異世界最弱だけど最強の回復職《ヒーラー》

波崎コウ

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第二章 運命のゲーム

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「よし、決まりね」
 セリカは今までにない笑顔を見せた。
「じゃ、異世界に行くにあたって四つの注意点があるからよーく聞いて」

 僕は素直に「うん」とうなずいた。
 なんだか担任の先生から、遠足の注意事項を聞く小学生みたいだ。

「1つめ――」

 セリカはまず右手の指を四本立て、それから人差し指を曲げた。

「まずもっとも基本的なこと。さっきも言ったけど、異世界でもあなたはあくまで生身の人間である、そのことを絶対に忘れないでほしいの。ゲームみたくステータスの数値が上下するのではなく、動けば体力は減るしお腹は空く、疲れたら気力が衰え眠くだってなるわ。もちろん人間的な欲求もそのまま――食欲や物欲、性欲だってある」

「性欲って……」

 セリカの口からそんな言葉が出るなんて思わなかった。

「そう。まあ要するに、心も体も有川君の今の状態そのまんまで転移するってこと。結構いるのよね、異世界に行っただけで自分が無敵のヒーローにでもなったと勘違いしちゃう人。そして事故る」

 結構いる、ということは、セリカは今までに何にもの人を異世界に送りこんできたのだろうか?

「でも転移した際、向こうの世界で困らないぐらいの基本的な能力値の引き上げはあるから、その点は安心して。ただし――」

「ただし?」 

「あなたの望んだ異世界は剣と魔法が支配する冒険の地――ケガをしたり場合によっては命を落としたりする危険は、こっちの世界よりずっと高いと思う。で、その覚悟はある?」

「……覚悟するも何も、どうせ死ぬつもりだったんだから別にいいよ」

「なら問題ないわね。じゃ、2つめ――」
 と、セリカは中指を曲げる。
「私は異世界で有川君がどんな危険な目にあっても、決して助けてあげることはできない。こっちから異世界の様子を見てはいるけれど、せいぜいアドバイスをあげるぐらいで物理的な援助は一切不可能なの」

「わかった。清家さんのことはあてにしない。自分の力でやってみるよ」

「あら、頼もしいのね。3つめ――」
 今度は薬指を曲げ――
「異世界では、絶対に現実世界のことを話しに出してはダメ」

「え、なんで?」

「万が一でもお互いの世界が干渉し合ってしまうのを防ぐためよ。いくら遠い異世界だからといって、なにがきっかけになって“それ”が起こるかわからないから」

「“それ”って……?」

「さっき言ったような、時空の歪み。秩序の崩壊。そして世界の破滅――それらすべてのこと」

 異世界に行くってことだけでもありえない話なのに、話がどんどん広がっていく。
 でもまあ、その約束は守るのが簡単だ。特に問題にはならないだろう。

「そして4つめ」
 と、セリカは指をすべて折り曲げた。
「――あ、ちょっと待っていて」

 セリカはポケットから自分のスマホを取出し、誰かに、
「例のもの持ってきて」
 と、ひとこと言った。

 するとまもなく、執事が部屋に入ってきた。
 そして軽くお辞儀をすると、何かが乗ったお盆をテーブルに置き、代わりにセリカの持ってきたティーセットを下げ、部屋を出て行った。

 執事の持ってきたお盆の上には、黒いスマートホンが一台のっていた。
 それと超小型ヘッドセットイヤホン、携帯充電器、そして謎の緑色の液体が入った小さなグラスもある。

「さあ、これ異世界に行く上で絶対に必要なもの」

 セリカはスマホを僕に手渡した。

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