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第40話 クレープ
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「えーと、抹茶アイスと、バニラアイスと……マロンと……チーズケーキと……」
原宿に着いて竹下通りを下(くだ)り、俺たちは早速クレープ屋に並んだ。
約束通り、あれもこれもと欲張ってトッピングを迷っていたら、横から綾人が店員に声をかけた。
「甘いものを全部トッピングって、出来るか?」
そんな無理難題、って俺はギョッとしたけど、店員は涼しい顔で答えた。
「出来ますよ」
「四季、それにしろ。ケチな事は言わない」
確かに、エリートの綾人からしたら、些細な出費だろう。
「ただ、かなり量がありますが、お腹の方は大丈夫ですか」
時刻は十二時過ぎ。朝飯を食べてこなかった俺の腹は、さっきからグウグウ鳴ってた。
「あ、はい。大丈夫です」
「混ぜると苦くなる組み合わせもありますが、どうしますか」
「その辺は任せるから、甘いの作ってやってくれ」
「畏まりました~」
店員は俺と大して変わらない歳くらいの、金髪の女子だったけど、全部乗せを作る手さばきはプロだった。
特に、四種類のアイスをきっちりあの薄い皮の中に収めて巻き上げる様は、芸術的とさえ思った。
プラスチックのスプーンが添えられて、「どうぞ」と差し出されたそれは、片手ではバランスを取るのが難しいほど大きい。
男の俺の両手の中に、何とか収まるくらい。綾人が訊いたら、計二十一種類のトッピングだった。
綾人は、昼飯に、おかず系のツナマヨを頼んでる。
「全部食べられるか? 残しても良いんだぞ」
フードコートに座って、全部乗せを前に息巻く俺を見て、綾人が笑う。
「ぜってぇ、全部食う。多分もう二度と、全部乗せなんて出来ねぇから!」
「いつでも買ってやるぞ」
「いつでもは無理だ! でも今は、腹減ってるから食える!」
綾人は薄いツナマヨを、サクサク食べ進めて、ものの五分で完食した。
俺はといえば、四種のアイスに苦戦してた。甘ったるくて、気分が悪くなってきた頃、綾人がいつの間に注文したのか、スッとコーヒーを差し出してくれる。
綾人やっぱ、タイミング完璧。
感動して、礼を言って、またクレープに取りかかる。
そんな俺を、綾人は優しい眼差しで見詰めてた。
「美味しいか?」
「美味ぇ! マンゴー最高。初めて食った」
「四季は、マンゴーが好きなのか?」
「食うのは今日が初めてだけど、ずっと食ってみたかった。想像以上に美味ぇ!」
「そうか。じゃあ、実家から送って貰うか。宮崎は、マンゴーの名産地だ」
「えっ。いや、そこまでしねぇで良いよ」
綾人は人差し指で、俺の唇の端から生クリームを掬い取ると、そのままパクリと自分の口に運んで笑う。
「遠慮はしなくていい。俺が金を払って、マンゴーを買って貰うんだから。本場の完熟マンゴーを、四季に食べさせてやりたい」
「う……うん。じゃあ、機会があったら食う」
「その前にまず、目の前のものを食べないとな」
「うっ」
結局、綾人にも少し手伝って貰って、何とか『クレープ甘いの全部乗せ』は食べきった。
憧れの、原宿でクレープ。愛しい人と。
万が一、時季外れの発情期になる危険性を考えて、両親は俺の行動範囲を厳しく制限してきた。
修学旅行も。中学の修学旅行で、原宿でクレープを食べたことを楽しげに話すみんなを見て、何で俺だけ、何でこんな風に生んだんだって、母さんに食ってかかったこともあった。
でも今は、この幸せを両親に感謝したい。
「腹は膨れたな?」
「うん。パツンパツン」
「よろしい。では、映画を観に行こう」
「何処行くんだ?」
「新宿だ」
「新宿って、ビルばっかじゃねぇの?」
「そのビルの中に、映画館があるんだ」
「俺、映画館行ったら、夢がある」
「何だ? 何でも言ってみろ」
「ポップコーンが食いてぇ!」
「良い夢だけど、その腹で、入るのか?」
綾人がちょっと噴き出しながら、可笑しそうに言う。
「ポップコーンは、別腹だ」
上映まで少し時間があったから、緑の溢れる原宿から代々木までのんびり一駅歩いて、腹ごなししてから俺たちは映画館に向かった。
原宿に着いて竹下通りを下(くだ)り、俺たちは早速クレープ屋に並んだ。
約束通り、あれもこれもと欲張ってトッピングを迷っていたら、横から綾人が店員に声をかけた。
「甘いものを全部トッピングって、出来るか?」
そんな無理難題、って俺はギョッとしたけど、店員は涼しい顔で答えた。
「出来ますよ」
「四季、それにしろ。ケチな事は言わない」
確かに、エリートの綾人からしたら、些細な出費だろう。
「ただ、かなり量がありますが、お腹の方は大丈夫ですか」
時刻は十二時過ぎ。朝飯を食べてこなかった俺の腹は、さっきからグウグウ鳴ってた。
「あ、はい。大丈夫です」
「混ぜると苦くなる組み合わせもありますが、どうしますか」
「その辺は任せるから、甘いの作ってやってくれ」
「畏まりました~」
店員は俺と大して変わらない歳くらいの、金髪の女子だったけど、全部乗せを作る手さばきはプロだった。
特に、四種類のアイスをきっちりあの薄い皮の中に収めて巻き上げる様は、芸術的とさえ思った。
プラスチックのスプーンが添えられて、「どうぞ」と差し出されたそれは、片手ではバランスを取るのが難しいほど大きい。
男の俺の両手の中に、何とか収まるくらい。綾人が訊いたら、計二十一種類のトッピングだった。
綾人は、昼飯に、おかず系のツナマヨを頼んでる。
「全部食べられるか? 残しても良いんだぞ」
フードコートに座って、全部乗せを前に息巻く俺を見て、綾人が笑う。
「ぜってぇ、全部食う。多分もう二度と、全部乗せなんて出来ねぇから!」
「いつでも買ってやるぞ」
「いつでもは無理だ! でも今は、腹減ってるから食える!」
綾人は薄いツナマヨを、サクサク食べ進めて、ものの五分で完食した。
俺はといえば、四種のアイスに苦戦してた。甘ったるくて、気分が悪くなってきた頃、綾人がいつの間に注文したのか、スッとコーヒーを差し出してくれる。
綾人やっぱ、タイミング完璧。
感動して、礼を言って、またクレープに取りかかる。
そんな俺を、綾人は優しい眼差しで見詰めてた。
「美味しいか?」
「美味ぇ! マンゴー最高。初めて食った」
「四季は、マンゴーが好きなのか?」
「食うのは今日が初めてだけど、ずっと食ってみたかった。想像以上に美味ぇ!」
「そうか。じゃあ、実家から送って貰うか。宮崎は、マンゴーの名産地だ」
「えっ。いや、そこまでしねぇで良いよ」
綾人は人差し指で、俺の唇の端から生クリームを掬い取ると、そのままパクリと自分の口に運んで笑う。
「遠慮はしなくていい。俺が金を払って、マンゴーを買って貰うんだから。本場の完熟マンゴーを、四季に食べさせてやりたい」
「う……うん。じゃあ、機会があったら食う」
「その前にまず、目の前のものを食べないとな」
「うっ」
結局、綾人にも少し手伝って貰って、何とか『クレープ甘いの全部乗せ』は食べきった。
憧れの、原宿でクレープ。愛しい人と。
万が一、時季外れの発情期になる危険性を考えて、両親は俺の行動範囲を厳しく制限してきた。
修学旅行も。中学の修学旅行で、原宿でクレープを食べたことを楽しげに話すみんなを見て、何で俺だけ、何でこんな風に生んだんだって、母さんに食ってかかったこともあった。
でも今は、この幸せを両親に感謝したい。
「腹は膨れたな?」
「うん。パツンパツン」
「よろしい。では、映画を観に行こう」
「何処行くんだ?」
「新宿だ」
「新宿って、ビルばっかじゃねぇの?」
「そのビルの中に、映画館があるんだ」
「俺、映画館行ったら、夢がある」
「何だ? 何でも言ってみろ」
「ポップコーンが食いてぇ!」
「良い夢だけど、その腹で、入るのか?」
綾人がちょっと噴き出しながら、可笑しそうに言う。
「ポップコーンは、別腹だ」
上映まで少し時間があったから、緑の溢れる原宿から代々木までのんびり一駅歩いて、腹ごなししてから俺たちは映画館に向かった。
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