな。
 ……あれはなんで光を帯びているのか分からないけれど。

 いつの間にか部屋は洞窟のような場所へと変化していた。

「この場所……コルギアスがいた洞窟にそっくりね」

 リーナが呟く。

「あぁ。それに片方の翼が朽ちているところまでご丁寧に再現している」

 どうやらコルギアスは元から翼が朽ちていたようだ。

「……マルティエナの記憶を読んだのかしらね」
「だろう、な」

 それならばこの光景も、コルギアスの状態も頷ける。
 マルティエナさんは洞窟の隅で倒れている。近づきたいけど、コルギアスが邪魔だ。
 でも、見た感じまとわりついていた魔力が無くなっている。

 ……つまり、これを倒せばマルティエナさんを助けられるはずだ。

 コルギアスが真っ赤な瞳で私たちを見つめる。

 グワァァァァァァァ!!

 耳を劈くような咆哮。どうやら敵と認識したようだ。
 さてと。これは私も本気でいかないとヤバそうだね。











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