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第二十一章 最強の竜騎士 その名は……
(2)
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ヒルダの悪辣非道ぶりを知らない男爵は自信満々に続ける。
「それにこれからはアタシとマティアスがペアを組んで戦うってことを忘れてない? ロードラント軍歴代最強コンビが復活するんだから、ユウちゃんは大船に乗った気でいていいのよ!」
「はあ……」
「ヤダァ、なにその”何の期待もしません”的な反応!」
心外そうに男爵は叫んだ。
「あのね、言っときますけどね、アタシも宮仕えする前は士官学校をトップで出た立派な軍人だったのよ! そしてその相棒は成績2位のマティアスというわけ。ねぇ、それで強くないわけがないでしょ? グリモの知略とマティアスの武勇――相性ピッタリで、二人の力が合わされば向かうところまったく敵なし! そうだったわよね、マティアス?」
「まあな……」
と、マティアスは無愛想にうなずく。
男爵の話のみだと今一つ信憑性に欠ける気がする。が、生真面目なマティアスがそれを認めているのだ。
歴代最強かどうかはともかく、二人がかつて軍の中で抜きんでた存在だったことは事実なのだろう。
「――それだけじゃないわ」
と、男爵は突然ニヤつき、続けて言った。
「アタシたち二人、アッチの方の相性も最高だったのよ♡ それはもう激しくて激しくて!」
……さすが男爵。
こんな時でも猥談をはさむのを忘れない。
「ま、また朝っぱらから下品な話題ですか!」
下ネタを黙って受け流せないリナが、すかさず男爵にかみつく。
「ホントにいい加減にしてください!」
「あらーずいぶんお堅いのね、ニセ王女様は」
しかし男爵はリナの抗議なんてへっちゃらだ。
むしろ、リナのうぶな反応を楽しんでいる。
「むしろあなたが柔らかすぎます! それに今日の私はアリス様の代わりじゃありません! リナ=クラウスとしてここにいるんです!」
「オホホホ、そうだったわ。ごめんなさいねぇ。――あら、なあに? マティアスったらそんな凶暴な目でアタシを見ちゃって。え、アタシ、何かまたイケないこと言っちゃったかしら?」
マティアスは怒りで震えながら一言――
「……グリモ、後で覚えておけよ」
その声は、本気で怖い。
とほほ。
先が思いやられるのはこっちの方だよ……。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
そんな愚にもつかない会話をしながら、僕たちは草原を走り続けた。
ハイオークとイーザ騎兵隊と戦った平原は、もう間近に迫っている。
だが現在の戦況が不明な以上、策もなく突っ込むわけにはいかない。
おまけにこちらの戦力はたったの四名。慎重に行動せざるを得ないのだ。
そこで僕たちはいったん馬を降り、戦場を上から観察するため、平原のはずれにある岩山に登ることにした。
――エリック、トマス、それにみんな、どうか無事でいてくれ。
祈るような気持ちで、かなりの急勾配の岩でごつごつした坂を這うようにして進む。
敵はもう目と鼻の先。
男爵の軽口もさすがに止み、僕たちの間に重苦しい空気が流れる。
できれば見たくない。
でも、現実に起こっている出来事から目を背けるわけにいかない。
ようやく岩山を登り切り、その頂上から僕たちが目撃した光景は――
想像をはるかに超えた、ショッキングなものだった。
「それにこれからはアタシとマティアスがペアを組んで戦うってことを忘れてない? ロードラント軍歴代最強コンビが復活するんだから、ユウちゃんは大船に乗った気でいていいのよ!」
「はあ……」
「ヤダァ、なにその”何の期待もしません”的な反応!」
心外そうに男爵は叫んだ。
「あのね、言っときますけどね、アタシも宮仕えする前は士官学校をトップで出た立派な軍人だったのよ! そしてその相棒は成績2位のマティアスというわけ。ねぇ、それで強くないわけがないでしょ? グリモの知略とマティアスの武勇――相性ピッタリで、二人の力が合わされば向かうところまったく敵なし! そうだったわよね、マティアス?」
「まあな……」
と、マティアスは無愛想にうなずく。
男爵の話のみだと今一つ信憑性に欠ける気がする。が、生真面目なマティアスがそれを認めているのだ。
歴代最強かどうかはともかく、二人がかつて軍の中で抜きんでた存在だったことは事実なのだろう。
「――それだけじゃないわ」
と、男爵は突然ニヤつき、続けて言った。
「アタシたち二人、アッチの方の相性も最高だったのよ♡ それはもう激しくて激しくて!」
……さすが男爵。
こんな時でも猥談をはさむのを忘れない。
「ま、また朝っぱらから下品な話題ですか!」
下ネタを黙って受け流せないリナが、すかさず男爵にかみつく。
「ホントにいい加減にしてください!」
「あらーずいぶんお堅いのね、ニセ王女様は」
しかし男爵はリナの抗議なんてへっちゃらだ。
むしろ、リナのうぶな反応を楽しんでいる。
「むしろあなたが柔らかすぎます! それに今日の私はアリス様の代わりじゃありません! リナ=クラウスとしてここにいるんです!」
「オホホホ、そうだったわ。ごめんなさいねぇ。――あら、なあに? マティアスったらそんな凶暴な目でアタシを見ちゃって。え、アタシ、何かまたイケないこと言っちゃったかしら?」
マティアスは怒りで震えながら一言――
「……グリモ、後で覚えておけよ」
その声は、本気で怖い。
とほほ。
先が思いやられるのはこっちの方だよ……。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
そんな愚にもつかない会話をしながら、僕たちは草原を走り続けた。
ハイオークとイーザ騎兵隊と戦った平原は、もう間近に迫っている。
だが現在の戦況が不明な以上、策もなく突っ込むわけにはいかない。
おまけにこちらの戦力はたったの四名。慎重に行動せざるを得ないのだ。
そこで僕たちはいったん馬を降り、戦場を上から観察するため、平原のはずれにある岩山に登ることにした。
――エリック、トマス、それにみんな、どうか無事でいてくれ。
祈るような気持ちで、かなりの急勾配の岩でごつごつした坂を這うようにして進む。
敵はもう目と鼻の先。
男爵の軽口もさすがに止み、僕たちの間に重苦しい空気が流れる。
できれば見たくない。
でも、現実に起こっている出来事から目を背けるわけにいかない。
ようやく岩山を登り切り、その頂上から僕たちが目撃した光景は――
想像をはるかに超えた、ショッキングなものだった。
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