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第二十八章 王女殿下がXXXの丸焼きをお召し上がりなるまで
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暴れ苦しんでいる者たちだけではない、痙攣を起こし、ほとんど虫の息の兵士もいる。
すでに絶命し、苦悶の表情を浮かべたまま無残な屍になってしまった兵士もいる。
今まで見てきた戦場とはまた違う悲惨な光景に、僕は一瞬何をどうしていいかわからなくなり、ロゼットに向かって叫んだ。
「ロゼットさん、どうしてこんなことに!」
「それがユウト様」
さすがのロゼットも、真っ青な顔をして答えた。
「メイドの一人が城内の井戸から水をくみ、兵士のみなさんに飲み水として配って歩いたのですが、それを口にした人たち次々と倒れてしまったのです」
ということは明らかに毒――原因は不明だが、井戸水に即効性の猛毒が溶け込んでいたのか。
だとすると回復魔法では効果がない。
毒を消す解毒魔法を試さなきゃだめだ。
この状況、この異世界に来て初めて魔法を使ってブラコン女騎士ティルファを治した時と似ている。
しかしあれは獣に咬まれた毒だった。
果たして『クリア』の魔法は、飲み込んでしまった毒にも効くのだろうか――?
と、不安を感じながら、僕は急いで悶えている兵士の一人に近づき魔法をかけた。
『クリア!!』
兵士の動きが止まった。
表情が途端にやわらぎ、あっという間に毒が抜けていくのがわかる。
不幸中の幸い、どうやら獣に咬まれて毒に侵された場合だけではなく、飲み込んだ毒に対しても『クリア』の魔法は効果があるようだ。
だがこの人数、とても自分だけでは助けきれない。
一人一人に魔法をかけているうち、どんどん犠牲者が増えてしまう。
そこで僕は、ロゼットに助けを呼んでもらうことにした。
「ロゼットさん、すみませんが大至急シスターマリアと竜騎士のクロード様を呼んできてください。あの二人ならたぶん解毒魔法を使えます。それと他の井戸の水も危険な可能性があるから、井戸の水は絶対に飲まないようにお城にいる全員に伝えてください」
「かしこまりました」
有能メイドは同じことを二度聞きしない。
ロゼットは僕の頼みをすぐさま理解し、他のメイド数名を連れ城内に走っていった。
その間、とにかく多くの命を救おうと、毒に侵された兵士に片っ端から『クリア』の魔法をかけて回る。
ところが、五人ほど解毒したところで、別の場所から――おそらく城壁を一つ隔てた外庭の方から悲鳴が聞こえてきた。
ロゼットの伝達が間に合わなのかったのか、あれもおそらく井戸の水の毒を飲んでしまった兵士の叫びだ。
思った通り、毒の水になっているのはこの井戸だけではなかったのだ。
しかし今は向こうまで手が回らない。一刻も早くここでの治療を終わらせなくては――
と、魔法を掛けるピッチを上げていると、ティルファの兄にして王の騎士団の一人、クロードがこちらへ走ってきた。
「ユウト君!」
クロードが叫んだ。
「おおよそのことはメイドたちから聞きました。遅ればせながら私も協力させてください」
「クロード様助かります。ここは僕がなんとしますから、向こうの叫び声の聞こえる方をお願いします。たぶん他の井戸の毒でやられたのでしょう」
「了解しました!」
クロードはそう返事をして、軽い身のこなしで外庭の方へ駆けていった。
よかった。
彼に任せればあっちはまず大丈夫だろう。
多少安堵していると、ほどなくして、今度はシスターマリアがやってきた。
シスターはレベル的に『クリア』の魔法は使えるはずだが、僕やクロードに比べたら魔力はかなり劣る。
なので彼女にはここに留まってもらい、僕の手助けと、あまり毒を飲まなかった症状の軽い兵士の治癒をお願いすることにした。
そして、苦しむ兵士たちを見ながら神経をすり減らし、毒の治療を続けること二十分。
ようやく全員の解毒が終わったころには、陽はすっかり高くなり、気温が急に上昇してきた。
魔法でかなりの人数を救うことができたが、それでも犠牲者を十数名にのぼる。
「マリアさん、どうもご苦労様でした。本当に助かりました」
「いえ、私などユウト様のご活躍に比べたら」
シスターマリアにねぎらいの言葉をかけ、汗をぬぐう。
すると、城の方からアリスが歩いてくるのが見えた。
たぶん騒ぎを聞きつけ様子をうかがいに来たのだろう。
うわっ……!
とんでもなく気まずい。
今はそんなこと気にしている場合でないのはもちろんわかっているが、それでも昨夜の展開は決まりが悪すぎる。
まさかアリスは、僕が眠った彼女の唇にキスしてしまったことに、気づいていないよな……。
すでに絶命し、苦悶の表情を浮かべたまま無残な屍になってしまった兵士もいる。
今まで見てきた戦場とはまた違う悲惨な光景に、僕は一瞬何をどうしていいかわからなくなり、ロゼットに向かって叫んだ。
「ロゼットさん、どうしてこんなことに!」
「それがユウト様」
さすがのロゼットも、真っ青な顔をして答えた。
「メイドの一人が城内の井戸から水をくみ、兵士のみなさんに飲み水として配って歩いたのですが、それを口にした人たち次々と倒れてしまったのです」
ということは明らかに毒――原因は不明だが、井戸水に即効性の猛毒が溶け込んでいたのか。
だとすると回復魔法では効果がない。
毒を消す解毒魔法を試さなきゃだめだ。
この状況、この異世界に来て初めて魔法を使ってブラコン女騎士ティルファを治した時と似ている。
しかしあれは獣に咬まれた毒だった。
果たして『クリア』の魔法は、飲み込んでしまった毒にも効くのだろうか――?
と、不安を感じながら、僕は急いで悶えている兵士の一人に近づき魔法をかけた。
『クリア!!』
兵士の動きが止まった。
表情が途端にやわらぎ、あっという間に毒が抜けていくのがわかる。
不幸中の幸い、どうやら獣に咬まれて毒に侵された場合だけではなく、飲み込んだ毒に対しても『クリア』の魔法は効果があるようだ。
だがこの人数、とても自分だけでは助けきれない。
一人一人に魔法をかけているうち、どんどん犠牲者が増えてしまう。
そこで僕は、ロゼットに助けを呼んでもらうことにした。
「ロゼットさん、すみませんが大至急シスターマリアと竜騎士のクロード様を呼んできてください。あの二人ならたぶん解毒魔法を使えます。それと他の井戸の水も危険な可能性があるから、井戸の水は絶対に飲まないようにお城にいる全員に伝えてください」
「かしこまりました」
有能メイドは同じことを二度聞きしない。
ロゼットは僕の頼みをすぐさま理解し、他のメイド数名を連れ城内に走っていった。
その間、とにかく多くの命を救おうと、毒に侵された兵士に片っ端から『クリア』の魔法をかけて回る。
ところが、五人ほど解毒したところで、別の場所から――おそらく城壁を一つ隔てた外庭の方から悲鳴が聞こえてきた。
ロゼットの伝達が間に合わなのかったのか、あれもおそらく井戸の水の毒を飲んでしまった兵士の叫びだ。
思った通り、毒の水になっているのはこの井戸だけではなかったのだ。
しかし今は向こうまで手が回らない。一刻も早くここでの治療を終わらせなくては――
と、魔法を掛けるピッチを上げていると、ティルファの兄にして王の騎士団の一人、クロードがこちらへ走ってきた。
「ユウト君!」
クロードが叫んだ。
「おおよそのことはメイドたちから聞きました。遅ればせながら私も協力させてください」
「クロード様助かります。ここは僕がなんとしますから、向こうの叫び声の聞こえる方をお願いします。たぶん他の井戸の毒でやられたのでしょう」
「了解しました!」
クロードはそう返事をして、軽い身のこなしで外庭の方へ駆けていった。
よかった。
彼に任せればあっちはまず大丈夫だろう。
多少安堵していると、ほどなくして、今度はシスターマリアがやってきた。
シスターはレベル的に『クリア』の魔法は使えるはずだが、僕やクロードに比べたら魔力はかなり劣る。
なので彼女にはここに留まってもらい、僕の手助けと、あまり毒を飲まなかった症状の軽い兵士の治癒をお願いすることにした。
そして、苦しむ兵士たちを見ながら神経をすり減らし、毒の治療を続けること二十分。
ようやく全員の解毒が終わったころには、陽はすっかり高くなり、気温が急に上昇してきた。
魔法でかなりの人数を救うことができたが、それでも犠牲者を十数名にのぼる。
「マリアさん、どうもご苦労様でした。本当に助かりました」
「いえ、私などユウト様のご活躍に比べたら」
シスターマリアにねぎらいの言葉をかけ、汗をぬぐう。
すると、城の方からアリスが歩いてくるのが見えた。
たぶん騒ぎを聞きつけ様子をうかがいに来たのだろう。
うわっ……!
とんでもなく気まずい。
今はそんなこと気にしている場合でないのはもちろんわかっているが、それでも昨夜の展開は決まりが悪すぎる。
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