異世界最弱だけど最強の回復職《ヒーラー》

波崎コウ

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第二十章 再び戦場へ

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 マティアスはバツの悪そうな顔をして言った。

「ユウト、そう驚くな。お前を散々利用しておいて、今さら虫のいい頼みだというのは百も承知だ。が、取り残された兵士たちを救うにはどうしても皆で力を合わせなければならない――そう思い直しここで待っていたのだ。戦場に戻る際、お前も必ずこの道を通ると思ってな」

「でも、なぜ!?」
  
 リナに続いてマティアスまで……。
 あまりに意外で、僕はつい声を上げてしまった。

「マティアス様は、アリス様さえ無事ならば他の兵士のことなどどうでもよかったのでは?」

「……これはキツイ言葉だな。確かに今までの俺ならそうだったかもしれない。しかし昨日グリモにコテンパンに叩きのめされ――また、なによりもユウト、仲間のためなら危険を顧みないお前を見て俺の中に忘れていた何かが蘇ったのだ」
 マティアスはそう言って、ふっと目を閉じた。
「俺もかつて、たとえ上官に背こうとも己の信ずる騎士の道を貫く心を持っていた。ちょうど今のお前のようにな」

 戦場に置いては常に冷静沈着かつ勇猛果敢なマティアス。
 騎士道とは縁もゆかりもない僕のような落ちこぼれが、彼のようなエリート竜騎士に影響を与えていたとは……。

 ――にしても、こちらの世界に来てなぜか人に褒められるような機会が増えた。
 けれどやっぱり慣れない。こそばゆいのだ。
 
 マティアスは目を開け、空を見上げた。

「ところが俺はいつしか、命令にただ盲従し、目的を果たすためなら部下を容赦なく切り捨て、あまつさえ女子供を犠牲することさえいとわない――そんな卑劣な人間に成り下がっていた。どうしてなのか自分でも分からない」
  
「まあ、それに気付けただけでも良かったわよ」
 肩を落とすマティアスに、男爵が声をかける。
「まだ救いはあるわ」

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