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第二十四章 油断

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「リナ様、男爵様、僕はミュゼットに加勢してきます。危険この上ないので、お二人は今度こそ絶対にこの場から動かないでください」

「えぇー! また置いてけぼり? ヤダわぁ」
 男爵が不満げに頬を膨らます。

「あのですね男爵様。ここにいたほうがずっと安全だからそう言っているんです! 意外と知恵の回るハイオークが、わざわざリスクを冒して霧の中に入ってくるとは思ませんから。リナ様も分かりましたね!」

 僕は二人にキツめに警告してから、ミュゼットの後を追って霧の外に出た。
 途端に周囲がパッと明るくなり、ミュゼットがハイオークの手前、二十メートルほど離れた位置に立っているのが見えた。

 が、ミュゼットはまったく無防備で身構える様子はない。
 ただ物珍しそうに、巨大なハイオークの姿を見物しているだけだ。

 それに対し道の真ん中に陣取るハイオークは、ビッグサイズの戦斧を手にしながら、白く濁った眼でミュゼットを睥睨へいげいしている。

 しかしハイオークもすぐに戦いを始める様子はなかった。
 それどころが、戸惑いのあまり身動きが取れない感じさえする。
 もしかしたらミュゼットを見て、(なんだ、この子供は?)と首をひねり、何か罠があるのではないかと疑っているのかもしれない。

 確かにミュゼットとハイオークを比較すると、まるで巨人と小人こびとというか、象とアリとが向き合っているようで、まともな戦いが成立するようには思えないのだった。
 
 滑稽にすら見えてしまう圧倒的な体格差――

 ハイオークと戦うに当たって、ミュゼットはいったいどんな戦法を取るつもりなんだろう? 
 と、焦りを感じつつも若干の興味をかきたてられていると、突然、背後から甲高い悲鳴が聞こえた。

「きゃあああああああああーー!!」
 
 この黄色い絶叫……。
 確認するまでない、グリモ男爵の声だ。

 あーあ。
 結局男爵は忠告を無視して、リナと共に霧の中から出てきてしまったのだ。
 そして巨大で強大なハイオークを見て、恐怖の雄叫びを上げたのだ。

「きゃあああああああああああああーー!!」

 しかしいったいいつまで叫んでるだよ、この人……。 
 そんなに怖いんだったら、ずっと隠れてばいいのに……。
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