【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?

ゆうぎり

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「そんな訳あるまい。カリンの目は節穴か?失礼にも程があるぞ」

 激昂したハマー伯爵は、その五月蝿い声に顔を顰めたカリンを睨んだ。

「そう言われても、本物が殆ど見当たりません、ハマー伯爵」

「そんな事はない。見てみろこの剣を。豪華な造り、煌びやかな姿、形といい申し分ないだろうが」

 カリンはある伝手で似たような儀礼用の剣を見たことがある。凄く繊細で美しく手に触れるのも躊躇われた。
 こんな造りが甘く下品でゴテゴテしただけの剣をハマー伯爵が力説するのかわからない。

「商人が言っておった。飢饉で一時的に手放しても回復すれば高値で買い戻しが入る。これらが売れれば買値の二倍や三倍になって戻ってくると。その間は高尚な人の元にあるのが相応しいと言っておったわ!」

 そんな高値で売れるなら商人が持っているだろうし、商人が目先の金だけで動くはずがないと考えないのだろうか?
 ここにいる全員が思い、冷たい視線をハマー伯爵や夫人に向けるが気が昂っているのか気付かない。

「一体何処で手に入れたのやら」

 不快に吐き捨てるハルホー子爵に相打ちを打つハヤムー男爵。

「ふん、言ってもわかるまい。今王都で新進気鋭と噂の商会だ。カリンなら知ってるかもな。最近王都で流行りの美容用品を取り扱っている仕掛け人だ。何処ぞの辺鄙な領地の特産らしいが目の付け所が違う」

「えっ、もしかしてビルノ商会ですか?」

「やはり女は美容に目がないか」

 えぇ知ってますよ。憎っくきビルノ商会。
 カリンやエンサー、特にモニカが忌々しげにハマー伯爵を見た。
 貴族の話し合いの時は空気の様にカリンに付き添っている二人にしては珍しい事だった。

「あの悪名高いビルノ商会ですか。詐欺を働くことで有名ですよ。最近は平民のみならず貴族にも気にせず手を拡げてますね。捕縛も近いと専らの噂ですけど、ご存知ですか?」

「そんな事ある訳ないだろう」

「いえ、ある筋からの確かな情報ですわ」

 カリンの情報主は行政長官であるリコリスの父親だ。ビルノ商会会頭が王都へ戻ったならば実行されると聞いている。
 予定では既に捕まっている頃だ。だからこそハマー伯爵へ噂があると伝えている。

 この婚約破棄の資料を国へ提出する際に行政長官と騎士団団長に偶然会い聞いたのだ。
 カリンも別件でビルノ商会の被害にあっていた。
 勿論購入者ではなく名を勝手に使われ著しく損益を被った営業妨害名誉毀損の被害者として。

 モニカの父親と兄が苦労して商品にした特産を勝手に名を借り王都の貴族に売り捌いていた。
 樹液を使い加工した美容用品は、まだまだ量が少なく王都にはあまり出回っていない。
 貴族からの訴えで真偽を確かめる為に商会を興したカリンが呼ばれ、そこで判明した。

 その際リコリスとリコリスの母親が味方してくれ、粗悪品と商会の品は別と証明してくれた。
 とてもお洒落な二人には王都へ売り出す前に評価して貰った。手応えがあり、すぐに量産に入ったが追いつかない状態だった。
 ビルノ商会は領地に近い辺境伯領へ先に卸していた物を手に入れ、かさ増しし粗悪品を量産していたらしい。

 ビルノ商会との取引相手の資料をカリンは見ていないが、婚約破棄の事は伝えたから教えてくれたのだろう。

 カリンは心の中では粋な計らいをした行政長官に感謝した。



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