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第二十七章 一夜の出来事
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そう考えると、何だか本気で心配になってきた。
だから、とにかく今は速くアリスを部屋で休ませてあげようと、僕は床で雑魚寝する兵士たちを避けながら急いで城の中を進んだ。
しかし、その光景を見たアリスは、黙ってはいなかった。
「みな、部屋がなくてこのような場所で休んでいるのか。それどころか寝具すら用意できないとは……まったく申し訳が立たないな」
「アリス様、その点は仕方のないことかと思います。この城にここまで人が集まるなんて誰も予想できなかったことですし」
「しかし、だからといって私一人が部屋で柔らかいベッドで休んでよいものだろうか? なあユウト、私もここで皆と共に一晩過ごすべきではないのか?」
「え?」
僕は一瞬戸惑い、答えた。
「あの、それは実にアリス様らしいお考えですが、さすがにここで寝るのは色々問題があるかと……何かとその、不測の事態が起きないとも限らないですし」
「不測の事態? どういう意味だ?」
兵士の忠誠心に関しては疑うことを知らないアリスが、首をかしげる。
「そ、それは――」
確かに兵士たちはみなアリスのことを慕ってはいるが、なにしろそこは血気盛んな男たち。
いくら戦闘で疲れているとはいえ、目の前に超絶美少女なアリスがいれば、夜の間よからぬ懸想をしてしまう人が、万が一いないとも限らないからだ。
が、アリスがみんなを信じ切っているというのに、その思いを裏切るような、余計な愁いごとは、あえて口に出したくはなかった。
「その――敵や賊が城内に侵入している可能性もなくはない、ということです。そのような緊急時に、この場ではアリス様をお守りしにくいかと」
僕はとっさに誤魔化して言った。
「ですからアリス様が部屋でお休みになられても、誰も不平を抱く物はいないと思いますよ」
「そうか、分かった」
アリスがうなずく。
「ユウトがそう言うならその通りにしよう。――よし、部屋はもうすぐだ。そこを右に曲がった先がグリモが用意してくれた私の寝所だ」
アリスが素直に僕の言うことを聞き入れてくれたので、ほっとして通り角を曲がると、そこには屈強そうな衛兵が二人立っていた。
「これはアリス様――!」
衛兵は僕に負ぶわれたアリスを見て、驚いて叫んだ。
「どこかお加減でも悪いのでしょうか?」
「いいや、案ずることはない。少々疲れただけだ。――それよりお前たち、ここはもういいから下がって少し休め。どうせロクに寝てもいないのだろう」
「はあ……」
二人の衛兵は顔を見合わせて言った。
「しかしアリス様、我々はアリス様をお守りするのが任務。この場を離れるわけには……」
「大丈夫だ。もうしばらくユウトに付き添ってもらうから、私の安全は保障されている。なあお前たち、ユウトの力は知っているであろう?」
「それはもちろん存じておりますが――」
もしもアリスの部屋の警備を担当しているのが竜騎士だったのなら、アリスが何と命じようが頑としてここを動かなかったに違いない。
だが、あいにくと言うか幸いと言うか、アリスを守る竜騎士たちはほぼ全員が城の防衛に出払っていたのだった。
「私がよいと言っているのだ! さあ、行け!」
アリスが強めに促すと、二人の衛兵は顔をほころばせ、嬉しそうに言った。
「アリス様、お気遣いありがとうございます。それではお言葉に甘えしばらく休憩を頂戴いたします」
「ああ、朝まで戻ってくる必要はないぞ」
たぶん衛兵たちも相当疲れていたのだろう。
僕に「アリス様を頼む」と言い残し、あっという間にどこかへ行ってしまった。
「やれやれよかった。ご苦労ではあるが、正直ここまで来て監視されてはかなわぬからな。――さあ、これで邪魔者は消え二人きりになれたな。ユウト、申し訳ないが部屋の前まで行ってくれ」
「はい、分かりました」
邪魔者、二人きり――
その言葉に多少引っかりを感じつつも、寝室のドアの前まで来て、そこで負ぶっていたアリスを背から降ろす。
だから、とにかく今は速くアリスを部屋で休ませてあげようと、僕は床で雑魚寝する兵士たちを避けながら急いで城の中を進んだ。
しかし、その光景を見たアリスは、黙ってはいなかった。
「みな、部屋がなくてこのような場所で休んでいるのか。それどころか寝具すら用意できないとは……まったく申し訳が立たないな」
「アリス様、その点は仕方のないことかと思います。この城にここまで人が集まるなんて誰も予想できなかったことですし」
「しかし、だからといって私一人が部屋で柔らかいベッドで休んでよいものだろうか? なあユウト、私もここで皆と共に一晩過ごすべきではないのか?」
「え?」
僕は一瞬戸惑い、答えた。
「あの、それは実にアリス様らしいお考えですが、さすがにここで寝るのは色々問題があるかと……何かとその、不測の事態が起きないとも限らないですし」
「不測の事態? どういう意味だ?」
兵士の忠誠心に関しては疑うことを知らないアリスが、首をかしげる。
「そ、それは――」
確かに兵士たちはみなアリスのことを慕ってはいるが、なにしろそこは血気盛んな男たち。
いくら戦闘で疲れているとはいえ、目の前に超絶美少女なアリスがいれば、夜の間よからぬ懸想をしてしまう人が、万が一いないとも限らないからだ。
が、アリスがみんなを信じ切っているというのに、その思いを裏切るような、余計な愁いごとは、あえて口に出したくはなかった。
「その――敵や賊が城内に侵入している可能性もなくはない、ということです。そのような緊急時に、この場ではアリス様をお守りしにくいかと」
僕はとっさに誤魔化して言った。
「ですからアリス様が部屋でお休みになられても、誰も不平を抱く物はいないと思いますよ」
「そうか、分かった」
アリスがうなずく。
「ユウトがそう言うならその通りにしよう。――よし、部屋はもうすぐだ。そこを右に曲がった先がグリモが用意してくれた私の寝所だ」
アリスが素直に僕の言うことを聞き入れてくれたので、ほっとして通り角を曲がると、そこには屈強そうな衛兵が二人立っていた。
「これはアリス様――!」
衛兵は僕に負ぶわれたアリスを見て、驚いて叫んだ。
「どこかお加減でも悪いのでしょうか?」
「いいや、案ずることはない。少々疲れただけだ。――それよりお前たち、ここはもういいから下がって少し休め。どうせロクに寝てもいないのだろう」
「はあ……」
二人の衛兵は顔を見合わせて言った。
「しかしアリス様、我々はアリス様をお守りするのが任務。この場を離れるわけには……」
「大丈夫だ。もうしばらくユウトに付き添ってもらうから、私の安全は保障されている。なあお前たち、ユウトの力は知っているであろう?」
「それはもちろん存じておりますが――」
もしもアリスの部屋の警備を担当しているのが竜騎士だったのなら、アリスが何と命じようが頑としてここを動かなかったに違いない。
だが、あいにくと言うか幸いと言うか、アリスを守る竜騎士たちはほぼ全員が城の防衛に出払っていたのだった。
「私がよいと言っているのだ! さあ、行け!」
アリスが強めに促すと、二人の衛兵は顔をほころばせ、嬉しそうに言った。
「アリス様、お気遣いありがとうございます。それではお言葉に甘えしばらく休憩を頂戴いたします」
「ああ、朝まで戻ってくる必要はないぞ」
たぶん衛兵たちも相当疲れていたのだろう。
僕に「アリス様を頼む」と言い残し、あっという間にどこかへ行ってしまった。
「やれやれよかった。ご苦労ではあるが、正直ここまで来て監視されてはかなわぬからな。――さあ、これで邪魔者は消え二人きりになれたな。ユウト、申し訳ないが部屋の前まで行ってくれ」
「はい、分かりました」
邪魔者、二人きり――
その言葉に多少引っかりを感じつつも、寝室のドアの前まで来て、そこで負ぶっていたアリスを背から降ろす。
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