異世界最弱だけど最強の回復職《ヒーラー》

波崎コウ

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第三章 異世界転移

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 振り向くとそこに、黒い日焼け肌の筋骨隆々とした男が立っていた。
 年齢は20台半ばだろう。
 目つきは鋭く、ほおには大きな刀傷があるが、口元はへらへらしていてちょっと軽薄けいはくそうな感じもする。

 男は歩きながら、気さくに話しかけてきた。

「おめーさっきから王女様の方ばっかり見てるなあ」

「み、見てないよ、別に。――騎士団があまりに格好良くて、そっちの方を見てたんだ」

 男の指摘は図星だったが、恥ずかしくて思わず言い訳をしてしまう。

「ごまかさなくてもいいじゃないか。まあ、あんな美人じゃ無理もねえよな。おめーもどうせ田舎出身でろくな女知らないだろ」

「そ、そんなことないよ」

「まあムキになるなって」
 男はニヤニヤしている。
「それでおめー、どこの出身なんだ?」

 一瞬、言葉に詰まる。
 なんて答えれば――?
 
「に、ニホンだよ」

咄嗟とっさにうまい嘘が思いつかず、つい本当のことを言ってしまった。

「ニホン? 聞いたことねえな。よっぽどの田舎か」
 男は首をひねった。

「あ、ああ。遠い地方だよ」

 まずい。
 異世界では、絶対に現実世界の話をしてはダメ!
 と、セリカに言われていたのに――

 だが幸い、男はそれ以上何も突っ込んでこなかった。

「そうなのか。で、おめー名前は?」

「ゆ、ユウト」

「そうか、俺はエリックだ。おめーと同じく地方の出身だよ。まあ剣の腕にはちっとは自信があるから、それで身を立てようと思って軍に志願したってわけだ」

 エリックは槍を持ったまま、腕を曲げて力こぶを作ってみせにっこり笑った。

「といっても俺もまだ入隊したばかりだからな。右も左もわからねえ。ま、お互い助け合っていこうや。よろしくな」

 言葉使いは乱暴だが案外悪い人でもなさそうだ。
 しばらく話をしてみようかと、少し迷う。

 ――いや、ここでためらってたらダメだ。

 現実世界での自分は、人見知りが激しくて、初めて会った相手に対してはろくに会話できなかった。でも、そのせいでいつも損ばかりしていた気がする。

 異世界まで来て、同じてつを踏むのは絶対に嫌だ。
 それに今は、この世界の事を少しでも多く知りたい。

 
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