異世界最弱だけど最強の回復職《ヒーラー》

波崎コウ

文字の大きさ
上 下
46 / 505
第四章 初めての魔法

(16)

しおりを挟む
 きらりと光る剣の刃を見て、僕はひやひやした。
 レーモンはただ脅しているのではない。
 もしこのままアリスやティルファに近づけば、レーモンは容赦なく僕を叩き切るだろう。

 エリックが言っていた通り、彼ら騎士たちにとって何よりも優先するのはアリスの安全。
 理不尽だが、この世界では正しい行いなのだ。

 悔しい。
 せっかく白魔法の力を身に付けたというのに、ひん死の人を目の前にしてどうすることもできないのか――

「おいおいユウト!」
 エリックが僕の肩をつかみ、かばうように前へ出た。
「おめーなあにやってんだよ」

「エリック……」

「へへ、すみませんレーモン様。身分もわきまえず出過ぎたまねをして。なにしろこいつ、田舎から出てきたばかりなもんで」   
 エリックは必死にフォローしてくれる。
「後でよーく言い聞かせますので、今回だけはお見逃しを」

「……うむ」

 レーモンはうなずいて剣をさやに納めた。

「確かに今、味方同士で争っている場合ではない。二人ともさっさと下がれ」

 よし、これでいきなり切り捨てられる心配はなくなった。
 ありがとう、エリック。

 僕はエリックに感謝しつつ、一か八かの賭けに出ることにした。
 息を吸い込み、アリスに聞こえるよう大声を出す。

「ティルファ様は毒に侵されているのです! 私なら、その毒を取り除くことができます!!」

 いったい自分の中のどこにそんな勇気があったのか――
 どうやら僕の声はアリスに届いたようだ。

「なんだと!!」

 アリスは振り向き、目を見開いた。
 そして、すごい勢いでこちらに近づいてくる。

「アリス様、お待ちください――」
 レーモンが慌ててアリスを止めようとするが、

「どけっ!」
 と、アリスはレーモンの手をはねのけ、ズカズカ歩き僕の前まで来た。

「いま叫んだのはお前だな?」

「は、はい」

「おい!!」
 アリスは僕の両肩をガシッとつかみ、ゆさゆさ揺さぶり大声を出す。
「ティルファ助けられるというのは本当なんだな? 本当なんだな?」

 痛てて……。
 思いがけない強い力に、僕は目を白黒させながら答えた。

「え、ええ。僕の魔法なら大丈夫、だと思います」

「嘘ならばただではおかぬぞ」

「分かっています。で、でも急がないと間に合いません」

 そう言いつつも、果たして本当に自分にできるのだろうか、と一瞬頭に不安がよぎる。
 が、もはや引っ込みはつかない。

「お前、名は何と言う?」

「ユウトです」

「よし。ユウト、来い!」

 アリスは僕の手を握ると、ぐいぐいとティルファの方へ引っ張っていく。
 皮膚に食い込むアリスの手の感触は、とても冷たい。

「アリス様、何を――! ダメです! いけません!」
 レーモンが必死に叫んでいる。

 だがアリスはそんなこと歯牙しがにもかけない。
 さすがはロードラントの王女様。
 自分を絶対に押し通すのだ。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

何でリアルな中世ヨーロッパを舞台にしないかですって? そんなのトイレ事情に決まってるでしょーが!!

京衛武百十
ファンタジー
異世界で何で魔法がやたら発展してるのか、よく分かったわよ。 戦争の為?。違う違う、トイレよトイレ!。魔法があるから、地球の中世ヨーロッパみたいなトイレ事情にならずに済んだらしいのよ。 で、偶然現地で見付けた微生物とそれを操る魔法によって、私、宿角花梨(すくすみかりん)は、立身出世を計ることになったのだった。

若き天才国王の苦悩

べちてん
ファンタジー
 大陸の半分近くを支配するアインガルド王国、そんな大国に新たな国王が誕生した。名はレイフォース・アインガルド、齢14歳にして低、中、上、王、神級とある中の神級魔術を操る者。  国内外問わず人気の高い彼の王位継承に反対する者等存在しなかった。  ……本人以外は。  継がないと公言していたはずの王位、問題だらけのこの世界はどうなっていくのだろうか。  王位継承?冗談じゃない。国王なんて面倒なことをなぜ僕がやらないといけないんだ!!

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

おじさんが異世界転移してしまった。

明かりの元
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか? モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

処理中です...