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「お父様、ただいまカリンが戻りましたわ」
屋敷の執事の制止の声も無視して、執務室へノックもせず入ってくるカリンはご機嫌に声を弾ませている。
その行為に慣れた様子である父親は書類にサインをしていた。
「書類は出来ていますか?さぁ、ハマー領へ行きましょう」
「カリン、まず部屋へ入る際にはノック。家でも淑女のフリはしなさい。それに私に愛娘のお帰りも言わせないつもりか?」
苦笑いの父親に親子での親愛のハグをして「ハマー家へ行くのは明日だよ」と父親が娘にブレーキをかけた。
「カリンからの手紙が来てからハマー家へ問い合わせをしてな。明日の夕方話し合いが終わった後食事でもと返事が来た。詳しい話はその場ですると伝えたがそれでよかったのか?」
「もちろんですわお父様。こういう話はオリバー様が事前にご両親に伝えていらっしゃることでしょう。こちらが改めて言う必要はございませんわ」
ハマー領はこのターナー領から馬車で半日。王都からの手紙なら既に何往復も可能な時間はあったはずだ。
但しあの面倒臭がりのオリバーが手紙を書いているかどうかなどカリンの知るところではない。
こちらが準備万端整っていればそれでいいだけなのだから。
にっこり笑って父親が望む淑女のフリをするカリンは内心ほくそ笑んでいた。
ほぼ確信的に相手の準備不足を狙っている娘の考えなど父親は知る由もない。
ターナー家には父親と母親。来年学園へ入学する弟がいる。
お互い軽い近況の話になり、主に弟の事が話題となった。
カリンはそっとその中に明日の段取りなどの話を織り交ぜながら父親の事を注意深く見た。
気持ちとして「今話す事柄が違う」と違和感があったからだ。
カリンは父親の事は好きだが、父親はあまり枠からはみ出ない常識的な人だと思っている。
とてもこの時期に『婚約破棄』などという莫迦な事をする貴族がいるとは思っていないだろう。
今回のことは、最近では言わなくなったカリンの我儘か結婚前によくあるマリッジブルー程度にしか考えていないのかもしれない。
カリンは手紙の内容が悪かったのかと考えた。
『オリバー様に婚約破棄を突きつけられ了承しました。つきましてはハマー家と話し合いをするのでお父様に同行願います』
とても簡潔に伝えている。間違ってはいない。
カリンは足りない資料や書類などのすり合わせを会話の中へ入れ確認をしていく。
そして父親は「気の済む様にやらせておこう」と寛大な気持ちで書斎の書類を漁る娘を半分呆れながら見ていた。
一通り書類を確認し満足して書斎を出たカリンを待っていたのは屋敷の執事と侍女長だった。
ターナー家では、ハマー家でのカリンの扱いがよくない事を察している家人達がせめてこのお屋敷の中だけでもとカリンに甘くなりがちだった。
但し屋敷の執事と侍女長は別である。伯爵家を支えている自負のある二人にとってはカリンは頭痛の種である。
この後、こってりと淑女とは伯爵家のお嬢様とは等々お説教が続くことになった。
これも何時ものことである。
屋敷の執事の制止の声も無視して、執務室へノックもせず入ってくるカリンはご機嫌に声を弾ませている。
その行為に慣れた様子である父親は書類にサインをしていた。
「書類は出来ていますか?さぁ、ハマー領へ行きましょう」
「カリン、まず部屋へ入る際にはノック。家でも淑女のフリはしなさい。それに私に愛娘のお帰りも言わせないつもりか?」
苦笑いの父親に親子での親愛のハグをして「ハマー家へ行くのは明日だよ」と父親が娘にブレーキをかけた。
「カリンからの手紙が来てからハマー家へ問い合わせをしてな。明日の夕方話し合いが終わった後食事でもと返事が来た。詳しい話はその場ですると伝えたがそれでよかったのか?」
「もちろんですわお父様。こういう話はオリバー様が事前にご両親に伝えていらっしゃることでしょう。こちらが改めて言う必要はございませんわ」
ハマー領はこのターナー領から馬車で半日。王都からの手紙なら既に何往復も可能な時間はあったはずだ。
但しあの面倒臭がりのオリバーが手紙を書いているかどうかなどカリンの知るところではない。
こちらが準備万端整っていればそれでいいだけなのだから。
にっこり笑って父親が望む淑女のフリをするカリンは内心ほくそ笑んでいた。
ほぼ確信的に相手の準備不足を狙っている娘の考えなど父親は知る由もない。
ターナー家には父親と母親。来年学園へ入学する弟がいる。
お互い軽い近況の話になり、主に弟の事が話題となった。
カリンはそっとその中に明日の段取りなどの話を織り交ぜながら父親の事を注意深く見た。
気持ちとして「今話す事柄が違う」と違和感があったからだ。
カリンは父親の事は好きだが、父親はあまり枠からはみ出ない常識的な人だと思っている。
とてもこの時期に『婚約破棄』などという莫迦な事をする貴族がいるとは思っていないだろう。
今回のことは、最近では言わなくなったカリンの我儘か結婚前によくあるマリッジブルー程度にしか考えていないのかもしれない。
カリンは手紙の内容が悪かったのかと考えた。
『オリバー様に婚約破棄を突きつけられ了承しました。つきましてはハマー家と話し合いをするのでお父様に同行願います』
とても簡潔に伝えている。間違ってはいない。
カリンは足りない資料や書類などのすり合わせを会話の中へ入れ確認をしていく。
そして父親は「気の済む様にやらせておこう」と寛大な気持ちで書斎の書類を漁る娘を半分呆れながら見ていた。
一通り書類を確認し満足して書斎を出たカリンを待っていたのは屋敷の執事と侍女長だった。
ターナー家では、ハマー家でのカリンの扱いがよくない事を察している家人達がせめてこのお屋敷の中だけでもとカリンに甘くなりがちだった。
但し屋敷の執事と侍女長は別である。伯爵家を支えている自負のある二人にとってはカリンは頭痛の種である。
この後、こってりと淑女とは伯爵家のお嬢様とは等々お説教が続くことになった。
これも何時ものことである。
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