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8 苦情、要望は受け付けませんわよ

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 ベルンハルト殿下とベティーナは、お互い温もりを感じあって落ち着いたのか、わたくしを睨んできます。

 学舎の前まで来ていたわたくしは、無視してクラスに入ってしまうという事も考えました。
 しかし、追いかけられる可能性の方が高そうです。

 それに、わたくしが少し後ろに気を取られているうちに、殿下の護衛の一人が学舎の所まで来ていました。


「アンゲリータ、貴様はそれでもベティーナの姉か!姉なら妹に便宜を図るものだろう!」

「お言葉ですが殿下。異母妹なら姉に迷惑をかけないようにするべきではありませんか?」

「未熟な妹を導いてやる事も出来ないとは……情けない。それでも、それでも…………俺の、こ、こ婚約者かー!」

 なんですか、その苦渋に満ちたお顔は!
 殿下は余程、わたくしの事を『婚約者』と言いたくなかったのでしょうね。

 周りを見渡せば、びっくりしている生徒がちらほらといらっしゃいます。
 発表会で見た顔ですわ、1年生ですわね。

 今度、1年生でどのような噂が流れているか調べてみましょう。


 それにしても、殿下の口から『婚約者』と言われたのは、生徒会の仕事を押し付けられた時以来でしょうか。
 その前は確か……殿下の政務を押し付けられた時でしたわね。

 勿論、陛下や王妃様には苦言を呈しておりますわよ。
 改善されておりませんけれど……

 そして今度は、ベティーナの課題を押し付けられる気満々ですわね。

 発表会前は、出会わない様に手を回しましたから、早目に仕掛けて来たのでしょうが、知りません。
 他の方は困りませんから、こちらは放置で大丈夫でしょう。

「未熟な異母妹だからこそ、自分で課題を行う様に言っているのではありませんか。わたくしの発表した物は参考になりませんもの」

 殿下は2年生の時、生徒会会長として発表会を聞いていらっしゃった。
 頭脳派側近のバルトルト様が、お隣で指導していらっしゃったのを見ていましたから。

「そんなはずないだろう!」

「いいえ、殿下はわたくしの発表を聞いていらっしゃったのですから、ご存知ですわよね」

「あ、当たり前だろう。皆の発表は聞いている。だから参考に貸せと言っている」

「参考にするだけなら、今回発表した方にお借りすればよろしいではないですか。ベティーナとて、お友達はいますでしょう?」

 法衣貴族の生徒のものの方が、余程参考になりますわ。

「……酷い!お姉様は私を虐めて楽しんでいるのだわ。酷い酷いわ~」

 え?酷いって、もしかしてお友達が一人もいないのかしら?

 言い合うわたくし達の周りには、人が集まっています。
 1年生と思しき生徒を見ると目をそらされましたわ。

 ……そうですか、課題を見せ合う様な相手もいないのですか。
 そういえば、昼食は王族専用の食堂へ行っているとベティーナが自慢していましたわね。

 殿下のクラスにも行っているみたいですし、わたくしのクラスにも来ていましたわね。

 せっかくの学園ですもの。
 これを機会にして、お友達を作ればいいのですわ。

 そんな気持ちでベティーナを見ますと、プイッと視線を外されましたわ。

 そうしている内に、時間がなくなってしまったようです。
 
 どこからか、「授業始まるぞ~」と言う声で、さーーーっと人が引いていきました。
 
 わたくしも遅れたくはありません。

「とにかく、わたくしは貸しませんし、手伝いません。この事に関して苦情、要望は受け付けません。後、お父様にもその旨お知らせいたしますわ」

 そう言いおいて、クラスに向かいました。

 わたくしが発表した際、父親の事はこれっぽっちも書いていないのですもの。
 領地の新作果樹の宣伝が主体となっておりましたから。
 参考にする所などありませんわ。



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