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29 一月後の交渉終了
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タリ・タスチーヌ侯爵の傍に残った使用人は執事だけになりました。
「静かになりましたので再開致しましょう」
私は書類の一枚をおもむろに手にして告げました。
「通行税を支払わず門を越えた場合には、『本人拘束後牢行きと違約金を』と前回ご提示しましたが、タリ・タスチーヌ侯爵がどうしても拘束は嫌だ、と仰るので『通常の違約金の十倍』で締結しました」
お父様は俯いたまま、こちらを見ようともしません。
「私は次期当主にもその婿にも通行税がかかる事を告げています。違約金の話はしておりませんが、それはタリ・タスチーヌ侯爵側の問題。侯爵もご自分の後継者の教育はなさるでしょう、と思っていたのですが」
書類をチラリと見て溜息混じりに言いました。
「あの二人、何かの遊戯のつもりなのでしょうね。二人あわせて門破り49回ですか。懲りないというか愚かだというか、門番も呆れておりましたよ」
最初は馬車で突破を試みたそうです。
初回は成功しました。それがいけなかったのでしょう。
再度突破してきた際、門番が馬車の車輪を壊しました。
懲りずりに門破りを試みて、今では馭者は皆怪我をしてしまい、使える馬車もなくなったそうですわ。
次は門番を警戒しながら徒歩での突破を試み、槍で転ばされました。
剣で向かって来た事もあったそうですが、訓練にもならなかったと報告があります。
今は石壁を越えるのに夢中で、先日顔から落下したとか。
愚か者でもここまでしないでしょう。
「最初は流石に侯爵家の家紋がついた馬車が強行突破をするとは思っていなかったそうですよ」
まだ慣れていない所での事、門番には厳重注意に留めましたわ。
突破した二人は悠々と鍛冶屋と服飾屋で注文をし、食事をしたのですが全て『ツケ』払い。
馴染みの店なので断れなかったと聞いています。
食事処がその後侯爵家に請求したところ、支払って貰えなかったと噂になり、一気に侯爵家の評判が落ちました。
鍛冶屋と服飾屋も今までの精算を願い出て、無視されたのも噂に拍車をかけたようです。
「他の境界地からも報告が上がってきています。併せての違約金を請求すると共に、当領地で不当に踏み倒された分も請求させて頂きます」
拘束後牢行きの方がよほど損害は少なかったでしょう。
巧みに誘導した事には未だに気づいていないようです。
「……これは卑怯だと思わないか。我が領地は通行税を取っていない」
「それはタリ・タスチーヌ侯爵領の事ですから、ご自分の所で門番を立てて対応なさったらよろしいかと思います。私に言われましても困りますわ」
「…………」
「では、お支払いを」
「……金がない。農産物を購入するにも通行税がかかる。全てが値上がりしている。執事より底を尽いたと……」
「それで?」
「それでだと」
「それがどうしましたの?その様な事わかりきった事ではないですか」
「貴様は血も涙もないのか!」
「他領の金策の失敗を私が背負う必要がありませんから。これは領主として行っている事ですわよ」
淡々と対応を迫り、結果連れて来た商人に屋敷の中の宝飾品を査定させ、物納と致しました。
継母様は泣いて取りすがっていました。
侯爵家の夫人がみっともないですわよ。
「あの二人を大人しくさせておけば、この様な事にはなりませんのに。何処からか良い出資者が現れます様祈っていますわ」
「……」
「それではタリ・タスチーヌ侯爵、くれぐれもくれぐれもお逃げになりませんように。ではまた一月後に」
私達はタリ・タスチーヌ侯爵の屋敷を後にしました。
サリーニアですか?
あの子はロンドリオ様の下敷きになってベッドから動けないそうですよ。
「静かになりましたので再開致しましょう」
私は書類の一枚をおもむろに手にして告げました。
「通行税を支払わず門を越えた場合には、『本人拘束後牢行きと違約金を』と前回ご提示しましたが、タリ・タスチーヌ侯爵がどうしても拘束は嫌だ、と仰るので『通常の違約金の十倍』で締結しました」
お父様は俯いたまま、こちらを見ようともしません。
「私は次期当主にもその婿にも通行税がかかる事を告げています。違約金の話はしておりませんが、それはタリ・タスチーヌ侯爵側の問題。侯爵もご自分の後継者の教育はなさるでしょう、と思っていたのですが」
書類をチラリと見て溜息混じりに言いました。
「あの二人、何かの遊戯のつもりなのでしょうね。二人あわせて門破り49回ですか。懲りないというか愚かだというか、門番も呆れておりましたよ」
最初は馬車で突破を試みたそうです。
初回は成功しました。それがいけなかったのでしょう。
再度突破してきた際、門番が馬車の車輪を壊しました。
懲りずりに門破りを試みて、今では馭者は皆怪我をしてしまい、使える馬車もなくなったそうですわ。
次は門番を警戒しながら徒歩での突破を試み、槍で転ばされました。
剣で向かって来た事もあったそうですが、訓練にもならなかったと報告があります。
今は石壁を越えるのに夢中で、先日顔から落下したとか。
愚か者でもここまでしないでしょう。
「最初は流石に侯爵家の家紋がついた馬車が強行突破をするとは思っていなかったそうですよ」
まだ慣れていない所での事、門番には厳重注意に留めましたわ。
突破した二人は悠々と鍛冶屋と服飾屋で注文をし、食事をしたのですが全て『ツケ』払い。
馴染みの店なので断れなかったと聞いています。
食事処がその後侯爵家に請求したところ、支払って貰えなかったと噂になり、一気に侯爵家の評判が落ちました。
鍛冶屋と服飾屋も今までの精算を願い出て、無視されたのも噂に拍車をかけたようです。
「他の境界地からも報告が上がってきています。併せての違約金を請求すると共に、当領地で不当に踏み倒された分も請求させて頂きます」
拘束後牢行きの方がよほど損害は少なかったでしょう。
巧みに誘導した事には未だに気づいていないようです。
「……これは卑怯だと思わないか。我が領地は通行税を取っていない」
「それはタリ・タスチーヌ侯爵領の事ですから、ご自分の所で門番を立てて対応なさったらよろしいかと思います。私に言われましても困りますわ」
「…………」
「では、お支払いを」
「……金がない。農産物を購入するにも通行税がかかる。全てが値上がりしている。執事より底を尽いたと……」
「それで?」
「それでだと」
「それがどうしましたの?その様な事わかりきった事ではないですか」
「貴様は血も涙もないのか!」
「他領の金策の失敗を私が背負う必要がありませんから。これは領主として行っている事ですわよ」
淡々と対応を迫り、結果連れて来た商人に屋敷の中の宝飾品を査定させ、物納と致しました。
継母様は泣いて取りすがっていました。
侯爵家の夫人がみっともないですわよ。
「あの二人を大人しくさせておけば、この様な事にはなりませんのに。何処からか良い出資者が現れます様祈っていますわ」
「……」
「それではタリ・タスチーヌ侯爵、くれぐれもくれぐれもお逃げになりませんように。ではまた一月後に」
私達はタリ・タスチーヌ侯爵の屋敷を後にしました。
サリーニアですか?
あの子はロンドリオ様の下敷きになってベッドから動けないそうですよ。
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