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第二十六章 デュロワの包囲戦
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「あらミュゼット!」
男爵が叫ぶ。
「アンタ、メイドの仕事はどーしたのよ!」
「へへへー」
ミュゼットは階段を軽いスッテプで登りながら言った。
「ちょっと抜け出してきたっていうか、一休み一休み」
「まあ、結局サボりじゃない!」
「違うよぉ、ちゃんと姉さまたちから許可も取ったから。それにね、なーんだかずいぶんピンチっぽいじゃん。だからそろそろボクの出番かな? ってなんか思ったりして」
「もう、ミュゼットたら! せっかくメイドに戻ったと思ったら、また危険なことに首を突っ込もうとするんだから……」
と、男爵がため息をつく。
「いやーメイド業も嫌いってわけじゃないんだけどね。でもま、やっぱりボクはみんなのために魔法で戦う方が性に合っているかな、なんてね。――あ、ユウ兄ちゃん!」
ミュゼットは僕の姿を目ざとく見つると、守備兵の間をすり抜けてそばに寄ってきた。
「会いたかった。超うれしい!」
ミュゼットは僕に体を引っ付かせ、無理やり腕を組んでくる。
まるで恋人のようなその振る舞いに、兵士たちが顔を見合わせざわつき始めた。
やれやれ、参った……。
いくらミュゼットが天真爛漫で憎めないとはいえ、この切羽詰まった状況では、非常識と謗らても仕方ない。
「ヤダ! ミュゼットたら!」
空気を読んだ男爵が、慌てて兵士たちをなだめる。
「みんなごめんなさいね。この子まだ子供から、大目に見てやってね」
「えーなんで男爵様が謝るのさ」
むくれるミュゼットを僕はさりげなく押しのけ、咳払いをして言った。
「みなさんはおそらくご存じないでしょうが、実はこう見えても彼――いや彼女は炎の魔法を自在に操ることができ、その上王の騎士団の一員なんです。ワイバーンを打ち倒すためぜひ協力してもらいましょう」
王の騎士団の名を出した途端、兵士たちが「おおっ」とどよめき、ミュゼットを見る目がガラリと変った。
ロードラント王室直属の超エリート騎士団の威光は、こんな辺境の地にすら届いていたのだ。
「へへ……なんだか照れるな」
耳目を集め、恥ずかしそうに頭を掻くミュゼット。
とにかく、これで役者と舞台装置はそろった。
あとは城壁を破壊されるまでにワイバーンを倒し、生意気で卑怯なセルジュの鼻をあかしてやるまでだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「さあ、みんな位置について! 砲門を開くのよ!」
男爵が黄色い声で叫ぶ。
男爵が叫ぶ。
「アンタ、メイドの仕事はどーしたのよ!」
「へへへー」
ミュゼットは階段を軽いスッテプで登りながら言った。
「ちょっと抜け出してきたっていうか、一休み一休み」
「まあ、結局サボりじゃない!」
「違うよぉ、ちゃんと姉さまたちから許可も取ったから。それにね、なーんだかずいぶんピンチっぽいじゃん。だからそろそろボクの出番かな? ってなんか思ったりして」
「もう、ミュゼットたら! せっかくメイドに戻ったと思ったら、また危険なことに首を突っ込もうとするんだから……」
と、男爵がため息をつく。
「いやーメイド業も嫌いってわけじゃないんだけどね。でもま、やっぱりボクはみんなのために魔法で戦う方が性に合っているかな、なんてね。――あ、ユウ兄ちゃん!」
ミュゼットは僕の姿を目ざとく見つると、守備兵の間をすり抜けてそばに寄ってきた。
「会いたかった。超うれしい!」
ミュゼットは僕に体を引っ付かせ、無理やり腕を組んでくる。
まるで恋人のようなその振る舞いに、兵士たちが顔を見合わせざわつき始めた。
やれやれ、参った……。
いくらミュゼットが天真爛漫で憎めないとはいえ、この切羽詰まった状況では、非常識と謗らても仕方ない。
「ヤダ! ミュゼットたら!」
空気を読んだ男爵が、慌てて兵士たちをなだめる。
「みんなごめんなさいね。この子まだ子供から、大目に見てやってね」
「えーなんで男爵様が謝るのさ」
むくれるミュゼットを僕はさりげなく押しのけ、咳払いをして言った。
「みなさんはおそらくご存じないでしょうが、実はこう見えても彼――いや彼女は炎の魔法を自在に操ることができ、その上王の騎士団の一員なんです。ワイバーンを打ち倒すためぜひ協力してもらいましょう」
王の騎士団の名を出した途端、兵士たちが「おおっ」とどよめき、ミュゼットを見る目がガラリと変った。
ロードラント王室直属の超エリート騎士団の威光は、こんな辺境の地にすら届いていたのだ。
「へへ……なんだか照れるな」
耳目を集め、恥ずかしそうに頭を掻くミュゼット。
とにかく、これで役者と舞台装置はそろった。
あとは城壁を破壊されるまでにワイバーンを倒し、生意気で卑怯なセルジュの鼻をあかしてやるまでだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「さあ、みんな位置について! 砲門を開くのよ!」
男爵が黄色い声で叫ぶ。
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