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33 手紙
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領地での報告書を読んでいるとセバスが手紙を数通持ってきました。
「マリナリアお嬢様、手紙の確認をお願いします」
私は機嫌よく受け取りました。
まずはいつも届くスタン兄様の手紙から読みます。
仕方がないでしょう?
王都から離れたテスイールで暮らしていて、会えないのですもの。
いつもの様に親愛の籠った手紙は、心が温かくなりますわ。
他の手紙数通を確認して「あら」と小さく声が漏れました。
「セバス、珍しい方から手紙が来ているのね。王都で何かあったのかしら」
返信用の便箋を用意してくれていたセバスに、思わず聞いていました。
「マリナリアお嬢様、特に耳に入ってきてはおりませんが」
「それならいいわ」
遠方へ派遣している部下のアンリとアンナの報告書に混じって、アンクリー殿下とアタクーリ公爵家のアンリーヌ夫人の手紙がありました。
手紙を見て少し和んでしまいましたわ。
アンクリー殿下は幼少の頃から出来が良いと評判だったと聞きました。
市井にその噂が広がり、殿下に肖ろうと名前の頭に『アン』がつく方が増えたそうです。
あまり表立っての噂にはなりませんが、ここ数代王族の方々の評判はよくありませんからね。
色々なところで期待されているのでしょう。
アンリーヌ夫人のお名前には、また別の意図も感じますがそれは別にいいでしょう。
スタン兄様への気持ちを込めた手紙を書き終わり、アンクリー殿下の手紙を手に取ります。
順番が違ったのではないかと思われるでしょうが、些細な事ですわ。
婚姻前の女性がお相手を優先するのは仕方がないことでしょう?
ここは私の屋敷ですから見つかりません。
でも、もし誰かに咎められても苦笑いで済みますわよ。
私、昔はアンク兄様と呼んでいましたもの。
アンクリー殿下ならわかって頂けますわ。
「セバス、これからアンクリー殿下との交流が増えます。準備をお願いしますね」
「王城で何かございましたか?」
「ふふ、陛下がね、随分愚かな事を仰ったとか。テスイールも舐められたこと」
「左様でございますか。ではまずは殿下の好物などを取り寄せましょう」
「お願いね」
久しぶりにアンク兄様とお話出来るのは嬉しい事ですわ。
陛下にも困ったものですわね。
あの方、本音と建前の乖離が激しいのですもの。
正妃と三人でお話する際は叱責が多くて困りました。
宰相や騎士団長を挟むとまた違った意見になるのです。
ロンドリオ元殿下の事を相談する時は、お二人に同席をお願いしたものです。
アタクーリ公爵夫人アンリーヌ様の手紙には面白い事が書いてありました。
少しは新婚の喜びが述べられているかと思ったのですが、甘い雰囲気は一切ありませんね。
「セバス、アークアラ公爵が動いたそうよ。予想より早いですわね」
「それはようございました」
「そうよね。懐刀を失って、公爵自身の求心力は既にないもの。屋敷の者を連れて大移動ですって。その際隠居した元伯爵を誘って手痛く断られたとか」
どのように誘ったか気になりますわね。
「元々元伯爵は公爵の兄に仕えていらっしゃいました。前々から思うところが多かったのでしょう」
「そうね。アークアラ公爵もそろそろ肩の荷を下ろしてもいいと思うわ」
少し考えて私はセバスに指示を出しました。
距離を考えると初の通行税取立てには間に合わないので、こちらは今のところ監視だけでいいでしょう。
「セバス、いつもの商会に頼んでもらえるかしら。木工職人を出来るだけ用意して欲しいの。出来れば馬車作りが得意な者がいいわ。それと馬ね。こちらは駄馬でいいわ。良い馬など必要ないもの。それと……」
指示を終え、返事を書き終えると最後に部下の報告書を手に取りました。
「マリナリアお嬢様、手紙の確認をお願いします」
私は機嫌よく受け取りました。
まずはいつも届くスタン兄様の手紙から読みます。
仕方がないでしょう?
王都から離れたテスイールで暮らしていて、会えないのですもの。
いつもの様に親愛の籠った手紙は、心が温かくなりますわ。
他の手紙数通を確認して「あら」と小さく声が漏れました。
「セバス、珍しい方から手紙が来ているのね。王都で何かあったのかしら」
返信用の便箋を用意してくれていたセバスに、思わず聞いていました。
「マリナリアお嬢様、特に耳に入ってきてはおりませんが」
「それならいいわ」
遠方へ派遣している部下のアンリとアンナの報告書に混じって、アンクリー殿下とアタクーリ公爵家のアンリーヌ夫人の手紙がありました。
手紙を見て少し和んでしまいましたわ。
アンクリー殿下は幼少の頃から出来が良いと評判だったと聞きました。
市井にその噂が広がり、殿下に肖ろうと名前の頭に『アン』がつく方が増えたそうです。
あまり表立っての噂にはなりませんが、ここ数代王族の方々の評判はよくありませんからね。
色々なところで期待されているのでしょう。
アンリーヌ夫人のお名前には、また別の意図も感じますがそれは別にいいでしょう。
スタン兄様への気持ちを込めた手紙を書き終わり、アンクリー殿下の手紙を手に取ります。
順番が違ったのではないかと思われるでしょうが、些細な事ですわ。
婚姻前の女性がお相手を優先するのは仕方がないことでしょう?
ここは私の屋敷ですから見つかりません。
でも、もし誰かに咎められても苦笑いで済みますわよ。
私、昔はアンク兄様と呼んでいましたもの。
アンクリー殿下ならわかって頂けますわ。
「セバス、これからアンクリー殿下との交流が増えます。準備をお願いしますね」
「王城で何かございましたか?」
「ふふ、陛下がね、随分愚かな事を仰ったとか。テスイールも舐められたこと」
「左様でございますか。ではまずは殿下の好物などを取り寄せましょう」
「お願いね」
久しぶりにアンク兄様とお話出来るのは嬉しい事ですわ。
陛下にも困ったものですわね。
あの方、本音と建前の乖離が激しいのですもの。
正妃と三人でお話する際は叱責が多くて困りました。
宰相や騎士団長を挟むとまた違った意見になるのです。
ロンドリオ元殿下の事を相談する時は、お二人に同席をお願いしたものです。
アタクーリ公爵夫人アンリーヌ様の手紙には面白い事が書いてありました。
少しは新婚の喜びが述べられているかと思ったのですが、甘い雰囲気は一切ありませんね。
「セバス、アークアラ公爵が動いたそうよ。予想より早いですわね」
「それはようございました」
「そうよね。懐刀を失って、公爵自身の求心力は既にないもの。屋敷の者を連れて大移動ですって。その際隠居した元伯爵を誘って手痛く断られたとか」
どのように誘ったか気になりますわね。
「元々元伯爵は公爵の兄に仕えていらっしゃいました。前々から思うところが多かったのでしょう」
「そうね。アークアラ公爵もそろそろ肩の荷を下ろしてもいいと思うわ」
少し考えて私はセバスに指示を出しました。
距離を考えると初の通行税取立てには間に合わないので、こちらは今のところ監視だけでいいでしょう。
「セバス、いつもの商会に頼んでもらえるかしら。木工職人を出来るだけ用意して欲しいの。出来れば馬車作りが得意な者がいいわ。それと馬ね。こちらは駄馬でいいわ。良い馬など必要ないもの。それと……」
指示を終え、返事を書き終えると最後に部下の報告書を手に取りました。
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