無能とされた双子の姉は、妹から逃げようと思う~追放はこれまでで一番素敵な贈り物

ゆうぎり

文字の大きさ
上 下
42 / 42
国境へ

17 オーリア国へ

しおりを挟む
 膝に落ちてきた水晶は、中心部分に仄かに光が宿り、そして消えた。
 これは、初めて水晶に触れた時と同じ反応だった。

 騎士や責任者らしい男や、一緒に連れ立っていた他の兵士達の視線が水晶に集まる。
 私は、声にならない悲鳴を上げていた。

 私の体は硬直し、叩けば崩れ落ちただろう。

「リーシャ、動かないでね」

 優しいアビィの声がした後、私の所からひょいと水晶を持ち上げた。

 するとどうだろう、水晶の反応が全く違ったのだ。
 アビィが持った水晶は、水晶一杯に光が満ちた。
 その後、光は門の壁面に何かを映し出した。
 私はまだ固まったままで、動く事が出来なかった。

「はい、総隊長さん。水晶は無事みたいだよ」
「あぁ、アビィ助かった。その子が動いて水晶が下に落ちたら、大変な事になっていたよ」

 二人は私の水晶の反応など気にもならないのか、ただ水晶が壊れていない事を喜んでいる。

 私ははっきり言って、この状況に理解が追いつかなかった。
 それは、王太子の護衛の騎士も同じだったようだ。

「この水晶の反応。魔力が少ない反応ではないか。おい娘、お前は『リディアーヌ・エイヴァリーズ』だ、そうだろう!」

 そうだろうと言われても、頷ける訳がない。

「随分と強引に決めつけて。可哀想に……登録もまだ・・・・・の娘っ子に何を言っているのやら」
「は?固まっているのが証拠ではないか……ん?登録がまだとは?」

 私も同じ事を思った。
 登録がまだってどういう事?

「水晶の反応見たでしょう。登録されていれば、その情報が浮き上がる。アビィの時の様にね」
「しかし、どう見ても十は超えているだろう」

「平民の登録は十二歳位なんですよ。特に今は、オーリア国の登録時期ですからね。急いで向かっている所じゃないですかね」

 責任者らしい男―総隊長さんが、私に話を振ってきた。
 アビィに軽く腕をつつかれ、私はコクコクと首を縦に振った。

「それにこんな強面な大人が一斉に見りゃあ、怖がって固まっちまうってもんだ。大体この子の髪は茜色じゃないですかい」

 この髪色は、ローラにして貰った。
 ローラ曰く「薬草では染めが弱いのよ。私とお揃いにしよう。この色粉でバッチリ染まるわよ。ついでに髪も結おう。イメージ変わるわよ~」

 そんな風に言って、楽しそうに色々と手を加えてくれたのだ。

「確かにそうだが……」

 男の言葉に、騎士がそう言って悩みだした。

 一体ローラは、どんな風に私を変えたのだろう。
 王太子の護衛を務める程の者なら、魔術を行使すれば分かるから魔術じゃないはず。

 王太子の側には、いつも妹のマリアーヌがいた。
 私達は昔はとても似ていた。
 今は色々あって成長が遅いが、まだ私達は似ているはずなのに悩むなんて。

 そう思ったら、何だか可笑しくなってしまった。
 騎士は眉間にシワを寄せて、必死に唸っているんだもの。

 多分、今まで張りつめていた緊張の糸が切れてしまったのだろう。
 私はくすくすと笑っていたのだ。

「あぁ、確かに違うな。あの不気味な人形・・が、こんな風に可愛く笑う筈がない」

 騎士はもう私など興味がない風に、そう呟き視線を外した。

 そんな騎士に、追い討ちをかけるように冷たい総隊長さんの声が響いた。

「それよりも今回の態度は上に報告し、厳重に注意して貰おう。『王太子が派遣した部下が、故意に水晶破壊を企んだ』とな。どんなお咎めがあるか知らんが、無事だといいな」
「貴様、何を……」

「おおっと、また俺を押すんですかね?分かっているんですか?水晶を持っている者には、如何なる場合でも不接触が原則。それに急かされて、水晶を頑丈に保護する包装さえさせて貰えなかったんだから言い訳は出来ないってもんさ」

 何か違和感があると思ったら、水晶が見えていた事だ。
 貴重な水晶は、移動の際慎重に梱包するのが決まり。
 それを騎士が命令して、破らせたのだろう。

「元はと言えば、国境に簡易門などを設置しているのが悪いのだろう!」

「違いますね。元はと言えば、約束通り水晶を用意出来なかった王宮が悪いんですよ。貴方はこの地に王宮不信を募らせたい様ですね」

「は?何を言っているんだ」

「貴方がこの様な態度なら、そうなりますよね。さぁ、どうします?こっちとしては、早々にご退場願いたいものですがね」

「……ふん、今日の所は見逃してやる。明日からは徹底的にやるからな!」

 騎士は少し考えた後、そう吐き捨て部下を連れて元来た道を引き返していった。


「さぁ、サクサクと進んでくださーい。こっちはあまり残業したくないですからね」

 そんな明るい総隊長さんの声に、周りの人から野次が飛び、列は速やかに進み始めた。

 オーリア国側の門の所でも、また魔道具が設置されていた。
 その下で門兵が「良い旅を」そう言いながら、人数分交換札を取り出した。
 手のひらに入る程度の木札がそこにあった。





 ―――門の中程にある、身分確認をする部屋の一角。
 水晶を収める窪みのある台に、しっかりと水晶ははめ込まれてた。

「全く、アルメルの姉さんも危険な橋を渡らせてくれるもんだ」

 そう呟くのは、この門の責任者であり総隊長でもある男だ。

 本来は水晶だけでも確認できる為、忘れがちな機能がある。
 水晶と台が接続していた際、一度登録する為水晶に触った事がある者も表示されるのだ。

 水晶には、仮登録者「リディアーヌ・エイヴァリーズ」と遅まきながら表示された。
 仮登録とは、まだ登録に適さない時期・・・・・・に水晶に触れた者。

 本登録をする際に特に支障はおきないし、この様に国境門での確認の際位しかわからない。

 特に水晶の記録に残らないまま、表示は消えていった。


「おやおや、やっぱり坊ちゃんといたのは公爵令嬢ですか」
「あんたか。アルメルの姉さんに言っとけ。危ない事に首を突っ込むなってな」
「それは難しいな~。お互い頭に拾われた者同士なんだから分かるだろ。あのお節介は一生治んないと思うよ」

「……そうだな。見事に息子も同じみたいだしな」
「坊ちゃんは人好きなだけで、まだ頭ほど面倒見は良くないと思うけどな~。でも、あの令嬢には振り回されるかもしれないよな」

 くっくと喉から笑う男に、総隊長は呆れた顔で話をしていく。

 そんな男達の会話などつゆ知らず、リディアーヌの操作する馬車はオーリア国へと進んでいった。





しおりを挟む
感想 206

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(206件)

2024.02.12 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

解除
amaririsu
2023.11.17 amaririsu

健気なリディ 頑張れ 作者も頑張れ 続きはまだですかね

解除
もぐ
2023.11.11 もぐ

最近、どの作品も更新されていませんが元気にしていらっしゃいますか?

解除

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢、資産運用で学園を掌握する 〜王太子?興味ない、私は経済で無双する〜

言諮 アイ
ファンタジー
異世界貴族社会の名門・ローデリア学園。そこに通う公爵令嬢リリアーナは、婚約者である王太子エドワルドから一方的に婚約破棄を宣言される。理由は「平民の聖女をいじめた悪役だから」?——はっ、笑わせないで。 しかし、リリアーナには王太子も知らない"切り札"があった。 それは、前世の知識を活かした「資産運用」。株式、事業投資、不動産売買……全てを駆使し、わずか数日で貴族社会の経済を掌握する。 「王太子?聖女?その程度の茶番に構っている暇はないわ。私は"資産"でこの学園を支配するのだから。」 破滅フラグ?なら経済で粉砕するだけ。 気づけば、学園も貴族もすべてが彼女の手中に——。 「お前は……一体何者だ?」と動揺する王太子に、リリアーナは微笑む。 「私はただの投資家よ。負けたくないなら……資本主義のルールを学びなさい。」 学園を舞台に繰り広げられる異世界経済バトルロマンス! "悪役令嬢"、ここに爆誕!

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて

だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。 敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。 決して追放に備えていた訳では無いのよ?

異世界転移したよ!

八田若忠
ファンタジー
日々鉄工所で働く中年男が地球の神様が企てた事故であっけなく死亡する。 主人公の死の真相は「軟弱者が嫌いだから」と神様が明かすが、地球の神様はパンチパーマで恐ろしい顔つきだったので、あっさりと了承する主人公。 「軟弱者」と罵られた原因である魔法を自由に行使する事が出来る世界にリストラされた主人公が、ここぞとばかりに魔法を使いまくるかと思えば、そこそこ平和でお人好しばかりが住むエンガルの町に流れ着いたばかりに、温泉を掘る程度でしか活躍出来ないばかりか、腕力に物を言わせる事に長けたドワーフの三姉妹が押しかけ女房になってしまったので、益々活躍の場が無くなりさあ大変。 基本三人の奥さんが荒事を片付けている間、後ろから主人公が応援する御近所大冒険物語。 この度アルファポリス様主催の第8回ファンタジー小説大賞にて特別賞を頂き、アルファポリス様から書籍化しました。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

悪役令嬢と呼ばれて追放されましたが、先祖返りの精霊種だったので、神殿で崇められる立場になりました。母国は加護を失いましたが仕方ないですね。

蒼衣翼
恋愛
古くから続く名家の娘、アレリは、古い盟約に従って、王太子の妻となるさだめだった。 しかし、古臭い伝統に反発した王太子によって、ありもしない罪をでっち上げられた挙げ句、国外追放となってしまう。 自分の意思とは関係ないところで、運命を翻弄されたアレリは、憧れだった精霊信仰がさかんな国を目指すことに。 そこで、自然のエネルギーそのものである精霊と語り合うことの出来るアレリは、神殿で聖女と崇められ、優しい青年と巡り合った。 一方、古い盟約を破った故国は、精霊の加護を失い、衰退していくのだった。 ※カクヨムさまにも掲載しています。

豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。

下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。 豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。 小説家になろう様でも投稿しています。

婚約破棄されたので四大精霊と国を出ます

今川幸乃
ファンタジー
公爵令嬢である私シルア・アリュシオンはアドラント王国第一王子クリストフと政略婚約していたが、私だけが精霊と会話をすることが出来るのを、あろうことか悪魔と話しているという言いがかりをつけられて婚約破棄される。 しかもクリストフはアイリスという女にデレデレしている。 王宮を追い出された私だったが、地水火風を司る四大精霊も私についてきてくれたので、精霊の力を借りた私は強力な魔法を使えるようになった。 そして隣国マナライト王国の王子アルツリヒトの招待を受けた。 一方、精霊の加護を失った王国には次々と災厄が訪れるのだった。 ※「小説家になろう」「カクヨム」から転載 ※3/8~ 改稿中

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。