上 下
436 / 503
第二十六章 デュロワの包囲戦

(33)

しおりを挟む
「お呼びでしょうか、男爵様」

 シスターマリアは聖女のオーラを発散させながら、しずしず執務室の中に入ってきた。

「わざわざ呼びつけて済まないわね、シスター。で、早速お願いがあるんだけれど――」

「男爵様、要件は察しがついております。これから始まる戦いに備え、負傷した方々を受け入れる態勢を急ぎ整えてほしい――そういうことではごさいませんか?」

「さすがシスター、その通りよ。あなたにはここにいるユウちゃんと組んでもらって負傷者の治療を是非お願いしたいの。本当は聖職者であるあなたを戦いに巻き込みたくはないのだけれど……」

「男爵様、お気遣いには及びません。わたくしが軍に同行した目的は戦いで傷ついたみなさんの面倒を見るため。そしてそこにユウト様が加わってくださるのなら、まさに天佑神助てんゆうしんじょ。神のおぼし召しですわ」

「ありがと! ユウちゃんもそれでいい?」

 本当なら今すぐにでもリナのところへ飛んでいきたいが、この状況で断れるはずもない。
 それに今回はシスターマリアという心強い回復要員がいてくれるのだ。
 協力して負傷者の治癒に当たり、戦闘がひと段落したら、彼女に事情を打ち明け、城を抜け出すことができるかもしれない。

「ええ、了解しました」
 と、僕はうなずいた。
 
「じゃあ二人とも急いで頼むわね」
 男爵が僕とシスターの肩に手を置いた。
「 あ、当然のことかもだけど城の施設を自由に使ってね。それと物資だけでなく人員――メイドたちにもあなたたちに最大限協力するよう伝えておくから。 ――あらッ!!」

 と、その時、突然「ドン、ドン」と大きな衝撃音が連続して響いた。
 今までは静寂は嵐の前の静けさだったのか、聞き覚えのあるこの音は――

「どうやら始まったようね」
 と、男爵が顔をしかめる。
「あれはきっと投石機を使って石をブン投げている音だわね。でも大丈夫。この城は高い城ハイキャッスル。そう簡単には防御を崩せないから」

 そうか。
 セルジュが単独でワイバーンを使い真っ先に上空から攻撃を仕掛けてきたのは、おそらく普通の方法ではデュロワ城の城壁を破壊できないと踏んだからだろう。
 それだけこの城の守りは固いに違いない。

「さあ参りましょう、ユウト様」
 と、シスターマリアが言った。
「この戦いおそらく今までにない激しものになるでしょう。それだけ多くの方が傷つくに違いありません。及ばずながらも、そんな方々を一人でも多く救うことが神が私に与えし使命なのです。ですからユウト様もどうかご助力ください」

「は、はい」

 シスターの聖職者の威厳と高邁こうまいこころざしに圧倒されながら、僕は彼女とともに執務室を出た。
 すると、投石の音に加え、人間の怒声と獣の咆哮が入り混じった、激しくうねるような雄叫びが外から聞こえてきた。
 
 ついに始まった。
 数万のコボルト兵と数千のイーザ騎兵の連合軍が、デュロワ城に一斉に攻撃を開始したのだ。
 この一気呵成に城を攻め落とそうとする感じ――その様子は見えずとも、どうやら二つの軍はそれなりに連携と統制は取れているらしいことぐらいは分かる。

 最後に生き残るのは、僕らか、あるいは彼らか――
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件

フランジュ
ファンタジー
地区最強のヤンキー・北条慎吾は死後、不思議な力で転生する。 だが転生先は底辺魔力の下級貴族だった!? 体も弱く、魔力も低いアルフィス・ハートルとして生まれ変わった北条慎吾は気合と根性で魔力差をひっくり返し、この世界で最強と言われる"火の王"に挑むため成長を遂げていく。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

転生スライム食堂~チートになれなかった僕の普通に激動な人生~

あんずじゃむ
ファンタジー
事故にあった高校生、ショウは気づくと森の中で目を覚ます。 そこが異世界だと気付いたものの、現れない神様、表示されないステータス、使えない魔法。チートどころか説明さえもしてもらえず始まったなんて第二の人生は艱難辛苦。前世で文系一直線だったショウには役立つ知識すらもなく。唯一の武器は価値観の違いか?運よく雇われたボロい食堂を食い扶持の為に必死に支えるリアル転生物語。果たしてショウは平穏な人生を送るのか。今の所ファンタジー恋愛小説の予定です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

転生王子の異世界無双

海凪
ファンタジー
 幼い頃から病弱だった俺、柊 悠馬は、ある日神様のミスで死んでしまう。  特別に転生させてもらえることになったんだけど、神様に全部お任せしたら……  魔族とエルフのハーフっていう超ハイスペック王子、エミルとして生まれていた!  それに神様の祝福が凄すぎて俺、強すぎじゃない?どうやら世界に危機が訪れるらしいけど、チートを駆使して俺が救ってみせる!

異世界大使館はじめます

あかべこ
ファンタジー
外務省の窓際官僚・真柴春彦は異世界に新たに作られる大使館の全権特任大使に任命されることになるが、同じように派遣されることになった自衛官の木栖は高校時代からの因縁の相手だった。同じように訳ありな仲間たちと異世界での外交活動を開始するが異世界では「外交騎士とは夫婦でなるもの」という暗黙の了解があったため真柴と木栖が同性の夫婦と勘違いされてしまい、とりあえずそれで通すことになり……?! チート・俺TUEEE成分なし。異性愛や男性同士や女性同士の恋愛、獣人と人間の恋愛アリ。 不定期更新。表紙はかんたん表紙メーカーで作りました。 作中の法律や料理についての知識は、素人が書いてるので生ぬるく読んでください。 カクヨム版ありますhttps://kakuyomu.jp/works/16817330651028845416 一緒に読むと楽しいスピンオフhttps://www.alphapolis.co.jp/novel/2146286/633604170 同一世界線のはなしhttps://www.alphapolis.co.jp/novel/2146286/905818730 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2146286/687883567

処理中です...