異世界最弱だけど最強の回復職《ヒーラー》

波崎コウ

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第二十四章 油断

(26)

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 ミュゼットが笛を吹き始めたのを確認し、僕は不機嫌そうにしているリナに近づいた。

「あの……リナ様」

「なでしょうか、ユウトさん」
 と、リナはそっけなく答える。

「えっと――デュロワ城はまだまだ遠いですが、一緒に頑張りましょう」

「そうですね、ミュゼットさんという心強い味方もいますしね!」

 リナはそう言うとプイと顔を逸らし、ズンズン一人で先に行ってしまう。

「ちょっと待ってください! 一人だと危険ですよ」
 
 まったくもう、何なんだよ……。
 僕はうろたえながら、リナの後を追った。

 ところがその時――

 突然。
 本当に突然。
 岩場の影から、異常に速い身のこなしの黒い人影がでジャンプして現れ、僕の目の前に降りたったのだ。

 ――げっ!
 まさかっ!!

「思ったより早い再会だったわね、ユウト君」

 そう言ってニッコリほほ笑んだのは、忘れもしない魔女ヒルダの用心棒、女剣士シャノンだった。

 シャノン!!
 どうしてここに――?!

 驚倒して動きが固まった僕に、シャノンは言った。

「そんなに驚かなくていいじゃない。漁夫の利を得るような形になってしまったのは、申し訳ないけれど――」

 そしてシャノンは僕に近づきながら、なぜか頭を軽く振った。
 彼女の濡れ羽色の艶やかな長い髪が、まるで生き物のようにうねる。

「……え!?」

 途端にバラの花の匂いような、甘く上品な香りがした。
 彼女の髪が僕の顔に巻き付いたのだ。

 これってもしや――

「ユウト君には悪いけど、どうしてもアリス王女だけは連れて帰らなければいけないの。だからちょっとの間だけ眠っていてね」

「そんな……」

 僕はシャノンを捕まえようと手を伸ばしたが、体が思うように動かなかった。
 どうやらシャノンは、髪の毛に何かの薬を仕込んでいたらしい。  
 頭が熱っぽくなってぼんやりし、体が空に浮いたようにふわふわする。

「でも安心して。王女の身の安全だけは私が必ず守るから。ヒルダにおかしなことは絶対にさせないわ」

 そのシャノンの言葉も、もう遠くの方からしか聞こえない。

 ま、まずい!
 このままだと……。
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