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第二十三章 ロードラントの笛吹き娘

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 霧の中にすでに敵の姿は確認できなかった。
 イーザ騎兵もコボルト兵もリューゴたちを追いかけ、もうかなり遠くの方まで行ってしまったのだろう。
 
「皆さん、ついてきてください!」

 今がチャンスとばかり、僕は叫んだ。
 と同時に、リナが息もぴったりに馬を走らせる。

 そのすぐ後に男爵、マティアス、クロード、ミュゼットが乗る四騎の馬がひとかたまりになって続く。 
 馬と馬がぶつかりそうなくらいの狭い間隔だが、これぐらい近寄らないと霧の中で互いをすぐ見失ってしまうから仕方ない。

 ――にしても、このスタイルは情けないな。

 リナの腰に腕をまわしながら僕は急に恥ずかしくなった。
 リナに頼らないと馬にも乗れないなんて、いい加減肩身が狭い。
 移動手段のメインが馬であるこの異世界においてはなおさらだ。

 よし!
 この戦いが一段落ついたら、絶対に馬術を習おう。
 ……とは思うが、運動神経のない僕に果たしてできるだろうか?
 
 よりによってこんな時に、現実世界にいた頃のようなネガティブ思考に陥ってしまっていると、リナがちらっと振り向いて訊いてきた。

「あの、ユウトさん、私たちはどこまで走ればいいのでしょうか?」

 そういえばリナは僕と違い、霧のせいで前がほとんど見えないのだった。

「まだ大丈夫です、しばらく真っ直ぐ走ってください。まもなくエリックたちが陣取っていた丘に近づきますから――」

 そこまで言いかけたところで、いきなり僕たちのすぐ横をミュゼットの馬が走り抜けた。
 
「おっ先ー!」
 ミュゼットは元気な声を出して、先に行ってしまう。

 えー、霧が出ているのになんで!? 

 驚く僕に、今度はクロードが馬のスピードを上げ声をかけてきた。

「リナ様、ユウト君、どうかミュゼットの失礼をお許し下さい。ようやく動けるので、張り切り過ぎているようです」

「あのう、もしかして……」
 僕はクロードに訊いた。
「あの人、前が見えているんですか?」

「ええ、多少見通しが悪いですが、ミュゼットの目にも私の目に、この魔法の霧は効果ありません」
 クロードの眼鏡が、きらりと光る。
「ちなみに言うと、他の団員もすべて、それぐらいの能力は持っています」

 ……道理でリューゴたち王の騎士団キングスナイツが霧の中をスイスイ走れたわけだ。
 騎士としてマスターレベルのくらいのある彼らに、僕の『ミスト』程度の魔法は通用しなかったのだ。
 
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