104 / 503
第七章 死闘
(23)
しおりを挟む
ハイオークが倒れたのを見て、後方のロードラント軍の陣営から大きな歓声が上がった。
「西へ! 全軍突撃」
続いてアリスの声が轟く。
当初の作戦通り、進撃を開始したのだ。
一方、ハイオークという絶対的なボスを失ったコボルト兵は大混乱に陥っていた。
統制と戦意を一気に喪失し、もはやまともに戦うことができない。
ロードラント軍は、そんな数千のコボルト兵を一方的に蹴散らしていく。
この様子なら、アリスたちとはすぐに合流できそうだ。
――だが、ホッとしている時間はなかった。
エリックの状態はおそらく一刻を争うからだ。
僕は急いでエリックに駆け寄り、ケガの程度をざっと確かめた。
口からかなりの量の血を吐き続けている。肺か気管が傷ついているのかもしれない。
ハイオークにぶん投げられた時に折った右足の状態も、かなりひどい。
しかし、少なくとも死んではいない。
よかった、これなら僕の魔法で――
僕はまず、エリックの右足を手でまっすぐに伸ばしてあげた。
それから、できる限りの魔力を込め『リカバー』を唱えた。
効果はてきめん。
吐血は治まり、みるみる顔に赤みが戻ってきた。
折れた足の骨も、すぐに元通りという訳にはいかないが、着実に修復されていく。
とにかく危険な状態は脱したようだ。
「ユウトさん!」
リナの弾んだ声だ。馬を降り、こちらに走って来た。
「やりましたね!」
「いえ、あの時リナ様が弓を射ってくれたおかげです」
「私はユウトさん指示に従っただけです。でも、まさか魔法で矢を操れるなんてことができるとは思いませんでした。――あ、エリックさん!!」
「おい、ユウト……」
エリックが目を覚ました。
口をわずかに動かし、なんとか声を出す。
「……ユウト、俺はもう大丈夫だ。それよりマティアスの治療を頼む」
「西へ! 全軍突撃」
続いてアリスの声が轟く。
当初の作戦通り、進撃を開始したのだ。
一方、ハイオークという絶対的なボスを失ったコボルト兵は大混乱に陥っていた。
統制と戦意を一気に喪失し、もはやまともに戦うことができない。
ロードラント軍は、そんな数千のコボルト兵を一方的に蹴散らしていく。
この様子なら、アリスたちとはすぐに合流できそうだ。
――だが、ホッとしている時間はなかった。
エリックの状態はおそらく一刻を争うからだ。
僕は急いでエリックに駆け寄り、ケガの程度をざっと確かめた。
口からかなりの量の血を吐き続けている。肺か気管が傷ついているのかもしれない。
ハイオークにぶん投げられた時に折った右足の状態も、かなりひどい。
しかし、少なくとも死んではいない。
よかった、これなら僕の魔法で――
僕はまず、エリックの右足を手でまっすぐに伸ばしてあげた。
それから、できる限りの魔力を込め『リカバー』を唱えた。
効果はてきめん。
吐血は治まり、みるみる顔に赤みが戻ってきた。
折れた足の骨も、すぐに元通りという訳にはいかないが、着実に修復されていく。
とにかく危険な状態は脱したようだ。
「ユウトさん!」
リナの弾んだ声だ。馬を降り、こちらに走って来た。
「やりましたね!」
「いえ、あの時リナ様が弓を射ってくれたおかげです」
「私はユウトさん指示に従っただけです。でも、まさか魔法で矢を操れるなんてことができるとは思いませんでした。――あ、エリックさん!!」
「おい、ユウト……」
エリックが目を覚ました。
口をわずかに動かし、なんとか声を出す。
「……ユウト、俺はもう大丈夫だ。それよりマティアスの治療を頼む」
0
お気に入りに追加
218
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる