異世界最弱だけど最強の回復職《ヒーラー》

波崎コウ

文字の大きさ
上 下
448 / 505
第二十七章 一夜の出来事

(12)

しおりを挟む
「ではアリス様、僕は衛兵さんの代わりにここでしばらく廊下を見張っています」
 と、僕はアリスに声を掛けた。
「ただ大広間にシスターマリアやメイドのロゼットさんを待たせていますので、安全を確認したらそちらの方へ戻りたいと思います。ですから、部屋に入ったら必ず鍵をかけてお休み下さい」

 いくら護衛を任されたからといって、まさかこんな深夜にアリスの寝室で彼女と二人きりになるわけにもいくまい。
 行きがかり上とはいえ、もしも無神経にずかずか中に足を踏み入れ、そのことがバレてしまったのなら――たとえアリスと何かしたわけでもなくても、レーモンやマティアスを始めとする竜騎士軍団にボコボコにされるどころか、殺されかねないだろう。 

 ところが、だ。
 アリスはそんなことを一向に気にする人ではなかったのだ。

「待て待て!」
 アリスは僕の袖を引っ張った。
「ユウトも私の部屋で少し休んでいけばよい。茶の一杯でも飲もうではないか」

「い、いや、それはちょっとまずいような……。あの、それに大広間にはケガをした兵士のみなさんがいて、僕は彼らを置いてそこを出てきたわけでして……」

「ん? ケガ人の中に可及的速やかな処置が必要な者がまだいるというのか?」

「可及的――? ああ、その点は大丈夫です。危険な状態の人の治療は終えてきましたし、多くのメイドさんたちが看てくれていますから」

「ならば問題なかろう。お前もずっと働き詰めだったのだ。少しくらい休んでもロードラントの神々はきっとお許しくださる。それと――」
 アリスはさらりと、ごく自然に言った。
「甘えついでに、私の身の回りの、着替えなどにも手を貸してほしいのだ」

「き、着替えっ……?」

「ああ、一人でやるには難しい部分があるのだ。普段は従者にやらせるのだが、ここにはつれて来ていないから、頼むぞ」

「そ、それなら僕なんかより、グリモ男爵のメイドを呼べばいいかと思いますが」

「いや、この忙しい時に彼女たちの人の手を煩わせたくない。それに私は馴染みのないメイドよりも信頼できるお前に手伝ってほしいのだ。さあ、部屋に入るぞ」

「待ってください、アリス様――」

 が、アリスは相変わらず強引だった。
 ドアを開け、ためらう僕の手をつかんで強引に部屋の中に引っ張り込む。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 
 ランプシェードから漏れる暖かな光に照らされたアリスの寝室は、さほど広くはないが、男爵らしい心遣いの行き届いた、静かで落ち着いた雰囲気の、よく眠れそうな部屋だった。
 調度品は高価で趣味のいいものばかりが揃えられており、その中でもとりわけ目立つのが、オフホワイト色の天蓋としゃの薄いカーテンが付いた大きなベッドだ。
 現実世界でいえば、ダブル、というよりクイーンサイズといったところだろうか、もちろん二人でも余裕で一緒に寝られてしまう。

 この展開は……。
 いや、まさか……な。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

剣客逓信 ―明治剣戟郵便録―

三條すずしろ
歴史・時代
【第9回歴史・時代小説大賞:痛快! エンタメ剣客賞受賞】 明治6年、警察より早くピストルを装備したのは郵便配達員だった――。 維新の動乱で届くことのなかった手紙や小包。そんな残された思いを配達する「御留郵便御用」の若者と老剣士が、時に不穏な明治の初めをひた走る。 密書や金品を狙う賊を退け大切なものを届ける特命郵便配達人、通称「剣客逓信(けんかくていしん)」。 武装する必要があるほど危険にさらされた初期の郵便時代、二人はやがてさらに大きな動乱に巻き込まれ――。 ※エブリスタでも連載中

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~

はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。 俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。 ある日の昼休み……高校で事は起こった。 俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。 しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。 ……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

処理中です...