異世界最弱だけど最強の回復職《ヒーラー》

波崎コウ

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第六章 戦いの始まり

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 僕は兵士たちの間をすり抜け、なんとかアリスに近づこうとした。
 その間も、絶えず矢は飛んでくる。

 そしてついに、一本の矢がアリスの肩に当たってしまった。

つう!」

 アリスが叫ぶ。
 が、幸い矢の威力は弱く、アリスの銀の鎧の肩当てに跳ね返され地面に落ちた。
 それでも結構痛かったようで、アリスは顔をしかめている。

「アリス様!」
 僕はやっとの思いでアリスの馬の脇に寄った。

「おお、ユウトか!」
 アリスが一瞬ホッとしたような顔をした。

「今の矢! お怪我はありませんか?」

「いや、鎧が少し凹んだだけだ」

「でもここは危険すぎます。アリス様、矢を防ぐためとりあえず『ガード』の魔法をかけますね」

 僕は、自分とアリスを対象に『ガード』の呪文を唱えた。
 魔法の透明な壁が、たちまち二人を囲む。

「これでしばらくは安全です。さあアリス様、今のうちに安全な場所へ」
 
「いいや、兵を放っておいて私だけ引くわけにはいかない。それよりユウト、他の兵士全体にその魔法を使ってくれ。頼む!」

 まったくアリスは無茶を言う。
 いくら白魔法が得意でも、出来ることと出来ないことがあるのだ。

「いや……それはちょっと無理なんです。『ガード』の効果範囲は限定的なので」

「では、他になにか魔法はないのか! 敵を攻撃する魔法は?」

 そう言われても困ってしまう。
 僕はしょせん白魔法しか使えないのだ。
 さっきそれは言っておいたずだけど……。

「ユウト、このままだと被害が広がるばかりだぞ!」

 アリスの悲痛な叫びを聞いて、僕は唇を噛んだ。

 しまった――
 やっぱり自分は選択を過ていった。
 最初から奇をてらわず、回復職ヒーラーよりも、黒魔法を使える職種を選んでおくべきだったのだ。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 しかしその時、レーモンの確固たる声が戦場にこだました。

「全軍、第三の防御陣形を取れ! 訓練の通りやればよいのだ」


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