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第三十章 決死行
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待ち伏せだって!?
ということは僕たちが近くまで来ていることが、もうヒルダにバレたということか?
……いや、ヒルダは僕たちが王女を取り戻しに来ることを予期しているにしても、まさかこんな地下水脈をさかのぼってくるなどとは、さすがに思いもつかないだろう。
だとするといつもの慎重過ぎるマティアスが、何かの物音を聞いて過敏に反応したに違いない――
そう思って、耳を澄まして外の様子をうかがってみると、まったく何の気配も感じなかった。
ああ、これはやっぱりマティアスの勘違いだろう、と、安心したのも束の間。
セフィーゼが警戒心をあらわにして言った。
「本当だわ。洞窟の外に強い殺気を持つ敵がいる。それも複数」
「んーそうだね」
と、ミュゼットまで相槌を打った。
「確かにやる気満々な連中だね。でもまあどってことないというか、大した敵じゃないっしょ」
……ひとり敵の存在に気付けなかったことに多少自尊心を傷つけられながら、僕はミュゼットに尋ねた。
「ちょっと待ってミュゼット、まだ相手の姿も見てないのになんでそこまでわかるんだ?」
「だってユウト、よく考えてみてよ。あのさ、敵は待ち伏せて奇襲をしかけようとしているというのにボクたち三人全員に気配を気づかれてんだよ。そーんな間抜けな連中が強いわけないじゃん」
「なるほど――いや、でもそうとは言いきれないじゃ……」
「大丈夫大丈夫。とにかくボクたちに時間はないじゃん? つまりここは強行突破しるしかないっしょ!」
「うーん。でも……」
待ち伏せされているのがわかっているのに、そこにノコノコ出ていくのは果たしてどうなのが。
とはいえ、もう一度水の中に戻って違う出口を探すと時間がかかりすぎるのも事実だ――
一瞬迷い、この中で最も年長者であり経験も豊富なマティアスの方を見た。
だがしかしマティアスは何も言わない。
リーダーはお前なんだから自分で決めろとでも言いたげだ。
確かにそれもそうだと思い、僕は三人に向かって言った。
「ミュゼットの言う通り、僕たちに残された時間はごくわずかだ。ここは一気に行こう」
「よっしゃ、そうこなくっちゃ! あーこれでやっと戦える!」
ミュゼットが嬉しそうに声を上げ、止める間もなく洞窟の外へ向かって走り出した。
マティアスが叫びながらそれに続く。
「待て待てミュゼット、さっきから油断は禁物だと言っているではないか――!」
「あ、あのちょっと待って……」
その場に取り残されてあ然としていると、横で見ていたセフィーゼがクスリと笑って言った。
「フフフ、ユウト、これじゃリーダー形無し、というかリーダーの意味ないね」
「……最初の決闘の時もそうだったっけどセフィーゼは結構きついこと言うよなあ。でもまあこの中では僕が一番弱いし経験もないから仕方ないんだけど」
「ううん、そんなことないよ。なにより私は他の誰よりユウトのこと心から信頼してるから。さあ、いっしょに行こう!」
セフィーゼそう言って、僕の手を握り、洞窟の中を跳ねるように走り出す。
決して自惚れているわけではない。が、そんなセフィーゼからは僕に対する好意がひしひしと伝わってきた。
しかし、セフィーゼの気持ちは嬉しくないわけではないでないが、この先に待ち受ける彼女の運命のことを考えると心境は複雑だった。
たとえ生きてデュロワ城に帰っても、セフィーゼに待ち受けているのは、結局アリスの裁きと――そして死だからだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
とはいえ、セフィーゼを救う方策を考える前に、まずは目の前で待ち伏せしている敵を倒し、ヒルダの元に急がねばならない。
果たしてどんな敵が待ち受けているのかと、セフィーゼとともに一人で緊張しながら洞窟を出る、すると――
どうやら地下水脈で思った以上時間を食ったらしく、空はもうどっぷり暗くなっている。
ところが、地上はぼんやりと明るい。
なぜかといえば、洞窟の入り口を取り囲むようにして待っていた何十頭もの敵――唸り声を上げる灰色の毛皮に覆われた巨大なオオカミの全身が、青白く発光しているからだ。
ゲゲッ、なんだこいつら――!!
それは単なる獣、というより“魔獣”という言葉がピッタリの化け物オオカミだった。
「フェンリルか――100頭はいるな」
すでに背中の大剣を抜きそれを正眼に構えたマティアスがつぶやく。
「ふぇんりる……?」
フェンリルといえば、RPGでお馴染みのあの狼のモンスター。
雑魚扱いされることも多いが、伝説では超強力な神獣――
「まあ相手にとって不足はない、と言いたいところだけどやっぱ不足かな~」
と、やる気満々のミュゼットが、手と首をコキコキ鳴らす。
セフィーゼもいつでも風魔法を詠唱できるように精神を集中させながら、僕に言った。
「ユウトは下がってていいわ。この程度の敵であなたの回復魔法が必要になることはたぶんないから」
どうやらこの世界のフェンリルは雑魚よりらしい。
しかし僕から見れば、十二分に恐ろしい敵に見えた。
数もやたら多いし……。
「さあ、さっさと片付けて先を急ぐぞ!」
「了解!」
「わかったわ」
マティアスの呼びかけに、ミュゼットとセフィーゼが呼応する。
こうしてヒルダにたどり着くための、僕たちの戦い――ラウンド1が始まったのだった。
ということは僕たちが近くまで来ていることが、もうヒルダにバレたということか?
……いや、ヒルダは僕たちが王女を取り戻しに来ることを予期しているにしても、まさかこんな地下水脈をさかのぼってくるなどとは、さすがに思いもつかないだろう。
だとするといつもの慎重過ぎるマティアスが、何かの物音を聞いて過敏に反応したに違いない――
そう思って、耳を澄まして外の様子をうかがってみると、まったく何の気配も感じなかった。
ああ、これはやっぱりマティアスの勘違いだろう、と、安心したのも束の間。
セフィーゼが警戒心をあらわにして言った。
「本当だわ。洞窟の外に強い殺気を持つ敵がいる。それも複数」
「んーそうだね」
と、ミュゼットまで相槌を打った。
「確かにやる気満々な連中だね。でもまあどってことないというか、大した敵じゃないっしょ」
……ひとり敵の存在に気付けなかったことに多少自尊心を傷つけられながら、僕はミュゼットに尋ねた。
「ちょっと待ってミュゼット、まだ相手の姿も見てないのになんでそこまでわかるんだ?」
「だってユウト、よく考えてみてよ。あのさ、敵は待ち伏せて奇襲をしかけようとしているというのにボクたち三人全員に気配を気づかれてんだよ。そーんな間抜けな連中が強いわけないじゃん」
「なるほど――いや、でもそうとは言いきれないじゃ……」
「大丈夫大丈夫。とにかくボクたちに時間はないじゃん? つまりここは強行突破しるしかないっしょ!」
「うーん。でも……」
待ち伏せされているのがわかっているのに、そこにノコノコ出ていくのは果たしてどうなのが。
とはいえ、もう一度水の中に戻って違う出口を探すと時間がかかりすぎるのも事実だ――
一瞬迷い、この中で最も年長者であり経験も豊富なマティアスの方を見た。
だがしかしマティアスは何も言わない。
リーダーはお前なんだから自分で決めろとでも言いたげだ。
確かにそれもそうだと思い、僕は三人に向かって言った。
「ミュゼットの言う通り、僕たちに残された時間はごくわずかだ。ここは一気に行こう」
「よっしゃ、そうこなくっちゃ! あーこれでやっと戦える!」
ミュゼットが嬉しそうに声を上げ、止める間もなく洞窟の外へ向かって走り出した。
マティアスが叫びながらそれに続く。
「待て待てミュゼット、さっきから油断は禁物だと言っているではないか――!」
「あ、あのちょっと待って……」
その場に取り残されてあ然としていると、横で見ていたセフィーゼがクスリと笑って言った。
「フフフ、ユウト、これじゃリーダー形無し、というかリーダーの意味ないね」
「……最初の決闘の時もそうだったっけどセフィーゼは結構きついこと言うよなあ。でもまあこの中では僕が一番弱いし経験もないから仕方ないんだけど」
「ううん、そんなことないよ。なにより私は他の誰よりユウトのこと心から信頼してるから。さあ、いっしょに行こう!」
セフィーゼそう言って、僕の手を握り、洞窟の中を跳ねるように走り出す。
決して自惚れているわけではない。が、そんなセフィーゼからは僕に対する好意がひしひしと伝わってきた。
しかし、セフィーゼの気持ちは嬉しくないわけではないでないが、この先に待ち受ける彼女の運命のことを考えると心境は複雑だった。
たとえ生きてデュロワ城に帰っても、セフィーゼに待ち受けているのは、結局アリスの裁きと――そして死だからだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
とはいえ、セフィーゼを救う方策を考える前に、まずは目の前で待ち伏せしている敵を倒し、ヒルダの元に急がねばならない。
果たしてどんな敵が待ち受けているのかと、セフィーゼとともに一人で緊張しながら洞窟を出る、すると――
どうやら地下水脈で思った以上時間を食ったらしく、空はもうどっぷり暗くなっている。
ところが、地上はぼんやりと明るい。
なぜかといえば、洞窟の入り口を取り囲むようにして待っていた何十頭もの敵――唸り声を上げる灰色の毛皮に覆われた巨大なオオカミの全身が、青白く発光しているからだ。
ゲゲッ、なんだこいつら――!!
それは単なる獣、というより“魔獣”という言葉がピッタリの化け物オオカミだった。
「フェンリルか――100頭はいるな」
すでに背中の大剣を抜きそれを正眼に構えたマティアスがつぶやく。
「ふぇんりる……?」
フェンリルといえば、RPGでお馴染みのあの狼のモンスター。
雑魚扱いされることも多いが、伝説では超強力な神獣――
「まあ相手にとって不足はない、と言いたいところだけどやっぱ不足かな~」
と、やる気満々のミュゼットが、手と首をコキコキ鳴らす。
セフィーゼもいつでも風魔法を詠唱できるように精神を集中させながら、僕に言った。
「ユウトは下がってていいわ。この程度の敵であなたの回復魔法が必要になることはたぶんないから」
どうやらこの世界のフェンリルは雑魚よりらしい。
しかし僕から見れば、十二分に恐ろしい敵に見えた。
数もやたら多いし……。
「さあ、さっさと片付けて先を急ぐぞ!」
「了解!」
「わかったわ」
マティアスの呼びかけに、ミュゼットとセフィーゼが呼応する。
こうしてヒルダにたどり着くための、僕たちの戦い――ラウンド1が始まったのだった。
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