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第二十七章 一夜の出来事

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 そんなアリスに、合唱に涙するみんなの今の気持ちをうまく説明するのは難しいかなあ――
 と、苦慮していると、僕たちのそばにいた守備兵の一人が、いきなりアリスにすがりついて訴えた。

「アリス様、私たちはもう限界です。これ以上は戦えません」

「なんだと?」

「で、ですからどうかアリス様、武器を捨て敵に投降してください。お願いします」

「な、何を申す! おまえは自分が何を言っているのか分かっているのか?」

「もちろんです。今降伏すれば、まさか敵も我々の命までは奪わないでしょう」

「バカな!」
 と、アリスは顔しかめて言った。
「我々がいま戦っているのはそんな生易しい連中ではない。捕虜として獲えた我が軍の兵を問答無用で皆殺しにするような鬼畜どもだ。それにもう少し耐えれば、王都から必ず救援が到着する。その時までの辛抱ではないか!」

「しかしアリス様! 無礼ながら、どうか城の外の様子をご覧なさってください。あの無数の炎とあの大合唱を! あれは人外のモンスターやイーザ軍だけでやれることではありません。つまりあの合唱をしているのは我々の同胞! すでに多くの仲間が寝返り、殺されず敵と行動を共にしている証拠なのです。――そんな状況で援軍など期待してなんになりましょう。すでに我々の命運は尽きました。この城も、もはやここまでです」

 ああ……。
 こりゃ参った。まんま四面楚歌の故事通りというか、兵士たちは完全に敵の術中にはまってしまっている。

 冷静に考えれば、このデュロワ城はかなりの辺境の地にあるのだから、敵に集団で寝返るようなロードラント人は元々住んでいないはずだ。
 また、先の戦闘で生き残った第一・二軍団の兵士たちはほとんどこの城に逃げ込んでいるわけだから、イーザ軍と一緒になんて行動できるわけがない。
 要するに兵士たちは、攻城戦の疲労が極限に達したところへ、ロードラントの“故郷の歌”なんて聞かさて弱気になり、極端に思考力が落ちてしまったのだ。

 それは無理もないし気の毒なことではある――とはいえ、いま彼らの目を覚まさせなければロードラント軍に未来はない。
 そして、ここは論より証拠。
 兵士たちに、実際に城の外の様子を見せたほうが手っ取り早いだろう。

 そこで僕は、まったく命令を聞かない兵士たちに困り果てたアリスに言った。

「アリス様」

「なんだ? ユウト」

「今からみんなに号令をかけ、城の外を見るように言ってください」

「?」

「大丈夫、僕に任せてください」

「お、おい――」

「それじゃ、いきますよ! 
          ――『ルミナス!!』  」

 僕は城壁の壁の外に身を乗り出し、魔法を唱えた。
 たちまち『ルミナス』の光源となる光の弾が地上付近まで下り、その辺りを昼間のように照らす。 
 それに驚いたのか、合唱が突然止んだ。

「みなの者! 城外を見よ!」

 僕の意図を察したアリスが叫ぶ。
 城壁の上にいた数百の兵士たちが、何事かと驚いて城の外を見下ろす。

 すると――

「おお……」

 照らさし出された光景をみて、兵士たちはあっけに取られた。
 それから、自然発生的にどよめきが起きた。
 というのも、大量の松明を灯しながら“故郷の歌”を合唱していのは、わずか千人程度のイーザ軍の兵士だったのだ。

 結局、すべて僕の推測通りだったというわけだ。
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