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第十六章 魔女の正体
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「どうしたんだい? この程度の魔法、オマエの実力ならすぐにでも解けるはずだろう?――さあ早く! ワタシを殺すことができなければ、命あるものすべてが闇の中に消える!」
そう叫んで、ヒルダは狂ったように笑い出した。
――見抜かれている!
ヒルダの笑い声を聞きながら、一瞬心臓が止まったような気がした。
少し戦っただけなのに、ヒルダは僕の魔法の力量を完全に把握していたのだ。
ということは、さっき考えた不意打ち作戦をたとえ実行に移していたとしても、失敗して返り討ちにあっていた可能性が高い。
……もはや万策尽きた。
今の僕はヒルダの手の上で踊らされているだけだ。
ここはひとまず、彼女の言う通りにするしかない。
僕は諦めて、体の拘束を解くため魔法を唱えた。
『ブレイク!』
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『ブレイク』
さまざまな魔法効果を打ち消せる白魔法。
術者のレベルが高いほど効果も大きい。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『ブレイク』を唱え終わった途端、体に巻き付いていた『イビルバインド』の魔法のリボンは消滅し、自由に動けるようになった。
しかし、だからといってこれからどう戦えばいいのか皆目見当がつかなかった。
「ワタシを殺してみろ」――だと?
あり得ない。
この状況で、ヒルダが無抵抗のまま僕に殺されるわけない。
つまり彼女の誘いは100%罠だ。
では、その罠の中身は?
ヒルダがすぐにでも『アストラル』の魔法を発動させないのはいったいなぜか?
……だめだ。
ヒルダの狙いがまったく読めない。
魔法を解除し身軽になったものの、僕はそれ以上何もできなかった。
その様子を見て、ヒルダがしきりにけしかけてくる。
「ユウト、よくぞワタシの魔法を解いた。でも、いつまでそこで突っ立ってるつもり?」
「………………」
「その様子じゃあ埒が明かないねえ」
ヒルダが妖艶にほほ笑む。
「ならば時間を区切ってやろうか。そうだ――あの夕日が完全に沈んだ時ワタシはこの『アストラル』を発動させてみせよう」
森の木々の間から見える遠い山々の稜線に、沈みかけの赤い夕陽が見えた。
猶予はあと10分ぐらいか。
「ちなみに今、ワタシは他の魔法は一切使えない。つまりオマエがそこに転がっている剣で私を殺すことは赤子の手をひねるより簡単というわけだ」
僕はさっき地面に落としたショートソードを見た。
刃にはまだ乾きかけたヒルダの血糊が生々しく残っている。
ゴクリとつばを飲み込みソードを拾う。
それだけで動悸が一気に激しくなった。
ヒルダに僕の魔法が通用しない以上、これで彼女を殺るしかないのだが――
――と、その時、背後から予期せぬ声が飛んできた。
「殺せっ、ユウト、もうお前がヒルダを殺すしかない!」
負傷し、地面に膝をついたままのマティアスだ。
その目は血走りランランと輝いている。
さらに――
「そうだ! やれ!」
「殺せ! 魔女を殺せ!」
「殺せ! 殺せ! 殺せ!」
ようやくアンデッドを倒し終えた竜騎士たちのが、一斉に叫び出した。
そう叫んで、ヒルダは狂ったように笑い出した。
――見抜かれている!
ヒルダの笑い声を聞きながら、一瞬心臓が止まったような気がした。
少し戦っただけなのに、ヒルダは僕の魔法の力量を完全に把握していたのだ。
ということは、さっき考えた不意打ち作戦をたとえ実行に移していたとしても、失敗して返り討ちにあっていた可能性が高い。
……もはや万策尽きた。
今の僕はヒルダの手の上で踊らされているだけだ。
ここはひとまず、彼女の言う通りにするしかない。
僕は諦めて、体の拘束を解くため魔法を唱えた。
『ブレイク!』
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『ブレイク』
さまざまな魔法効果を打ち消せる白魔法。
術者のレベルが高いほど効果も大きい。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『ブレイク』を唱え終わった途端、体に巻き付いていた『イビルバインド』の魔法のリボンは消滅し、自由に動けるようになった。
しかし、だからといってこれからどう戦えばいいのか皆目見当がつかなかった。
「ワタシを殺してみろ」――だと?
あり得ない。
この状況で、ヒルダが無抵抗のまま僕に殺されるわけない。
つまり彼女の誘いは100%罠だ。
では、その罠の中身は?
ヒルダがすぐにでも『アストラル』の魔法を発動させないのはいったいなぜか?
……だめだ。
ヒルダの狙いがまったく読めない。
魔法を解除し身軽になったものの、僕はそれ以上何もできなかった。
その様子を見て、ヒルダがしきりにけしかけてくる。
「ユウト、よくぞワタシの魔法を解いた。でも、いつまでそこで突っ立ってるつもり?」
「………………」
「その様子じゃあ埒が明かないねえ」
ヒルダが妖艶にほほ笑む。
「ならば時間を区切ってやろうか。そうだ――あの夕日が完全に沈んだ時ワタシはこの『アストラル』を発動させてみせよう」
森の木々の間から見える遠い山々の稜線に、沈みかけの赤い夕陽が見えた。
猶予はあと10分ぐらいか。
「ちなみに今、ワタシは他の魔法は一切使えない。つまりオマエがそこに転がっている剣で私を殺すことは赤子の手をひねるより簡単というわけだ」
僕はさっき地面に落としたショートソードを見た。
刃にはまだ乾きかけたヒルダの血糊が生々しく残っている。
ゴクリとつばを飲み込みソードを拾う。
それだけで動悸が一気に激しくなった。
ヒルダに僕の魔法が通用しない以上、これで彼女を殺るしかないのだが――
――と、その時、背後から予期せぬ声が飛んできた。
「殺せっ、ユウト、もうお前がヒルダを殺すしかない!」
負傷し、地面に膝をついたままのマティアスだ。
その目は血走りランランと輝いている。
さらに――
「そうだ! やれ!」
「殺せ! 魔女を殺せ!」
「殺せ! 殺せ! 殺せ!」
ようやくアンデッドを倒し終えた竜騎士たちのが、一斉に叫び出した。
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