異世界最弱だけど最強の回復職《ヒーラー》

波崎コウ

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第九章 決闘《デュエル》

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 僕はアリスの元へ歩いて向かった。
 本当は走って行こうとしたが、疲れてしまってそれはできなかった。

 にしても、アリスになんて声をかけようか?
「よく戦ったね!」と、褒めてあげたいけれど、なにしろ相手は目上の王女様。
 おいそれとタメ口は叩けない。

 うーん、案外人の褒め方って難しいんだよな……。
 などと考えていると――

「ユウト、後ろだ! セフィーゼが!!」
 アリスが叫んだ。

 ああ、やっぱりまだ続くのか……。
 僕は暗澹あんたんとして後ろを振り返った。

「みんな、みんな死んじゃえ――!」

 思った通り、そこには全身から凄まじい呪いのオーラを発しているセフィーゼの姿があった。
 セフィーゼは、両手を天に掲げて叫ぶ。

『ミストラル――!!』

 ほんの数秒で、空に例の虹色の竜巻が発生した。
 セフィーゼは最後の死力を振り絞って、究極の風魔法を使おうというのだ。  

 血の連鎖が止まらない。
 これではロードラントかイーザか、どちら側かが全員死ぬまで延々と戦い続けなければならなくなる。
 いくら戦争だからといって、そんなことあっていいわけない。

「セフィーゼ、落ち着きなさい!」
 ヘクターが離れた場所から叫ぶ。

『ミストラル』の威力が強すぎて、ヘクターですらセフィーゼのそばに寄れないのだ。

「うるさい! わたしはまだ降参してない!  こいつらにわたしの最後の切り札をお見舞いしてやるんだから!!」
    
 荒れ狂う虹色の竜巻はみるみる勢いを増し、膨れ上がっていく。
 巻き上がった砂が視界を遮り、飛んでくる石ころが体に当たってやたら痛い。

 近づくだけで危険極まりない状況。
 が、僕はかまわずセフィーゼの方へ向かって歩いていった。

「ユウト! 見なさいよ! 私の魔法はこんなにすごいんだから!」

 セフィーゼが風の中に僕の姿を認め叫んだ。
 そのエメラルドの瞳の中には狂気が宿り、血だらけの顔には笑みすら浮かんでいた。
 彼女は追い詰められて完全に自己を見失っている。
 要するにイっちゃっているのだ。
 
 正式な決闘デュエルの結果とはいえ、セフィーゼをこんな風にしてしまったのは、追い詰めすぎた僕にも責任の一端はある。
 だからこそ、きちんとけりを付けなければならない。 

 僕は風に飛ばされないよう足をしっかり踏みしめ、何とかセフィーゼの真正面、魔法の射程範囲内に立った。
 ここまで近づければ十分だ。


 ――そして、その時は来た。


「くらえーー!!」
 セフィーゼが絶叫する。

 セフィーゼ、切り札と言うのは最後まで隠しておくものだ。
 でないと……。

『シール!』
 セフィーゼが魔法を唱え終える前に、僕は叫んだ。

 すると彼女の体は濃い青色の光に包まれ、上空にあった虹色の突然竜巻が突然消えた。
 わずかなそよ風さえピタリと止んだのだ。


 ――でないと、こうなってしまう。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇


『シール』


 敵一体の魔法を封じる攻撃補助魔法。
 相手より魔力が高ければそれだけ成功する確率も高くなる。


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