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第四章 初めての魔法
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きらりと光る剣の刃を見て、僕はひやひやした。
レーモンはただ脅しているのではない。
もしこのままアリスやティルファに近づけば、レーモンは容赦なく僕を叩き切るだろう。
エリックが言っていた通り、彼ら騎士たちにとって何よりも優先するのはアリスの安全。
理不尽だが、この世界では正しい行いなのだ。
悔しい。
せっかく白魔法の力を身に付けたというのに、ひん死の人を目の前にしてどうすることもできないのか――
「おいおいユウト!」
エリックが僕の肩をつかみ、かばうように前へ出た。
「おめーなあにやってんだよ」
「エリック……」
「へへ、すみませんレーモン様。身分もわきまえず出過ぎたまねをして。なにしろこいつ、田舎から出てきたばかりなもんで」
エリックは必死にフォローしてくれる。
「後でよーく言い聞かせますので、今回だけはお見逃しを」
「……うむ」
レーモンはうなずいて剣を鞘に納めた。
「確かに今、味方同士で争っている場合ではない。二人ともさっさと下がれ」
よし、これでいきなり切り捨てられる心配はなくなった。
ありがとう、エリック。
僕はエリックに感謝しつつ、一か八かの賭けに出ることにした。
息を吸い込み、アリスに聞こえるよう大声を出す。
「ティルファ様は毒に侵されているのです! 私なら、その毒を取り除くことができます!!」
いったい自分の中のどこにそんな勇気があったのか――
どうやら僕の声はアリスに届いたようだ。
「なんだと!!」
アリスは振り向き、目を見開いた。
そして、すごい勢いでこちらに近づいてくる。
「アリス様、お待ちください――」
レーモンが慌ててアリスを止めようとするが、
「どけっ!」
と、アリスはレーモンの手をはねのけ、ズカズカ歩き僕の前まで来た。
「いま叫んだのはお前だな?」
「は、はい」
「おい!!」
アリスは僕の両肩をガシッとつかみ、ゆさゆさ揺さぶり大声を出す。
「ティルファ助けられるというのは本当なんだな? 本当なんだな?」
痛てて……。
思いがけない強い力に、僕は目を白黒させながら答えた。
「え、ええ。僕の魔法なら大丈夫、だと思います」
「嘘ならばただではおかぬぞ」
「分かっています。で、でも急がないと間に合いません」
そう言いつつも、果たして本当に自分にできるのだろうか、と一瞬頭に不安がよぎる。
が、もはや引っ込みはつかない。
「お前、名は何と言う?」
「ユウトです」
「よし。ユウト、来い!」
アリスは僕の手を握ると、ぐいぐいとティルファの方へ引っ張っていく。
皮膚に食い込むアリスの手の感触は、とても冷たい。
「アリス様、何を――! ダメです! いけません!」
レーモンが必死に叫んでいる。
だがアリスはそんなこと歯牙にもかけない。
さすがはロードラントの王女様。
自分を絶対に押し通すのだ。
レーモンはただ脅しているのではない。
もしこのままアリスやティルファに近づけば、レーモンは容赦なく僕を叩き切るだろう。
エリックが言っていた通り、彼ら騎士たちにとって何よりも優先するのはアリスの安全。
理不尽だが、この世界では正しい行いなのだ。
悔しい。
せっかく白魔法の力を身に付けたというのに、ひん死の人を目の前にしてどうすることもできないのか――
「おいおいユウト!」
エリックが僕の肩をつかみ、かばうように前へ出た。
「おめーなあにやってんだよ」
「エリック……」
「へへ、すみませんレーモン様。身分もわきまえず出過ぎたまねをして。なにしろこいつ、田舎から出てきたばかりなもんで」
エリックは必死にフォローしてくれる。
「後でよーく言い聞かせますので、今回だけはお見逃しを」
「……うむ」
レーモンはうなずいて剣を鞘に納めた。
「確かに今、味方同士で争っている場合ではない。二人ともさっさと下がれ」
よし、これでいきなり切り捨てられる心配はなくなった。
ありがとう、エリック。
僕はエリックに感謝しつつ、一か八かの賭けに出ることにした。
息を吸い込み、アリスに聞こえるよう大声を出す。
「ティルファ様は毒に侵されているのです! 私なら、その毒を取り除くことができます!!」
いったい自分の中のどこにそんな勇気があったのか――
どうやら僕の声はアリスに届いたようだ。
「なんだと!!」
アリスは振り向き、目を見開いた。
そして、すごい勢いでこちらに近づいてくる。
「アリス様、お待ちください――」
レーモンが慌ててアリスを止めようとするが、
「どけっ!」
と、アリスはレーモンの手をはねのけ、ズカズカ歩き僕の前まで来た。
「いま叫んだのはお前だな?」
「は、はい」
「おい!!」
アリスは僕の両肩をガシッとつかみ、ゆさゆさ揺さぶり大声を出す。
「ティルファ助けられるというのは本当なんだな? 本当なんだな?」
痛てて……。
思いがけない強い力に、僕は目を白黒させながら答えた。
「え、ええ。僕の魔法なら大丈夫、だと思います」
「嘘ならばただではおかぬぞ」
「分かっています。で、でも急がないと間に合いません」
そう言いつつも、果たして本当に自分にできるのだろうか、と一瞬頭に不安がよぎる。
が、もはや引っ込みはつかない。
「お前、名は何と言う?」
「ユウトです」
「よし。ユウト、来い!」
アリスは僕の手を握ると、ぐいぐいとティルファの方へ引っ張っていく。
皮膚に食い込むアリスの手の感触は、とても冷たい。
「アリス様、何を――! ダメです! いけません!」
レーモンが必死に叫んでいる。
だがアリスはそんなこと歯牙にもかけない。
さすがはロードラントの王女様。
自分を絶対に押し通すのだ。
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