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第二十六章 デュロワの包囲戦
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「それでは結界を解きましょうか」
クロードがそう言ってパチンと指を鳴らすと、結界はあっけなく解除され、周りの風景は瞬時に元に戻った。
まばゆい太陽と、異世界特有の目に染みるような空の青さに変わりはない。
が、そこに漂う空気はさっきより緊迫し、ドンと重く張りつめていた。
――これは紛れもない、戦場の空気だ。
ここからでは城壁の外の様子は分からないが、おそらく敵の大軍はすでに城の包囲網を完成させ、攻撃の準備を整えつつあるのだろう。
マティアスの言う通り、まもなく最初で最後のデュロワ城包囲戦が始まるのだ。
こちらが守る側とはいえ、数の上では圧倒的不利なこの戦い。
とはいえ、今までのような絶望的な状況ではなかった。
なぜならあと一週間もすれば、王の騎士団のリーダー、リューゴがロードラントの王都から援軍を連れて帰って来てくれるからだ。
いくら大軍とはいえ、コボルト兵とイーザ兵の烏合の衆が、総力を上げて攻めのぼるロードラントの正規軍にかなうわけない。
つまり、その時までデュロワ城を守り切れば僕たちの勝利と言えるだろう。
が、しかし、問題なのは、囚われのリナの救出リミット――
アリスに変化したリナの魔法薬の効果が切れ、魔女ヒルダに正体がばれてしまうのが、ちょうどその時期と重なってしまうことだ。
それまでに城が解放されればよいが、時間的に見てかなり厳しい。むしろまず間に合わないと考えた方がよい。
となると結局、デュロワ城が持ちこたえられる目星がついた時点で、僕は一人ここを抜け出し、敵の包囲をかいくぐって、ヒルダとシャノンからリナを取り戻しに行かなくてはならないのだ。
想像しただけで気が遠くなるような、究極の決死行。
だが、リナのことを思えば、それがどんなに無謀で困難な行程でも突き進むしかない。
しかも、できるだけ可及的速やかに――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
決意を固めた僕は、まずは背中のセフィーゼのことを男爵に頼むために、防衛戦の準備に忙しいアリスたちと別れ急いで城内に入った。
目指すは現在男爵がいるという執務室だ。
敵が迫っているのを知りにわかに慌ただしくなった兵士たちの間をすり抜け、マティアスに教えてもらった道順を思い出しながら、廊下を早足で歩く。
ところが城内の構造はやっぱり複雑で、階を一つ上がり、いくつかの部屋を抜けるうちに、
あれ、右? いやここを左に曲がるんだったっけ――自分が今どこにいるのか見失ってしまった。
こんなことなら城内の地図を紙に書いてもらうんだった。
そう後悔しつつ右往左往していると、眠っていた背中のセフィーゼがもごもご動きだした。
げっ、しまった!
考えてみれば、今はセフィーゼが目を覚ましたらやばいではないか。
セフィーゼは風魔法を使う魔力をまだ残しているはず。
もしここで暴れられたら、たまったものではない。
焦りまくった僕は、セフィーゼを廊下にいったん降ろそうとした。
急いで『シール』の魔法をセフィーゼにかけ、その呪文を封じようと思ったのだ。
ところが意外にも、セフィーゼは僕の背中から離れようとしない。
それどころか、まるで父親に甘える女の子のように、僕の胸に回した両手の力をきゅっと強めた。
クロードがそう言ってパチンと指を鳴らすと、結界はあっけなく解除され、周りの風景は瞬時に元に戻った。
まばゆい太陽と、異世界特有の目に染みるような空の青さに変わりはない。
が、そこに漂う空気はさっきより緊迫し、ドンと重く張りつめていた。
――これは紛れもない、戦場の空気だ。
ここからでは城壁の外の様子は分からないが、おそらく敵の大軍はすでに城の包囲網を完成させ、攻撃の準備を整えつつあるのだろう。
マティアスの言う通り、まもなく最初で最後のデュロワ城包囲戦が始まるのだ。
こちらが守る側とはいえ、数の上では圧倒的不利なこの戦い。
とはいえ、今までのような絶望的な状況ではなかった。
なぜならあと一週間もすれば、王の騎士団のリーダー、リューゴがロードラントの王都から援軍を連れて帰って来てくれるからだ。
いくら大軍とはいえ、コボルト兵とイーザ兵の烏合の衆が、総力を上げて攻めのぼるロードラントの正規軍にかなうわけない。
つまり、その時までデュロワ城を守り切れば僕たちの勝利と言えるだろう。
が、しかし、問題なのは、囚われのリナの救出リミット――
アリスに変化したリナの魔法薬の効果が切れ、魔女ヒルダに正体がばれてしまうのが、ちょうどその時期と重なってしまうことだ。
それまでに城が解放されればよいが、時間的に見てかなり厳しい。むしろまず間に合わないと考えた方がよい。
となると結局、デュロワ城が持ちこたえられる目星がついた時点で、僕は一人ここを抜け出し、敵の包囲をかいくぐって、ヒルダとシャノンからリナを取り戻しに行かなくてはならないのだ。
想像しただけで気が遠くなるような、究極の決死行。
だが、リナのことを思えば、それがどんなに無謀で困難な行程でも突き進むしかない。
しかも、できるだけ可及的速やかに――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
決意を固めた僕は、まずは背中のセフィーゼのことを男爵に頼むために、防衛戦の準備に忙しいアリスたちと別れ急いで城内に入った。
目指すは現在男爵がいるという執務室だ。
敵が迫っているのを知りにわかに慌ただしくなった兵士たちの間をすり抜け、マティアスに教えてもらった道順を思い出しながら、廊下を早足で歩く。
ところが城内の構造はやっぱり複雑で、階を一つ上がり、いくつかの部屋を抜けるうちに、
あれ、右? いやここを左に曲がるんだったっけ――自分が今どこにいるのか見失ってしまった。
こんなことなら城内の地図を紙に書いてもらうんだった。
そう後悔しつつ右往左往していると、眠っていた背中のセフィーゼがもごもご動きだした。
げっ、しまった!
考えてみれば、今はセフィーゼが目を覚ましたらやばいではないか。
セフィーゼは風魔法を使う魔力をまだ残しているはず。
もしここで暴れられたら、たまったものではない。
焦りまくった僕は、セフィーゼを廊下にいったん降ろそうとした。
急いで『シール』の魔法をセフィーゼにかけ、その呪文を封じようと思ったのだ。
ところが意外にも、セフィーゼは僕の背中から離れようとしない。
それどころか、まるで父親に甘える女の子のように、僕の胸に回した両手の力をきゅっと強めた。
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