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教会

3 物置には自称女神がいたようです

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 奥まった人気のない通路を進む度に私は不安になり、何度かリタとウーラの二人に聞いた。
 二人は「大丈夫、こっちよ」といやらしく笑いながら言うだけで、詳しくは教えてくれない。

 私は、ずんずんと進んで行く彼女達について行くしかなく、重いカバンを落とさないように小走りになっていく。

 その内やっと、ある部屋の前に二人は止まった。
 そこは、普段あまり使っていないのだろう。
 扉は薄汚く汚れており、周りも掃除が行き届いていない様だった。

 そこにたどり着くまでに、誰にも会わない忘れられた感じの場所だが、彼女達は違った風に言う。
 とても特別なのよと、口を揃えて言うのだ。
 
 そしてリタとウーラの二人から、部屋の鍵を渡された。

「とても特別なんだから」
「そうよ、特別なのよ」

 クスクスと、顔を見合わせ笑い合う二人。

「あの……台帳は?」

 教会の宿泊場所を利用する場合、台帳に記載が必要だったはずだ。
 私が聞いても、二人は無視した。

「とっても特別だから、ここを片付けてね」

 そう言って、二人は急に来た通路を駆けて行った。
 そんな彼女達を、唖然としながら見送った。

 一体、何が特別なのだろう?
 部屋を開けてみて、私は再び唖然とした。

「えっ……ここに泊まれって?」

 そこは、どう見ても物置部屋だった。

 それも最近の物を入れているのではなく、古く使われなくなった物を、ただ乱雑に詰め込んだだけの部屋に見える。

「一体どこに寝る場所があるのよ~」

 悪意すら感じる。
 違う、正しく悪意を込めてここに連れて来たのだろう。

 既に、日は暮れかけていた。
 手元に蝋燭すらないのだから、私は急いで寝床を作る必要がある。


 埃っぽい物置部屋にはベッドなどはなく、昔は綺麗だったと思われれ椅子が数脚見えた。
 乱雑に物が置かれ、明らかに壊れている物もある中私は慎重に移動した。

「酷いなここ。片付けるどころか、寝る場所なんて作れないと思うんだけど」

 ぎっしりと物が詰まっている場所は、何かを下手に動かすと雪崩がおきそうだった。

「これは、夜風が当たらないだけいいと思えって事だよね」

 ため息を付きながら、それでも座れる場所だけでも作ろうと思う。
 何とか、椅子の上に置いてあった荷物を退けて座る。
 最後に手にした箱の置き場が見当たらず、どうしようかと悩んでいると、箱の底が抜けた。

「なんだろう、棒かな……こけし?」

 ポロリと、箱から飛び出してきた。
 日本でいうなら、こけしみたいな感じかな。
 頭が大きな丸い形で、胴体部分は細長く少しくびれていた。

「首がもげそうなんだけど、これはどうしたらいいの?」

 一人になって遠慮なく、日本語でつぶやいていた。
 呟きながら、座って少し落ち着いたからだろう。
 涙が、ボロボロ零れてきた。

 失恋してから、思い知らされた。
 この街で私が築いた生活は、全て彼だと思っていたアルバンのおかげだったなんて。
 それがなくなったら、私には何も残らないのだと突きつけられた。

 涙が枯れ果てるまで泣いて、泣いて……そして、お腹がすいている事を突然意識した。
 お腹がぐ~っと、自己主張したからだ。

 そういえば、朝食べたっきりだよ。
 もう日は陰り、月が出ていた。

「あーーー、甘いものが食べたーい」

 失恋には、甘いものだよね。
 日本だと、思いっきりおやつを買ってやけ食いしている。
 友達に愚痴って一緒に甘いもの食べて、気分が晴れるのに。


 そんな事を、悶々と考えていた時だった。
 涙で濡れた壊れかけてのこけしもどきが光って、そこから声がした。
 びっくりして、落としそうになる。
 落としたら確実に壊れるよ、グラグラだもの。

「この女神が、そなたに足りない物を分け与えましょう」

 なんて聞こえたから、咄嗟に「甘いもの」と答えた私は正直者だと思う。



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