異世界最弱だけど最強の回復職《ヒーラー》

波崎コウ

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第二十六章 デュロワの包囲戦

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「お前ら!」
 と、セルジュがワイバーンたち乱暴に命令を下す。
「もう雑魚はどうでもいい! とにかく城壁を徹底的に壊しちまえ! この城にアリス王女が隠れてることは分かっているんだからな、絶対に生け捕りにするんだ!」

 やっぱり、セルジュの狙いはあくまでアリスらしい。
 相変わらず己の肉欲優先で、戦いに勝利することなど二の次三の次なのだ。
 
「ったく、あのクソガキめ!」
 それを聞いていたエリックが忌々しげに言う。
「かわいい顔してるくせに、かわいくねーこと抜かしやがる」

 しかし、どうする?

 たとえセルジュの目的がアリスだとしても、城壁を破壊された時点でロードラント軍の負けは確定。
 エリックの指摘通り、城の中になだれ込んでくるコボルト兵やイーザ騎兵に抵抗するすべはほとんどないからだ。
 なので、そうなる前に、何としてでも十二体のワイバーンをやっつけなければならないのだが――

 弓矢や槍では太刀打ちできない空飛ぶ怪物相手に、何かダメージを与えられそうなものはないか?
 と、僕が城の屋上を見まわしていると、突然セルジュが叫んだ。

「ああっ! お、お前、あの白魔法使い!!」

 この中で白魔法使い――
 ということは、僕以外いない。
 
「よくもよくも!」
 セルジュはワイバーンに跨ったまま僕を見て、顔を真っ赤にして怒っている。 
「俺のレムスを殺られた恨み、忘れねーぜ!!」
  
 ……正確に言えば、襲いかかってきたサーベルタイガーのレムスを剣で突き殺したのはアリスなのだが、セルジュはそう思っていないらしい。 
 しかも、あれは完全な正当防衛。
 恨まれる筋合いはまったくないはずだが、身勝手な悪童セルジュにその理屈は通じない。
 
「おい、命令は一部撤回だ! ドラゴ、お前はあいつを殺せ!」
 セルジュは僕を指さしながら、怒りまかせに喚き散らした。
「他の奴らはとっとと城壁を壊す石を運んで来い。さあ行け!」

 セルジュの態度は極めて横柄だが、それでもワイバーンたちは獣使いビーストテーマ―の命令には従順だった。
 セルジュを乗せたワイバーンを除く十一体のうち、十体は石を探しに北の方角へ一斉に飛び去っていった。
 そして残りの一体、近くを飛んでいたワイバーン・ドラゴが、僕を標的にして風を切り爪を立てながら急降下を始めたのだ。

「行けドラゴ!」
 と、上空からセルジュがけしかける。
「ぼろきれみたいに爪で八つ裂きにしちまえ!」

 ――くそっ、まだ戦う手立てを何も思いついていないのに!

 やむを得ない。
 ここはとりあえず『ガード』の魔法でしのぐしかない。
 そう思って僕が魔法を唱えようとした時、エリックが矢をつがえた大弓を引き絞りながら言った。

「ユウト、俺が弓を放ったら『エイム』の魔法で奴の目を狙え!」

「わ、わかった」

 なるほど、エリックは僕がハイオークを倒した時のことをヒントに、ワイバーンの急所を狙い撃ちするつもりなのだ。 
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