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第四章 初めての魔法
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レーモンは続いてアリスにきつい口調で言った。
「現在の兵力でアリス様の御身を守るのは非常に不安があります。ここはひとまずコノート城まで撤退しましょう。あそこならかなりの数の兵が常駐しておりますし、武器や糧秣の蓄えも十分です。さ、急ぎご決断を」
「ならぬ。ティルファの治療が先だ」
アリスは頑なに拒否する。
「それにティルファが回復すれば前線の状況を聞けるはないか。それさえわかれば我々も適切な動きがとれようというものだ」
「そんな悠長なことは言っていられません。――どうかご覧下さい」
そう言ってレーモンは道の前方を指さした。
「このイーザの拠点へと通じる道は遠望でき一見安全そうですが、実は北には森、南には岩場と敵が身をひそめるに易しい場所が点在するのです。もし気付かぬうちに敵に囲まれ、一斉に攻撃を受ければ果たして我々はどうなりましょうか?」
「知るか!」
「まさに一大事。ここにいる二千人程度の兵力ではひとたまりもない、ということです。それどころかアリス様の御身さえ危ういかもしれません」
主に向かってそこまではっきり言うのだから、レーモンはよほど危機感を持っているのだろう。
「アリス様、あなた様は今この軍を指揮する身なのですぞ! 私情に乱され、国王様から預かった兵士たちの命までも危険にさらしてどうするのです? さあ、全軍に退却のご命令を」
「いい加減くどい! だいたい第一軍と二軍を放っておいて私が撤退したらどうなる。勝てる戦いなのに、兵たちの間に動揺が広がって間違いなく自滅するぞ。
そうなれば私は命が惜しくておめおめ逃げ帰った愚かな王女と物笑いの種だ。王位継承権すら危うくなるかもしれん。なにしろロードラントの次の王座を狙う者は他にも大勢いるのだからな」
「なにも王都まで撤退しようというのではありませぬ! コノート城までです。あそこなら安全に体制を立てなおすことができ、かつ情報も集まります」
王女と老騎士、どちらも一歩も譲らない。
「現在の兵力でアリス様の御身を守るのは非常に不安があります。ここはひとまずコノート城まで撤退しましょう。あそこならかなりの数の兵が常駐しておりますし、武器や糧秣の蓄えも十分です。さ、急ぎご決断を」
「ならぬ。ティルファの治療が先だ」
アリスは頑なに拒否する。
「それにティルファが回復すれば前線の状況を聞けるはないか。それさえわかれば我々も適切な動きがとれようというものだ」
「そんな悠長なことは言っていられません。――どうかご覧下さい」
そう言ってレーモンは道の前方を指さした。
「このイーザの拠点へと通じる道は遠望でき一見安全そうですが、実は北には森、南には岩場と敵が身をひそめるに易しい場所が点在するのです。もし気付かぬうちに敵に囲まれ、一斉に攻撃を受ければ果たして我々はどうなりましょうか?」
「知るか!」
「まさに一大事。ここにいる二千人程度の兵力ではひとたまりもない、ということです。それどころかアリス様の御身さえ危ういかもしれません」
主に向かってそこまではっきり言うのだから、レーモンはよほど危機感を持っているのだろう。
「アリス様、あなた様は今この軍を指揮する身なのですぞ! 私情に乱され、国王様から預かった兵士たちの命までも危険にさらしてどうするのです? さあ、全軍に退却のご命令を」
「いい加減くどい! だいたい第一軍と二軍を放っておいて私が撤退したらどうなる。勝てる戦いなのに、兵たちの間に動揺が広がって間違いなく自滅するぞ。
そうなれば私は命が惜しくておめおめ逃げ帰った愚かな王女と物笑いの種だ。王位継承権すら危うくなるかもしれん。なにしろロードラントの次の王座を狙う者は他にも大勢いるのだからな」
「なにも王都まで撤退しようというのではありませぬ! コノート城までです。あそこなら安全に体制を立てなおすことができ、かつ情報も集まります」
王女と老騎士、どちらも一歩も譲らない。
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