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第23話 濡れ場
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ケーキを出したのに残して帰ったなんておかしいから、俺は二個のショートケーキを平らげた。
甘ったるいけど、昼飯を食ってなかったから、何とか完食出来た。
部屋を出て、玄関に鍵をかけ、リビングに入ってく。
「あら、橋本さんは?」
「帰った」
「あら。来たばかりなのに」
「追い返したんだ。母さん、あいつ俺がΩなんじゃないかって嗅ぎまわってるんだよ。もう来ても、ぜってぇ上げねぇでくれ」
「え? 本当なの? あんなに可愛いお嬢さんなのに」
「可愛いかどうかは、関係ねぇだろ。バレても良いのかよ」
「そ、そうね。お父さんにも言っておくわ。橋本さん、ね」
母さんは慌てて、固定電話の横のメモ帳に、ビッシリと文字を書き込み始めた。この辺の連携は速い。
* * *
次の日は、土曜日だった。小鳥遊学園では、土曜日は午前授業になってる。
綾人の車と鉢合わせない為には、いつもより早めに行くか遅めに行くかだったけど、寝不足で遅く行く選択肢しかなかった。
そうしたら三時限目からの授業で、あんまり行く意味はなかったけど、母さんに熱を計られて平熱だったから、強制的に学校に送り出されてしまった。
ただでさえ遅刻魔なのに、頻繁に休んでは、Ωの疑いがかかるからだ。
「四季、風邪治った?」
教室の入り口で待ち構えていたハシユカを無視して、窓際の席に向かうと、そこにはもうクラスの男子が座ってた。
「目の悪い子が後ろだったからって、また席替えしちゃったんだ。残念だけど、休み時間は話せるよね。こっち!」
手が握られる。前は突っぱねたけど、今はそんな気力もなく、引っ張られていく。
案内されたのは、前と真逆に、廊下側の後ろの席だった。
「お前は?」
「あたしはまた、窓際。一番前。授業中にLINEとか出来なくて、つまんない」
綾人……? 頭を、そんな可能性が掠めた。俺とハシユカを離した可能性。
だけど、冷たい文字列が脳裏に浮かぶ。
『迷惑だ』
偶然だ。綾人の訳ない。
なるべくハシユカと話さないように三時限と四時限を受けて、俺はそそくさと部室に向かった。
* * *
「四季、付き合うのはあたしだけにしてよ。じゃないと、もう一人のひとに、昨日の写真見せるよ」
やっぱり、あの写真を脅しに使ってきた。
でももう、俺は綾人にフラれた。すでに全てに意味はない。
気怠く答える。
「ああ、あいつとはもう別れたんだ」
「えっ、ホント!?」
部室への道すがら、露骨に飛び跳ねてハシユカが喜ぶ。
「ああ。やっぱ、女子に興味がわいたよ。お前の言った通りだった」
「え、え!? 四季、好きになってくれたの!?」
両手で口元を覆って、ハシユカが感動してるけど、部室に着いた俺は、女子更衣室のドアをノックした。
「ミッキー、居るか?」
「四季くん?」
「ああ。一昨日(おととい)の話。今、良いか?」
ややあって、事情を飲み込んだ軽い声が返ってきた。
「良いよ。今、鍵開ける」
カチャリと鍵の外れる音がして、俺はハシユカの肩を押して中に入った。
瞬間、俺は驚いて顔を背けてしまった。
ミッキーが、着替え途中で、下はグレーのスカート、上はブラックのスポーツブラだけだったからだ。
「ふふ。四季、今更照れないでよ。一昨日、全部見せたじゃない」
その艶っぽい台詞に、ミッキーが全力を挙げて俺からハシユカを剥がしにかかってるんだと知って、俺も真っ直ぐそのしなやかな肢体を見詰めて笑う。
「人が悪いな、ミッキー。照れてねぇよ。いきなりだとビックリするだろ?」
そう言って、ミッキーの日に焼けた健康的な項をやんわりと掴んで、額を合わせる。
「え、え!?」
ハシユカが目一杯、動揺してる。
「そういうこと。ハシユカ。私、四季とも付き合う事にしたの。彼女も良いって言ってる」
「じゃ、じゃあ、四季も、あたしとも付き合えば良いじゃない!」
「駄目だ。俺、『攻め』の女しか受け付けねぇんだよ。俺が『受け』って事。少なくとも、ミッキーくらい身長なきゃ、相手になんねぇ」
「四季。可愛いね」
ミッキーは俺の顎を取って、ゆっくりと距離を詰める。唇が重なって、見せ付けるように舌が入ってきた。
二人目のディープキス。やってることは綾人と変わらないのに、ちっとも心臓は騒がない。それに悲しくなって、頬が歪みそうになるのを堪えなきゃいけなかった。
「ん……ミッキー」
「四季。最後までヤっちゃう?」
唇を触れ合わせながら、ミッキーの手が、首筋や胸元、背中を這い回る。
ミッキーには悪いけど、ゾッとした。好きでもない奴に抱かれるのは、相手が女でも駄目だって気が付いた。
「四季! ミッキー! 嘘でしょ、お芝居でしょ!?」
その言葉を受けて、ミッキーの手が俺の前を布越しに握った。ゆるゆると刺激される。
「あ……駄目……っ」
「感度良いね、四季。見られてる方が燃える? じゃ、ハシユカに見てて貰おうか」
「ぁんっ……」
俺の喘ぎ声は、完璧に演技だ。綾人との時間を思い出して、忠実になぞる。
「嘘! 四季の馬鹿っ!!」
ハシユカが、女子更衣室を飛び出していった。チラと目に入ったその横顔は、泣きそうに歪んでた。
一瞬罪悪感がわくが、ハシユカが俺にしたことを思えば、足りないくらいだった。
何秒かくっついてて、ミッキーが半開きのドアを閉める。
「ごめん、四季くん。恋人が居るのに、嫌だったでしょ」
「ああ、いや。これくらいしなきゃ駄目だったから、助かった。ありがとう。じゃ、俺今日は、帰るな」
「了解」
俺は、スポーツブラのまろやかな肢体に悲しいくらい反応しない心臓をちょっと恨みながら、寝不足で重い足取りで廊下を行った。
甘ったるいけど、昼飯を食ってなかったから、何とか完食出来た。
部屋を出て、玄関に鍵をかけ、リビングに入ってく。
「あら、橋本さんは?」
「帰った」
「あら。来たばかりなのに」
「追い返したんだ。母さん、あいつ俺がΩなんじゃないかって嗅ぎまわってるんだよ。もう来ても、ぜってぇ上げねぇでくれ」
「え? 本当なの? あんなに可愛いお嬢さんなのに」
「可愛いかどうかは、関係ねぇだろ。バレても良いのかよ」
「そ、そうね。お父さんにも言っておくわ。橋本さん、ね」
母さんは慌てて、固定電話の横のメモ帳に、ビッシリと文字を書き込み始めた。この辺の連携は速い。
* * *
次の日は、土曜日だった。小鳥遊学園では、土曜日は午前授業になってる。
綾人の車と鉢合わせない為には、いつもより早めに行くか遅めに行くかだったけど、寝不足で遅く行く選択肢しかなかった。
そうしたら三時限目からの授業で、あんまり行く意味はなかったけど、母さんに熱を計られて平熱だったから、強制的に学校に送り出されてしまった。
ただでさえ遅刻魔なのに、頻繁に休んでは、Ωの疑いがかかるからだ。
「四季、風邪治った?」
教室の入り口で待ち構えていたハシユカを無視して、窓際の席に向かうと、そこにはもうクラスの男子が座ってた。
「目の悪い子が後ろだったからって、また席替えしちゃったんだ。残念だけど、休み時間は話せるよね。こっち!」
手が握られる。前は突っぱねたけど、今はそんな気力もなく、引っ張られていく。
案内されたのは、前と真逆に、廊下側の後ろの席だった。
「お前は?」
「あたしはまた、窓際。一番前。授業中にLINEとか出来なくて、つまんない」
綾人……? 頭を、そんな可能性が掠めた。俺とハシユカを離した可能性。
だけど、冷たい文字列が脳裏に浮かぶ。
『迷惑だ』
偶然だ。綾人の訳ない。
なるべくハシユカと話さないように三時限と四時限を受けて、俺はそそくさと部室に向かった。
* * *
「四季、付き合うのはあたしだけにしてよ。じゃないと、もう一人のひとに、昨日の写真見せるよ」
やっぱり、あの写真を脅しに使ってきた。
でももう、俺は綾人にフラれた。すでに全てに意味はない。
気怠く答える。
「ああ、あいつとはもう別れたんだ」
「えっ、ホント!?」
部室への道すがら、露骨に飛び跳ねてハシユカが喜ぶ。
「ああ。やっぱ、女子に興味がわいたよ。お前の言った通りだった」
「え、え!? 四季、好きになってくれたの!?」
両手で口元を覆って、ハシユカが感動してるけど、部室に着いた俺は、女子更衣室のドアをノックした。
「ミッキー、居るか?」
「四季くん?」
「ああ。一昨日(おととい)の話。今、良いか?」
ややあって、事情を飲み込んだ軽い声が返ってきた。
「良いよ。今、鍵開ける」
カチャリと鍵の外れる音がして、俺はハシユカの肩を押して中に入った。
瞬間、俺は驚いて顔を背けてしまった。
ミッキーが、着替え途中で、下はグレーのスカート、上はブラックのスポーツブラだけだったからだ。
「ふふ。四季、今更照れないでよ。一昨日、全部見せたじゃない」
その艶っぽい台詞に、ミッキーが全力を挙げて俺からハシユカを剥がしにかかってるんだと知って、俺も真っ直ぐそのしなやかな肢体を見詰めて笑う。
「人が悪いな、ミッキー。照れてねぇよ。いきなりだとビックリするだろ?」
そう言って、ミッキーの日に焼けた健康的な項をやんわりと掴んで、額を合わせる。
「え、え!?」
ハシユカが目一杯、動揺してる。
「そういうこと。ハシユカ。私、四季とも付き合う事にしたの。彼女も良いって言ってる」
「じゃ、じゃあ、四季も、あたしとも付き合えば良いじゃない!」
「駄目だ。俺、『攻め』の女しか受け付けねぇんだよ。俺が『受け』って事。少なくとも、ミッキーくらい身長なきゃ、相手になんねぇ」
「四季。可愛いね」
ミッキーは俺の顎を取って、ゆっくりと距離を詰める。唇が重なって、見せ付けるように舌が入ってきた。
二人目のディープキス。やってることは綾人と変わらないのに、ちっとも心臓は騒がない。それに悲しくなって、頬が歪みそうになるのを堪えなきゃいけなかった。
「ん……ミッキー」
「四季。最後までヤっちゃう?」
唇を触れ合わせながら、ミッキーの手が、首筋や胸元、背中を這い回る。
ミッキーには悪いけど、ゾッとした。好きでもない奴に抱かれるのは、相手が女でも駄目だって気が付いた。
「四季! ミッキー! 嘘でしょ、お芝居でしょ!?」
その言葉を受けて、ミッキーの手が俺の前を布越しに握った。ゆるゆると刺激される。
「あ……駄目……っ」
「感度良いね、四季。見られてる方が燃える? じゃ、ハシユカに見てて貰おうか」
「ぁんっ……」
俺の喘ぎ声は、完璧に演技だ。綾人との時間を思い出して、忠実になぞる。
「嘘! 四季の馬鹿っ!!」
ハシユカが、女子更衣室を飛び出していった。チラと目に入ったその横顔は、泣きそうに歪んでた。
一瞬罪悪感がわくが、ハシユカが俺にしたことを思えば、足りないくらいだった。
何秒かくっついてて、ミッキーが半開きのドアを閉める。
「ごめん、四季くん。恋人が居るのに、嫌だったでしょ」
「ああ、いや。これくらいしなきゃ駄目だったから、助かった。ありがとう。じゃ、俺今日は、帰るな」
「了解」
俺は、スポーツブラのまろやかな肢体に悲しいくらい反応しない心臓をちょっと恨みながら、寝不足で重い足取りで廊下を行った。
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