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第四章 初めての魔法
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「アリス様、マリアさんが!」
リナはなす術無く、アリスに助けを求めた。
「どうしたリナ!」
休憩を中断したアリスが、リナの元に駆けつける。
「治癒魔法を使っている最中、マリアさんが突然倒れてしまって……」
リナの言うとおり、マリアはぐったりとして顔は真っ青だ。
修道服のベールのふちは汗で濡れ、呼吸がすごく荒い。
「シスターマリア、しっかりしろ!」
アリスが必死に呼びかけるが、マリアはまったく反応しない。
「さあ、これを」
後からやってきたレーモンが、琥珀色の液体の入った小さなコップをリナに渡した。
たぶんお酒――ブランデーか何かだろうか?
リナはマリアに液体のにおいをかがせた後、少量口にたらす。
効果はすぐにあらわれ、マリアは苦しそうな吐息を漏らしながら目を覚ました。
ところが――
「アリス様……私にはできません」
マリアはそうつぶやいて、またしても気を失ってしまった。
どうやら魔法で力を使い果たしてしまったらしい。
それから数分後――
みんなで必死に介抱したのが功を奏したのか、マリアは再びうっすら目を開けた。
今度こそ、本当に意識が戻ったようだ。
「大丈夫か? シスターマリア」
陽の光がまぶしくて眼を細めるマリアに、アリスがやさしく声をかけた。
「これは……アリス様」
マリアはなんとか上半身を起こし、かすれ声で言った。
「……アリス様の前でみっともない姿をお見せし申し訳ありません」
「何を言う。そんなこと気にするな。それよりマリア、ずいぶん無理をさせてしまったようだな」
「アリス様、残念ながら私の力はここまでです」
マリアはほろりと涙を流した。
「……ティルファ様のお命はしばらくの間は持ちましょうが、そう長くはありません」
「……そうか」
アリスは沈んだ声でつぶやき、毛布にくるまれたティルファの頬《ほお》をそっとなでた。
出血は止まったようだが、ティルファの肌は土気色をしていて生気がない。
おそらく出血量が多すぎたのだ。
もしかしたら、急いで輸血すれば助かるかもしれないが――
この世界でそれは不可能だろう。
「ティルファ……」
ティルファに寄り添うアリスの表情は暗く、どうやら懸命に涙をこらえているようにも見える。
今のアリスは気位の高い王女様ではない。
友達の無事を祈る一人の普通の女の子なのだ。
そんなアリスの姿を見て、なんとかしてあげたいと僕は強く思った。
もちろん純粋にティルファの命を救いたいという気持ちもある。
でも、どうしたら――?
と、そこで突然、スマホが震えた。
セリカか。
こんな非常時に、いったいなんなんだ。
リナはなす術無く、アリスに助けを求めた。
「どうしたリナ!」
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「シスターマリア、しっかりしろ!」
アリスが必死に呼びかけるが、マリアはまったく反応しない。
「さあ、これを」
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たぶんお酒――ブランデーか何かだろうか?
リナはマリアに液体のにおいをかがせた後、少量口にたらす。
効果はすぐにあらわれ、マリアは苦しそうな吐息を漏らしながら目を覚ました。
ところが――
「アリス様……私にはできません」
マリアはそうつぶやいて、またしても気を失ってしまった。
どうやら魔法で力を使い果たしてしまったらしい。
それから数分後――
みんなで必死に介抱したのが功を奏したのか、マリアは再びうっすら目を開けた。
今度こそ、本当に意識が戻ったようだ。
「大丈夫か? シスターマリア」
陽の光がまぶしくて眼を細めるマリアに、アリスがやさしく声をかけた。
「これは……アリス様」
マリアはなんとか上半身を起こし、かすれ声で言った。
「……アリス様の前でみっともない姿をお見せし申し訳ありません」
「何を言う。そんなこと気にするな。それよりマリア、ずいぶん無理をさせてしまったようだな」
「アリス様、残念ながら私の力はここまでです」
マリアはほろりと涙を流した。
「……ティルファ様のお命はしばらくの間は持ちましょうが、そう長くはありません」
「……そうか」
アリスは沈んだ声でつぶやき、毛布にくるまれたティルファの頬《ほお》をそっとなでた。
出血は止まったようだが、ティルファの肌は土気色をしていて生気がない。
おそらく出血量が多すぎたのだ。
もしかしたら、急いで輸血すれば助かるかもしれないが――
この世界でそれは不可能だろう。
「ティルファ……」
ティルファに寄り添うアリスの表情は暗く、どうやら懸命に涙をこらえているようにも見える。
今のアリスは気位の高い王女様ではない。
友達の無事を祈る一人の普通の女の子なのだ。
そんなアリスの姿を見て、なんとかしてあげたいと僕は強く思った。
もちろん純粋にティルファの命を救いたいという気持ちもある。
でも、どうしたら――?
と、そこで突然、スマホが震えた。
セリカか。
こんな非常時に、いったいなんなんだ。
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