異世界最弱だけど最強の回復職《ヒーラー》

波崎コウ

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第二十四章 油断

(27)

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「キャアッ!!」

 その時、異変に気が付いたリナの叫び声が聞こえた。
 リナは乱入してきたシャノンとふらつく僕を見て、顔をこわばらせている。

 一方、シャノンの動きは俊敏だった。 
 逃げ出すいとまを与えないよう、地面を蹴ってリナに素早く跳びかかった。

「ごめんなさい王女様。あなたもしばらくの間眠っていてもらうわね」

 シャノンはそう言いながら再び頭を軽く振って、リナの顔に長い黒髪を巻きつけた。
 昨日の戦いの恐怖の記憶が甦り、動けなくなったリナは、その髪を振り払うことができない。
 
「ああ……」

 と、リナが小さく吐息を漏らした。
 僕と同じく、シャノンの髪に染みこんだ痺れ薬を吸いこんでしまったのだ。
 途端にリナは体勢を崩し、その場に倒れそうになった。

「あら!」
 リナの体を受け止めたシャノンがほほ笑む。
「うわー王女様、軽い! ヒルダとは大違いね」

 リナにとって不幸だったのは、昨日アリスの身代わりになるために飲んだ薬の効果で、目と髪が金色のままだったことだ。
 そのためシャノンは、自分の腕の中でぐったりする王女が偽物だという事実に、いまだ気づけないでいるのだ。

「じゃあね、ユウト君」

 シャノンはそのままリナをひょいと抱きかかえると、僕の方を向いて言った。

「言った通り王女様は私が責任を持って預からせてもらうわ。――あなたももう戦うのは止めて故郷に帰りなさい。それと、この先くれぐれもヒルダみたいな悪い女とかかわっちゃダメよ!」

「……シャノン……待て!」

 リナを連れどこかへ行ってしまおうとするシャノンを追って、僕は必死に前に進もうとした。

 が、さっき嗅がされた痺れ薬のせいで足元がおぼつかない。
 しかも眠い……。
 まぶたが重くて、目を開けているのがやっとの状態だ。

「あっ!! ユウ兄ちゃん、どうしたの!?」

 背後で誰かが叫んだ。
 笛を吹きながら、少し遅れてやってきたミュゼットの声だ。

「ギャアアアアアアアア――!! 」

 このたまぎるような金切り声は――
 やっぱり、間違いなく男爵……。
 
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