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第二十六章 デュロワの包囲戦

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 それは誰にも止めることのできない、ほんの一瞬の出来事だった。

 セフィーゼの左足を奪った『エアブレード』の風の刃は、血の飛沫をまき散らしながら地面にぶつかり、そこに五十センチほどの窪みをつくってようやく消滅した。
 直後、セフィーゼはぐらりと体の均衡を崩し、その場に仰向けの状態で倒れた。
 
 僕とクロードが駆け付けた時には後の祭り。
 足からの大量の出血により貧血状態になったのか、セフィーゼはみるみる顔面を蒼白にし、意識は薄らぎ、名前を呼びかけてもほとんど反応はなかった。
 元々華奢でかわいらしいルックスのセフィーゼだけに、その血まみれになって横たわる姿は、余計に悲惨で哀れに見えた。

「これは――しくじりましたね」
 と、クロードが“しまった”という表情を浮かべる。
「本来ヒトは無意識下に自己保存本能をというものを備えていて、いかなる時でもこのような自傷行為はまずしないはずなのですが――」

「まずしないはず、か――」
 後からやってきたアリスがセフィーゼの顔を覗き込み、冷たい口調で言った。
「しかし今回はその例外だったわけだ。つまりこの結界フィールドの内で起きたことは、セフィーゼにとってとてつもないダメージだったのだな」

「ええ、それはアリス様の仰せのとおりです」
 が、クロードは大して悪びれることなく答えた。
「自分の存在を自分で否定するくらいつらいことは、おそらくこの世にはないですからね」
 
「クロード、ずいぶん冷静な物言いだな。だが、お前はこの落とし前をいったいどうやってつけるつもりなのだ? よいか? 私が望んだのはセフィーゼを元気で美しいままに生け捕りにすることだ。たとえ命が助かったとしても、この様子ではまったく褒められないぞ」

「その点、ご期待に添えず申し訳ございません」

 頭を下げるクロードに対し、アリスが眉をひそめて言った。

「一罰百戒。先ほど申した通り、戦いがすべて終わった時にセフィーゼは法によって裁かれ必ず処断せねばならない。――とはいえこのような状態のセフィーゼに対し死刑を執行するわけにはいかぬだろう」

「はい、確かに。もしそのようなことを断行なされれば、見せしめになるどころかかえってこの少女は人々の同情を買い一族を守った悲劇の主人公ヒロイン、逆にアリス様が悪逆非道の王女としてそしりを受けることになりかねません」

「まったく……。クロード、そこまで分かっているのなら何か案を出せ」

「アリス様、ご心労には及びません。お聞きではありませんか? 私がレーモン公爵をお救いした『リペア』という魔法のことを」

「ああ、マティアスから話は聞いた。レーモンを救ってくれたことに関してはお前に感謝している。しかし考えてみれば、セフィーゼも自ら放った魔法でレーモンと同じような傷を負って倒れるとは、何とも皮肉だな」

「ええ、ですので、セフィーゼの治癒も同じ『リペア』の魔法で行いたいと存じます。案と言うほどのことでもありませんが、それでいかがでしょうか?」

「いいだろう」
 と、アリスがうなずく。
「手遅れにならないうちに頼む」

「承知しました――いや、お待ちください!」
 と、そこでクロードが何か思いついたように手をポンと叩いた。
「そうだ、ちょうどよい機会だ。――ねえユウト君、君には妹を救ってくれたお礼に『リペア』の魔法を伝授する約束でしたね」

「え? まあ、そうでしたけど……」

「ならば今こそまさにその絶好の機会ではないでしょうか? 実施訓練として、是非あなたがセフィーゼの体と足を魔法でつないでやってください」

「ちょっと! そんなこといきなり無理ですよ」
 唐突にお鉢が回ってきて、僕は慌てて叫んだ。

「いいえ、あなたの魔力があれば大して難しいことではありません。さあ、早くしないと本当に手遅れになりますよ。――と言ってもアリス様のおっしゃる通り、セフィーゼは反逆罪により遠からず死罪になるわけですから、たとえ今治癒に失敗してもそれほど責任を感じる必要はないのでは?」

 クロードは優しく微笑みながら、またまた恐ろしいことを言う。  

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