39 / 47
第38話 待ち合わせ
しおりを挟む
次の日は、学園の創立記念日だった。
目覚めた瞬間も、幸せは続いてた。
綾人の夢を見たような気がする。綾人と、小さな命と、三人で笑い合う夢。
それはいつか現実になるんだと、信じて疑わなかった。
目は覚めたけど、その幸せに浸っていたくて、ゴロゴロとベッドの中をたゆたう。
――ピコン。
メールの着信音が鳴った。
枕元の携帯を見ると、綾人の文字。
俺は幸せな気持ちのまま、メールを開いた。
『今、電話して良いか?』
『良いぞ』
間髪入れず、携帯が着信した。
「もしもし」
『おはよう、四季』
「うん。おはよう」
『順番が逆になって、すまない。デート、しないか』
「え?」
『だから、デート……』
いつもは自信満々の綾人が、何だか気恥ずかしそうに呟いて、俺は可笑しくなってしまった。
「え? 何?」
『お前も、ドSじゃないか』
「ふふ。綾人の真似だ」
『何処か、行きたい所とかあるか?』
急に訊かれて、俺はしばし考え込んだ。
「ん~……渋谷のスクランブル交差点!」
『そうか。四季は、北海道から転校してきたんだったな』
「あ! 田舎者とか思っただろ!」
『いや。俺も出身は宮崎だ』
「えっ、そうなのか? 全然訛ってないな」
『十八で帝央大学に入って、十年だからな。初めはよく、『なおす』で笑われた』
「なおす? それ、方言なのか?」
『西日本では、片付ける事をなおすと言うんだ。なおしておいてと言うと、必ず「何処が壊れてるんだ?」って言われて困った。あと、『ほる』もだな』
「ほる?」
『ああ、捨てるという意味だ』
「あ! 北海道もあるぞ! 捨てる事を『投げる』って言う」
『そうか。放り投げてしまいそうだな』
「はは。そうだな」
『他に、行きたい所はあるか? スクランブル交差点だけでは、五分でデートが終わってしまう』
「ハチ公!」
『ふむ。他には?』
「原宿でクレープ食いてぇ」
『原宿……原宿か』
綾人が、ちょっと困った声を出す。
「何で? 原宿、マズいか?」
『マズいことはないが……今や原宿は、女子高生以下と外国人観光客の街だからな。相応の格好をしていくか。他には? 一日あるのだから、観光地とかないか?』
「あ!」
『ん?』
「映画デートしたい」
『なるほど。良いな。何が観たい?』
「『ボクとアタシの秘密の蜜月』」
咄嗟に出た言葉を、綾人は驚きを持って受け止めた。
きっと目は、眇められているに違いない。
『まだ、映画館CMしかやってない映画だぞ。何処で聞いた?』
俺はアッと息を飲んだ。
しまった。シィ、来年の映画だって言ってたっけ。
「や、何か、面白そうなタイトルだと思って」
俺はぶっきらぼうに誤魔化す。でも、元々嘘が吐けない俺は、綾人にはバレバレらしかった。
『関係者に、知り合いが居るのか? あれは初の、百パーセント小鳥遊出資の作品なんだ』
「へぇ。小鳥遊って、何でもやるんだな」
『ああ。他に観たいものは?』
「ん~……」
友達と行くならアクションとかが良いけど、恋人と行くなら、やっぱり恋愛ものかなと思った。
「何か、恋愛もの」
『それなら、ちょっと前に話題になってた、漫画の実写版がまだやっている。四季くらいの歳なら、好きなんじゃないか』
「あ、ひょっとして、『狼少年と暁の姫君』?」
『そうだ。やはり、知っているか』
「漫画も元々読んでたけど、あれに友達が出てるって調べて、観たいと思ってたんだ」
映画館や劇場、コンサートなんかは、Ωお断りのところも少なくない。発情期に当てられて、集団レイプになった前例が、幾つかあるからだ。
でも。今は、綾人が俺の運命の番い。
運命の相手と番ったΩは、もう不特定多数にフェロモンをばらまいたりしない。
運命の相手とだけ、発情して子供を作る。
だから綾人も、「良いな」って賛成してくれたんだ。
『では、十時半に迎えに行く』
「あ、待て。待ち合わせしてぇ」
『ん? 何でだ?』
「俺、友達と待ち合わせとかした事ねぇから。綾人と、待ち合わせしてぇ」
『そうか。では、ハチ公前に十一時でどうだ?』
「了解!」
目覚めた瞬間も、幸せは続いてた。
綾人の夢を見たような気がする。綾人と、小さな命と、三人で笑い合う夢。
それはいつか現実になるんだと、信じて疑わなかった。
目は覚めたけど、その幸せに浸っていたくて、ゴロゴロとベッドの中をたゆたう。
――ピコン。
メールの着信音が鳴った。
枕元の携帯を見ると、綾人の文字。
俺は幸せな気持ちのまま、メールを開いた。
『今、電話して良いか?』
『良いぞ』
間髪入れず、携帯が着信した。
「もしもし」
『おはよう、四季』
「うん。おはよう」
『順番が逆になって、すまない。デート、しないか』
「え?」
『だから、デート……』
いつもは自信満々の綾人が、何だか気恥ずかしそうに呟いて、俺は可笑しくなってしまった。
「え? 何?」
『お前も、ドSじゃないか』
「ふふ。綾人の真似だ」
『何処か、行きたい所とかあるか?』
急に訊かれて、俺はしばし考え込んだ。
「ん~……渋谷のスクランブル交差点!」
『そうか。四季は、北海道から転校してきたんだったな』
「あ! 田舎者とか思っただろ!」
『いや。俺も出身は宮崎だ』
「えっ、そうなのか? 全然訛ってないな」
『十八で帝央大学に入って、十年だからな。初めはよく、『なおす』で笑われた』
「なおす? それ、方言なのか?」
『西日本では、片付ける事をなおすと言うんだ。なおしておいてと言うと、必ず「何処が壊れてるんだ?」って言われて困った。あと、『ほる』もだな』
「ほる?」
『ああ、捨てるという意味だ』
「あ! 北海道もあるぞ! 捨てる事を『投げる』って言う」
『そうか。放り投げてしまいそうだな』
「はは。そうだな」
『他に、行きたい所はあるか? スクランブル交差点だけでは、五分でデートが終わってしまう』
「ハチ公!」
『ふむ。他には?』
「原宿でクレープ食いてぇ」
『原宿……原宿か』
綾人が、ちょっと困った声を出す。
「何で? 原宿、マズいか?」
『マズいことはないが……今や原宿は、女子高生以下と外国人観光客の街だからな。相応の格好をしていくか。他には? 一日あるのだから、観光地とかないか?』
「あ!」
『ん?』
「映画デートしたい」
『なるほど。良いな。何が観たい?』
「『ボクとアタシの秘密の蜜月』」
咄嗟に出た言葉を、綾人は驚きを持って受け止めた。
きっと目は、眇められているに違いない。
『まだ、映画館CMしかやってない映画だぞ。何処で聞いた?』
俺はアッと息を飲んだ。
しまった。シィ、来年の映画だって言ってたっけ。
「や、何か、面白そうなタイトルだと思って」
俺はぶっきらぼうに誤魔化す。でも、元々嘘が吐けない俺は、綾人にはバレバレらしかった。
『関係者に、知り合いが居るのか? あれは初の、百パーセント小鳥遊出資の作品なんだ』
「へぇ。小鳥遊って、何でもやるんだな」
『ああ。他に観たいものは?』
「ん~……」
友達と行くならアクションとかが良いけど、恋人と行くなら、やっぱり恋愛ものかなと思った。
「何か、恋愛もの」
『それなら、ちょっと前に話題になってた、漫画の実写版がまだやっている。四季くらいの歳なら、好きなんじゃないか』
「あ、ひょっとして、『狼少年と暁の姫君』?」
『そうだ。やはり、知っているか』
「漫画も元々読んでたけど、あれに友達が出てるって調べて、観たいと思ってたんだ」
映画館や劇場、コンサートなんかは、Ωお断りのところも少なくない。発情期に当てられて、集団レイプになった前例が、幾つかあるからだ。
でも。今は、綾人が俺の運命の番い。
運命の相手と番ったΩは、もう不特定多数にフェロモンをばらまいたりしない。
運命の相手とだけ、発情して子供を作る。
だから綾人も、「良いな」って賛成してくれたんだ。
『では、十時半に迎えに行く』
「あ、待て。待ち合わせしてぇ」
『ん? 何でだ?』
「俺、友達と待ち合わせとかした事ねぇから。綾人と、待ち合わせしてぇ」
『そうか。では、ハチ公前に十一時でどうだ?』
「了解!」
0
お気に入りに追加
226
あなたにおすすめの小説
聖域で狩られた教師 和彦の場合
零
BL
純朴な新任体育教師、和彦。
鍛えられた逞しく美しい肉体。
狩人はその身体を獲物に定める。
若く凛々しい教師の精神、肉体を襲う受難の数々。
精神的に、肉体的に、追い詰められていく体育教師。
まずは精神を、そして、筋肉に覆われた身体を、、、
若く爽やかな新米体育教師、杉山和彦が生徒に狩の獲物とされ、堕ちていくまで。
以前書いた作品のリライトになります。
男性向けに設定しましたが、個人的には、性別関係なしに読んでいただける方に読んでいただきたいです。
【R-18】17歳の寄り道
六楓(Clarice)
恋愛
はじめての恋とセックス。禁断の関係。
多感な時期の恋愛模様と、大人の事情、17歳たちの軌跡と、その後を描きます。
移り気で一途な、少女たちの足あと。
◇◇◇◇◇
*R-18要素があるのでご注意ください。
*他サイト様にて、Clarice名義で掲載しています。
きょうもオメガはワンオぺです
トノサキミツル
BL
ツガイになっても、子育てはべつ。
アルファである夫こと、東雲 雅也(しののめ まさや)が交通事故で急死し、ワンオペ育児に奮闘しながらオメガ、こと東雲 裕(しののめ ゆう)が運命の番い(年収そこそこ)と出会います。
白熊皇帝と伝説の妃
沖田弥子
BL
調理師の結羽は失職してしまい、途方に暮れて家へ帰宅する途中、車に轢かれそうになった子犬を救う。意識が戻るとそこは見知らぬ豪奢な寝台。現れた美貌の皇帝、レオニートにここはアスカロノヴァ皇国で、結羽は伝説の妃だと告げられる。けれど、伝説の妃が携えているはずの氷の花を結羽は持っていなかった。怪我の治療のためアスカロノヴァ皇国に滞在することになった結羽は、神獣の血を受け継ぐ白熊一族であるレオニートと心を通わせていくが……。◆第19回角川ルビー小説大賞・最終選考作品。本文は投稿時のまま掲載しています。
溺愛オメガバース
暁 紅蓮
BL
Ωである呉羽皐月(クレハサツキ)とαである新垣翔(アラガキショウ)の運命の番の出会い物語。
高校1年入学式の時に運命の番である翔と目が合い、発情してしまう。それから番となり、αである翔はΩの皐月を溺愛していく。
【R18】騎士団寮のシングルファザー
古森きり
BL
妻と離婚し、彼女を見送り駅から帰路の途中、突然突っ込んできた車に死を覚悟した悠来。
しかし、目を覚ますとそこは森の中。
異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、悠来の奮闘が今、始まる!
小説家になろう様【ムーンライトノベルズ(BL)】にも掲載しています。
※『騎士団寮のシングルマザー』と大筋の流れは同じですが元旦那が一緒に召喚されていたら、のIFの世界。
これだけでも読めます。
※R指定は後半の予定。『*』マークが付きます。
この恋は運命
大波小波
BL
飛鳥 響也(あすか きょうや)は、大富豪の御曹司だ。
申し分のない家柄と財力に加え、頭脳明晰、華やかなルックスと、非の打ち所がない。
第二性はアルファということも手伝って、彼は30歳になるまで恋人に不自由したことがなかった。
しかし、あまたの令嬢と関係を持っても、世継ぎには恵まれない。
合理的な響也は、一年たっても相手が懐妊しなければ、婚約は破棄するのだ。
そんな非情な彼は、社交界で『青髭公』とささやかれていた。
海外の昔話にある、娶る妻を次々に殺害する『青髭公』になぞらえているのだ。
ある日、新しいパートナーを探そうと、響也はマッチング・パーティーを開く。
そこへ天使が舞い降りるように現れたのは、早乙女 麻衣(さおとめ まい)と名乗る18歳の少年だ。
麻衣は父に連れられて、経営難の早乙女家を救うべく、資産家とお近づきになろうとパーティーに参加していた。
響也は麻衣に、一目で惹かれてしまう。
明るく素直な性格も気に入り、プライベートルームに彼を誘ってみた。
第二性がオメガならば、男性でも出産が可能だ。
しかし麻衣は、恋愛経験のないウブな少年だった。
そして、その初めてを捧げる代わりに、響也と正式に婚約したいと望む。
彼は、早乙女家のもとで働く人々を救いたい一心なのだ。
そんな麻衣の熱意に打たれ、響也は自分の屋敷へ彼を婚約者として迎えることに決めた。
喜び勇んで響也の屋敷へと入った麻衣だったが、厳しい現実が待っていた。
一つ屋根の下に住んでいながら、響也に会うことすらままならないのだ。
ワーカホリックの響也は、これまで婚約した令嬢たちとは、妊娠しやすいタイミングでしか会わないような男だった。
子どもを授からなかったら、別れる運命にある響也と麻衣に、波乱万丈な一年間の幕が上がる。
二人の間に果たして、赤ちゃんはやって来るのか……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる