【BL】初春や 桜吹雪の 十三夜 俺と契りて 妻になれっ!

圭琴子

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第28話 座敷牢

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 家人の居なくなった充樹の部屋は、がらんとして何だか寂しかった。
 でも、そう望んだのは僕だ。
 先代が、重々しく口を開く。

「人払いをしての話とは、何だ」

「実は……」

 僕は、切り出した。
 話した先は、僕にもどうなるか分からない。
 ただ、このまま笹川さんとだけお勤めする暮らしとは、決別したかった。

「家人の中に、わたくしと充樹との入れ替わりに、気付いている者がおります」

「何っ」

 先代が血相を変える。

「どうしてそれを知ったのだ」

「脅迫されております。自分とお勤めをせねば、政臣さんに事の真相を話すと」

「して、その者とお勤めをしたのか」

「はい。厠にて」

「何て事だ……」

 先代は苦虫を噛み潰したような表情で、瞑目する。

「文にありました先だっての逢瀬は、その者が『充樹』を病院から連れ出し、政臣さんと娶せた結果でございます」

 先代が、もっと大きな声を出した。

「何? 充樹を?」

「はい。充樹はお勤めが初めて故、あのような結果になったのでしょう」

「そうか……その家人とは誰だ」

「申し上げられません。家人を処分しては、政臣さんに秘密を知られてしまいます」

 やけに優しげに、先代は僕に問うた。

「案ずるな。政臣さんに秘密が知られぬよう、全力を挙げる。名前を言ってみろ」

 思い乱れて、僕はためらった。
 本当に先代は、笹川さんを処分しないだろうか。
 何もかもが水の泡になる可能性に、僕は数瞬、口篭もった。

「珠樹。言いなさい」

 先代が、捨てろと言った『珠樹』の名で僕を呼んだ事に違和感を感じないほど、僕は心騒いでいた。

「珠樹」

 先代が、いつになく柔らかく促す。

「はい。……笹川さんです」

「ふむ……充樹に、一番近しくついておった者だな。なるほど」

 納得したように何度か頷き、先代は声を高くした。

「誰か。笹川をここに」

 少しあって、笹川さんが入ってきた。

「私に何か、ご用でしょうか」

「よくやった」

 え? 先代が、笹川さんを誉めている……?
 僕は呆然と、その光景を見詰めていた。

「珠樹には、貞淑な妻など勤まらんと思っておった所だ。充樹の具合が良くなったなら、政臣さんとの結婚は、充樹にして貰う。案ずるな、珠樹。最初からお前は予備で、本来の形に戻るだけだ。政臣さんに、秘密は知られやしない。笹川」

「は」

「珠樹を、座敷牢へ連れて行け。そして、充樹を病院から連れ戻せ。良くなったのだろう?」

「は。注射は必要との事ですが、それ以外はつつがなく」

「よくやった。わしは諦めておったが、充樹が良くなったのを見付けたはお前の手柄だ。今後も、充樹の側についてやってくれ」

「は。勿体ないお言葉でございます」

「褒美が必要だな。何か、望みのものはあるか?」

 平伏していた笹川さんは、ちらりと顔を上げて僕の顔を見た。
 そして、嗤う。
 嫌だ。嫌、絶対に嫌……。

「では、今後も予備様とのお勤めを」

「良いだろう。これも、お勤めなしでは居られまい。ただし、人払いしたお勤めの間でのみにしろ」

「畏まりました。ありがとうございます」

「連れていけ」

「は」

 ぼんやりしている僕の二の腕を、痛いほど強く掴んで立ち上がらせ、笹川さんは僕を木の格子の部屋へと連れて行った。
 僕が生まれた時から、二十歳の誕生日まで育った部屋。
 それを先代は、『座敷牢』と呼んだ。

 肉にされる事を知らない家畜は、嘆く事を知らない。
 でも、それが飼い殺しにされる牢だと知ってしまった僕は、もう心穏やかには過ごせない。
 政臣さんにもう会えない、予備としての人生なんて、死んでいるのも同然だった。
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