異世界最弱だけど最強の回復職《ヒーラー》

波崎コウ

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第七章 死闘

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 次の瞬間「パンッ」と、今までとは少し違った音がした。
 より強化された『ガード』の魔法の壁が、ハイオークの拳を強く跳ね返した、その衝撃音だ。

 相当痛かったのか、ハイオークは手首をふるわせ恐ろしい顔で僕を見下ろしながら「グルルル」と吠えた。
 
 ところが、どんなに怒り狂っても、今のハイオークの力では『ガード』の壁は破れない。
 ようやくそれを理解したのだろう。
 ハイオークは攻撃を中断し、何か武器はないかと周囲を探し始めた。

 ――よし! こちらの計算通りだ。

 ハイオークはすぐに、竜騎士の長槍が少し離れた場所に落ちているのを見つけた。
 そして、その長槍を取ろうと体の向きを変え、足を引きずりながら歩いていった。

 もしあれで強く突き刺されたら、たぶん僕の『ガード』の魔法は破られてしまうだろう。
 けれど、そんなことはどうでもよかった。その前に決着をつけるのだから。

 僕は『ガード』の魔力を使うのをめ、リナに向かって大声で叫んだ。

「リナ様、ボウガンを構えてハイオークを狙ってください!!」

 いきなりそんなことを言われて、リナは戸惑ったと思う。
 クロスボウの矢がハイオークに効くわけない。それは誰もが分かり切っていることだからだ。
 が、リナが現実世界と同じ素直な性格ならば、きっと指示に従ってくれる――
 僕はそう信じていた。

 馬上のリナは一瞬困惑した様子だったが、果たしてすぐに、
「は、はい!!!」
 と返事をしてクロスボウを構え、ハイオークに狙いを定めた。

 その時、ハイオークはちょうど地面に落ちていた長槍を拾い上げところだった。
 人語が分かるのだから、当然僕が叫んだ内容は分かっているはず。
 だが、まったく無視している。
 今さらクロスボウの矢がどこに当たっても、ダメージはほとんどないと思っているのだ。 

 ハイオークは長槍を手にしてこちらに向き直ると、緑の血で染まった顔に不気味な笑いを浮かべ、
「……コンドコソコロス」
 と、つぶやきながら、一歩一歩こちらに向かって歩き出した。

 ――チャンスは今しかない!
 そう判断した僕は、リナに向かって叫んだ。

「リナ様、撃ってください!!」

「えいっ!」
 リナはクロスボウをハイオーク目がけて二発連射した。

 一見無意味な攻撃。
 ハイオークの体にどんな場所に命中しても、矢は跳ね返されてしまうだろう。

 しかし―― 

『エイム!』

 僕はあらん限りの魔力を込め、そう唱えた。
 魔法の効果を受けて、二本の矢がほんの一瞬光る。    

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