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第二十六章 デュロワの包囲戦

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 見かけよらず、ワイバーンはどうやらそこそこの知能を持っているらしい。
 このままセルジュの命令に従っていると、あっさり砲弾の餌食になってしまうことに気が付いたのだろう。
 残った二体のワイバーンが突然、つかんでいた岩石をぽいっと真下に放ったのだ。
 
 その途端、ワイバーンの動きはまるで鉄の足かせがいきなり外れたかのように、目に見えて軽くなった。 
 そして一度の羽ばたきで大きく飛翔し、一気にスピードを上げてきた。
 
「キャー!! なによ! あの化け物、いきなり速くなってこっちに迫ってくるわよ!! 危ない! 危ないわ!」
 と、男爵が例のごとく大声でさわぐ。

「大丈夫です。どうか慌てないでください、男爵様」
 僕は男爵に声をかけてから、ミュゼットに言った。
「ミュゼット、まずは手前の一体を次の砲弾で倒そう」

「OK! ユウ兄ちゃん」

 ミュゼットがうなずいた二秒ほどあと。
 九発目の砲弾が「ドンッ」と発射された。
 
 ややタイミングが早い。
 が、ミュゼットは落ち着いた様子で、これまで通り砲弾に『フレイムショット』をかけた。
 続いて僕が『エイム』を唱え、それを誘導する。

 距離が近いだけに威力も強い。
 弾が当たった瞬間、ワイバーンは「ギュエエッ」と弾けるように鳴き、炎を上げながらに墜落していった。

 残るは一体――!
 が、もう砲弾を撃つ時間の余裕はない。

「ミュゼット!」

「まかせて!」

 僕の声に、ミュゼットが瞳で返事をする。
 二人の息は今までにないくらい、完全に合っていた。

 ワイバーンは空中を急降下し、今まさに、砲台の砲手の一人に襲い掛かろうとしている。
 砲手は咄嗟に背を向け逃げようとするが、恐怖のあまり足がもつれ、城壁の縁に倒れこんでしまった。

 僕は砲手をかばうため、ミュゼットと男爵をその場に置いて前に出たが、一瞬間に合わない。
 ワイバーンが唸り声を上げながら、砲手を切り裂こうと、鋭く巨大な足爪を振り下ろす。
 
 しかし間一髪で、砲手は悲鳴を上げながら、城壁の上をごろごろ転がり砲台の影に隠れこれをよけた。
 直後「ガンッ」と鋭い音がして、ワイバーンの爪と黒光りする大砲がモロにぶつかった。

 大砲は当然、かなりの重量があるはず。
 なのに大砲はワイバーンの一撃で傾き大きく前へ重心を崩し、そのまま城壁の下へ真っ逆さまに落ちてしまったのだ。

 さすがは空飛ぶドラゴン。凄まじい力だ。
 だが僕の魔法なら――

 ワイバーンは空中をホバリングしながら、次の一撃を加えるべく、体制を整えようとしていた。
 僕はその隙に、倒れた砲手の前に立った。

『ガード!!』

 見えない魔法の壁が、ワイバーンと僕たちの間をきっちりとさえぎってくれる。
 もはや守りは鉄壁。
 ワイバーンがいくらかぎ爪で引っ掻こうが、羽の風圧で吹き飛ばそうとしようが、僕たちに傷一つ付けることはできない。

 ……とはいえ、今回もまた消極的な戦い方ではあった。
 誰が見ても決して格好が良いとは決して言えない。

 それは僕にも分かっている。
 でも、だからといって背伸びをしてもしょうがない。
 回復職ヒーラーとして、今の自分には、これが精一杯やれることなのだ。

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