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第十章 邪悪
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魔法で傷を回復してあげたとはいえ、セフィーゼはついさっきまで命がけの死闘を演じてきた相手だ。
これ以上何を話していいかわからないし、話すこともない。
僕は、落ち込むセフィーゼを前にして急に気まずくなり、助けを求めるようにヘクターの方へ顔を向けた。
ヘクターは少し離れた場所からセフィーゼを見守っていたが、僕と視線が合うとすぐに深々と頭を下げた。
セフィーゼの命を取らなかったことに、一応恩義を感じているらしい。
彼ならきっと約束を守って、セフィーゼを連れ、いまだ丘の上でにらみを利かせているイーザ騎兵団を穏便に撤退させてくれるだろう。
これで正真正銘、決闘は終わった。
僕は心底ほっとしてセフィーゼから離れ、戦場の中にアリスの姿を探した。
「今度こそやったな、ユウト!」
アリスが向こうから大声で叫び、無邪気に手を振っている。
「お前となら勝てる――私の予想は当たった!!」
アリスはひたすら明るかった。
とても大国の王女様とは思えない屈託のなさだ。
……ものすごくかわいい。
その時、素直にそう思った。
できることなら走り寄って、ぎゅっと抱きしめたかった。
が、もちろんそれは妄想の中だけ。
一介の兵士が、王女様に抱きつくなんて恐れ多いにも程がある。
いや、それ以前に、現実世界で根暗の引きこもりだった僕にそんな勇気はない。
それでも、せめて精一杯の好意を伝えたくて、僕はアリスに笑顔で手を振り返した。
ところが――
「グルルルルルルーー」
突然、恐ろしげな唸り声とともに、茶色の塊が猛スピードで僕とアリスの間に飛び込んできたではないか。
それは現実世界では見たことのない獣だった。
大きさはライオンぐらい。
黄色く光る獰猛な目でこちらをにらみ、真っ赤にさけた口からは二本の長い牙が伸びて、そこからよだれをダラダラ垂らしている。
あの二本の大きな牙――もしかしてサーベルタイガー?
この異世界になら、どんな伝説上の生物が存在していても驚きはない。
それにしても、次から次へと……。
ハイオークと戦い、魔法少女と戦い、今度の相手は幻の野獣か。
これ以上何を話していいかわからないし、話すこともない。
僕は、落ち込むセフィーゼを前にして急に気まずくなり、助けを求めるようにヘクターの方へ顔を向けた。
ヘクターは少し離れた場所からセフィーゼを見守っていたが、僕と視線が合うとすぐに深々と頭を下げた。
セフィーゼの命を取らなかったことに、一応恩義を感じているらしい。
彼ならきっと約束を守って、セフィーゼを連れ、いまだ丘の上でにらみを利かせているイーザ騎兵団を穏便に撤退させてくれるだろう。
これで正真正銘、決闘は終わった。
僕は心底ほっとしてセフィーゼから離れ、戦場の中にアリスの姿を探した。
「今度こそやったな、ユウト!」
アリスが向こうから大声で叫び、無邪気に手を振っている。
「お前となら勝てる――私の予想は当たった!!」
アリスはひたすら明るかった。
とても大国の王女様とは思えない屈託のなさだ。
……ものすごくかわいい。
その時、素直にそう思った。
できることなら走り寄って、ぎゅっと抱きしめたかった。
が、もちろんそれは妄想の中だけ。
一介の兵士が、王女様に抱きつくなんて恐れ多いにも程がある。
いや、それ以前に、現実世界で根暗の引きこもりだった僕にそんな勇気はない。
それでも、せめて精一杯の好意を伝えたくて、僕はアリスに笑顔で手を振り返した。
ところが――
「グルルルルルルーー」
突然、恐ろしげな唸り声とともに、茶色の塊が猛スピードで僕とアリスの間に飛び込んできたではないか。
それは現実世界では見たことのない獣だった。
大きさはライオンぐらい。
黄色く光る獰猛な目でこちらをにらみ、真っ赤にさけた口からは二本の長い牙が伸びて、そこからよだれをダラダラ垂らしている。
あの二本の大きな牙――もしかしてサーベルタイガー?
この異世界になら、どんな伝説上の生物が存在していても驚きはない。
それにしても、次から次へと……。
ハイオークと戦い、魔法少女と戦い、今度の相手は幻の野獣か。
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